首都の名前と、数える範囲
都市篇第八十号は、ガーナの首都アクラです。前号のハーフ・アシニからギニア湾岸を東へたどり、首都まで来ました。
アクラには、中国大陸と台湾の公的資料で一致する三字の漢字表記があります。一方、都市一覧に置く人口は、どこまでを「アクラ」と呼ぶかで大きく変わります。字の出典と人口の境界を、別々の資料で確かめます。
日本語の「アクラ」
日本国外務省のガーナ共和国基礎データは、首都を「アクラ(Accra)」と記します。現在の日本語名をこの片仮名に置く根拠は明確です。
古い日本語の用例もあります。土井晩翠の文章「野口英世博士の生家を訪ひて」は、野口が1928年に亡くなった場所を「ゴールド・コースト州アクラ港」と記しました。青空文庫で読めるのは、1930年12月18日付『東京朝日新聞』の記事を収めた1934年刊行本に基づく翻刻です。原紙を直接確認したものではありませんが、少なくとも翻刻本文は「アクラ」を片仮名で示しています。
今回の国立国会図書館サーチとアジア歴史資料センターなどでの限定的な検索では、同じ都市を指す日本語の歴史的漢字表記を原典で確認できませんでした。未確認は不存在の証明ではありません。漢字形を昔から日本で使われた名として扱わず、継続調査とします。
二つの外交資料にある「阿克拉」
中華人民共和国外交部のガーナ国家概況には、首都として「阿克拉(Accra)」が掲載されています。台湾外交部の国情報も「首都為阿克拉(Accra)」と記します。国名表記は前者が「加纳」、後者が「迦納」と異なりますが、首都の三字は同じです。
どちらも対象がガーナの首都Accraであることを同じ行で照合できます。「阿克拉」は記事の題から音に合わせて組み立てた字ではなく、両方の公的資料に現れる既存の中国語表記です。ただし、中国語圏での使用は、日本語の歴史的漢字表記の証拠にはなりません。
三字の意味を拾って都市の性格を説明することもしません。ここでは地名の音を記す表記として比較します。
首都になった年と、名を付けた人
アクラ都市自治体の沿革によれば、植民地政府の首都は1877年にケープ・コーストからアクラへ移されました。アクラの町議会は1898年に設立され、1961年6月29日に市と宣言されています。首都への移転、自治体の成立、市の宣言は、それぞれ別の出来事です。
1877年は「アクラ」や「阿克拉」が命名された年ではありません。確認した公的資料には、都市の名や漢字三字を選んだ個人は示されていません。首都を決めた行政機関や、中国語資料の発行機関を、そのまま漢字表記の命名者とはしません。
28万4,124人は、どの範囲で数えた人か
ガーナ財務省が公開するアクラ都市自治体の2025年予算書は、2021年の人口を28万4,124人と記します。国勢調査の基準夜は2021年6月27日で、その夜に対象区域にいた人を数える方式です。常住者だけを数えた値ではありません。
この数値が指すのは、現在のAccra Metropolitan Assemblyの行政区域です。自治体の予算書によれば、2018〜19年の再区画を経て、従来の十のSub-Metroから七つの自治体が分かれました。現在の行政区域には、Ashiedu Keteke、Ablekuma South、Okaikoi Southの三つのSub-Metroが残ります。
したがって28万4,124人を、首都の連続した市街地全体やグレーターアクラ州の人口としては読めません。都市名が同じでも、人口の集計単位は時期と資料で変わります。公式サイトの人口欄には、この行政区域の2021年値を採りました。
地図の代表点はGeoNamesのAccra(ID 2306104)にある北緯5.55602度、西経0.19690度です。点は都市の位置を示しますが、上記三地区の境界や重心を示すものではありません。同ページの人口値は今回の国勢調査値の代わりには使いません。
二字に縮めず、三字を採る
都市篇では二字・三字の表記を主流とします。アクラには、対象都市を明示した公的資料に三字の「阿克拉」があります。今回はそれを一字削って新たな二字形を作る根拠がありません。
万国漢字志の暫定制定都市名には「阿克拉」を採ります。制定区分は「創」。三字そのものを本誌が発明したという意味ではなく、中国語圏の既存用例を、日本語の都市索引へ本誌が暫定的に選定する判断です。日本語史料での漢字使用が確認できれば、区分も見直します。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
アクラ
所属国
ガーナ
中国語圏の公的資料で確認した表記
阿克拉
暫定制定都市名
阿克拉――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と選字者は継続調査
採らなかった表記と未解決点
音だけから二字形を新造する案は採りませんでした。また、古い日本語の文章に片仮名で現れる「アクラ港」を、漢字三字の歴史的使用例へ読み替えません。
残る問いは、日本語の地図や新聞原紙にアクラの漢字表記があるか、「阿克拉」の選字を説明する資料があるか、そして異なる時代の都市人口を同じ境界で比較できるかです。見つからなかった資料について断定を急がず、暫定案として公開します。
参考資料
- 外務省「ガーナ共和国基礎データ」、首都アクラ
- 土井晩翠「野口英世博士の生家を訪ひて」、青空文庫の底本翻刻
- 中華人民共和国外交部「加纳国家概况」、首都阿克拉
- 台湾外交部「迦納共和國」、首都阿克拉
- アクラ都市自治体「The History of the Assembly」
- ガーナ財務省「Accra Metropolitan Assembly, Composite Budget 2025」、第4ページ
- アクラ都市自治体「2026 Narrative Statement」、2018〜19年の行政再区画
- ガーナ統計局「2021 Population and Housing Census」、基準夜の説明
- GeoNames「Accra」、都市代表点
- JICA「ガーナ国際回廊改善計画」、アクラとテマ港
- 国立国会図書館サーチ
- アジア歴史資料センター
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第八十一号
次は、アクラの東で港湾と物流を担う都市、テマを調べます。
