人口表の先にある手仕事
前号のニャムトゥグに続いて、トーゴの都市人口表を読み進めます。Voganの次の行には、Bafiloがあります。日本語の現地調査報告を開くと、この名は人口ではなく、機織りや製靴の記述のそばに現れました。
バフィロ。都市の規模を記す統計表と、手仕事を記す研究報告では、同じ町でも見えてくるものが違います。今回は、その日本語名を原頁で確かめ、地名データベースに登録された三字の巴菲洛と照合します。
日本語名は「バフィロ」
和田正平「トーゴ北部諸族の技術誌をめぐる諸問題――パレオニグリティックを中心に」は、『国立民族学博物館研究報告』13巻3号、583~614頁に収録されています。リポジトリの書誌情報が示す発行日は1989年1月27日です。論文の英文要旨には、1978~1979年のトーゴ北部での現地調査に基づくことが記されています。
印刷**606頁(取得したPDFの26頁)**に、**バフィロ(Bafilo)**とあります。町をソコデから北へ位置づける段落で、日本語名と欧文名が併記されています。抽出テキストでは一部が「パフィロ」となりましたが、原頁画像の濁点を確認し、本稿ではバフィロと読みます。
同じ段落には、機織工、製靴職人、鍛冶師、グリオなどの職能集団が到来し、バフィロがトーゴ北部の手工業の中心になったという記述があります。続いて、南部エヴェ族のケンテ・クロスに対する織物の製作地として説明されています。
この記述を読むと、町の名のそばに人の仕事が見えてきます。ただし、論文中の「現在」は報告が書かれた時点の言葉です。今日の都市全体の産業構成や生産量を証明する資料には読み替えません。また、この日本語用例だけから、現地の発音や日本語表記の唯一の正解を確定するものでもありません。
歴史的な漢字表記は未確認
今回の一次報告に載るのは、カタカナのバフィロと欧文のBafiloです。バフィロを漢字で記した日本語の歴史資料・地図や、巴菲洛の日本語使用・提案例は、今回の調査では原典未確認です。
日本語名の用例が確認できたことと、日本語で漢字形が使われていたことは別です。次に扱う漢字別名を、和田の論文に載っていた表記として扱うことはできません。
集落の別名「巴菲洛」
GeoNamesのBafilo(2367656)を開き、個別ページの別名欄で巴菲洛を確認しました。言語コードはzh、言語欄はChineseです。これは一覧や検索結果から補った形ではなく、この集落に実際に登録されている三字です。
項目の分類はP PPL、populated place。行政区域や峠の名称ではなく、町の集落項目として読みます。位置を示す欄は北緯9.35000度、東経1.26667度です。
今回確認できたのは、データベースの掲載形です。別名の登録元、初出、選字者は未確認です。zhという言語コードだけでは、中国大陸や台湾の公的機関が標準地名として採用した証拠にはなりません。中国語圏の公的な都市直接用例は、別に調査する必要があります。
本誌では、掲載された巴菲洛を参考に、日本語の制定都市名として同じ三字を新たに選定する暫定案を示します。字体の置換も、字の追加・省略も行っていません。ただし、中国語別名の登録だけでは、日本語での使用・提案例を必要とする制定区分「既」の根拠にはなりません。
二文字・三文字案の比較
二字への短縮
三字から二字へ短くするには、一字を省く理由が必要です。今回の資料には、その省略を支える二字形は見つかっていません。地名の語源や構造も確認できていないため、どの部分を落としてよいかを推測して略形を作ることは見送ります。
巴菲洛
確認した既存形が三字であり、都市篇の二文字・三文字という標準にも収まります。既存形との対応を保ったまま採れることが、この案の利点です。読みは本稿の日本語名、バフィロとします。
巴・菲・洛の字義を、町の織物や手工業と結びつける根拠は確認していません。漢字の意味から町の由来を作ることも、この三字が現地名の意味を翻訳したものだと断定することもしません。
2022年の都市人口
INSEED『ANNUAIRE STATISTIQUE NATIONAL 2022』の表3.21は、トーゴの都市別居住人口を男女別に示しています。印刷33頁(PDF51頁)のBafilo行は、男性1万1,969人、女性1万1,658人、合計2万3,627人です。男女の和は合計欄と一致します。
表題、列見出し、Bafilo行を原頁画像で照合しました。続く印刷34頁(PDF52頁)の表末尾には、出典としてINSEED、第5回人口・住宅国勢調査(RGPH 5)、人口の空間分布、2022年が記されています。
採るのは、この表が示す都市の人口です。Assoli県全域や自治体全域の人口へ拡張しません。都市の集計境界と行政境界の詳しい対応は、今回の資料だけでは未確定です。
GeoNamesの集落ページにも人口が表示されていますが、その値の基準年と集計範囲を確定できないため、本稿の人口はINSEEDの都市表に統一します。座標は集落ページの表示値を採り、人口の出典とは分けます。外務省の基礎データが示すトーゴの首都はロメであり、バフィロは国の首都ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
バフィロ
所属国
トーゴ
暫定制定都市名
巴菲洛――創
制定状態
暫定制定・日本語漢字用例と漢字別名の登録元は継続調査
編纂綱領第九条の「既」は、日本語で使用または提案された例が確認できる表記です。今回、日本語で使われた適当な漢字形は原典未確認であり、中国語別名の掲載を日本語用例として数えることはできません。
同条の「創」は、既存の適当な表記がなく、本誌が新たに選定した表記です。本稿では、日本語の制定名として採れる既存用例を確認できない状況で、中国語の既存形を参考に、本誌が日本語の制定名として新たに選定するという意味で「創」を暫定的に用います。単なる用例未確認からの自動判定ではなく、都市を同定できる掲載形を参考に、その三字を日本語名バフィロに対応させる選定です。
これは「巴菲洛」という文字列自体を本誌が造語したという主張ではありません。中国語の既存形と、日本語の制定名としての本誌の選定を区別します。字体を調整していないため、区分を得るためだけの変更を加えて「改」とすることもありません。日本語の先行使用・提案例が確認できれば、区分を再検討します。
三字という長さは都市篇の標準に収まります。集落の個別項目で漢字形を確認し、日本語一次報告のBafiloとの対応も確かめました。これを都市同定と参考形の根拠とし、裏づけのない短縮を加えず、日本語の暫定制定名として選定します。
採らなかった表記と未解決点
裏づけのない二字への短縮、新しい字への置換、一字略称は採りません。今回の原頁確認ではバフィロと読めるため、抽出テキストの「パフィロ」を独立した用例としては扱いません。
日本語の歴史的漢字表記、巴菲洛の日本語使用・提案例、漢字別名の登録元・初出・選字者、中国語圏の公的な都市直接用例は継続調査です。都市名の語源と命名者も未確認です。
現地調査報告の日本語名、地名データベースの漢字別名、国勢調査の都市人口。それぞれの資料が答える問いを分けて残します。織物の記述は町を知る入口になりますが、漢字の選字理由や現在の町の姿を、そこから補うことはしません。
参考資料
- 和田正平「トーゴ北部諸族の技術誌をめぐる諸問題――パレオニグリティックを中心に」、『国立民族学博物館研究報告』13巻3号、583~614頁。印刷606頁(取得PDF26頁)の「バフィロ(Bafilo)」と手工業の記述を原頁画像で照合
- 国立民族学博物館リポジトリ、同論文の書誌情報。著者、掲載頁、発行日1989年1月27日を確認
- GeoNames、Bafilo(2367656)の集落個別ページ。分類P PPL、座標、別名欄のzh・Chinese「巴菲洛」を実ページで確認。登録元・初出は未確認
- INSEED『ANNUAIRE STATISTIQUE NATIONAL 2022』、表3.21、印刷33~34頁(PDF51~52頁)。Bafiloの2022年都市人口と続頁の出典を取得PDFの原頁画像で照合
- 外務省「トーゴ共和国基礎データ」、一般事情・首都ロメ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第九十七号
次回の都市は調整中です。同じ人口表の未収録都市を中心に、日本語名と漢字形の根拠を確認してから選びます。
