万国漢字志

都市篇 · コートジボワール

万国漢字志 都市篇 第六十八号|バンジェルビル――三字「班熱城」と四字「班熱維爾」

バンジェルビルはエブリエ潟湖畔にあるコートジボワールの旧植民地首都。2021年国勢調査の都市集落人口は187,192人。

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三字「班熱城」と四字「班熱維爾」

都市篇第六十八号は、コートジボワールの旧植民地首都バンジェルビルです。

中華人民共和国外交部は、この都市を簡体字で班热维尔と記します。繁体字へ置き換えた班熱維爾には、香港の商業刊行物で都市を指す用例があります。

今回の暫定制定都市名は、四字の音写をそのまま採るのではなく、三字の班熱城とします。人名Bingerに対応する班熱を既存表記から保ち、フランス語で「町」を表すvilleの音写部分、維爾を意味訳の城へ改める形です。

ただし、班熱城をバンジェルビルの地名として直接用いた資料は確認できていません。これは万国漢字志が明示的に作る暫定的な改作形であり、歴史的な日本語表記でも、中国語圏の既成表記でもありません。


現代日本語表記は二つある

日本語の公的資料では、表記が一つに統一されていません。

国際協力機構の調査報告書はバンジェルビルを用います。一方、日本国外務省は2014年の総理夫人訪問記録でベンジェルビルと記し、同地の孤児院を紹介しています。

本稿では、前号の次回予告ですでに用いたバンジェルビルを主表記とします。これは一方を誤記として退ける判断ではありません。バンジェルビルとベンジェルビルは、ともに日本の公的機関で確認できる現代のカタカナ表記です。


1935年と1950年もカタカナだった

小林房太郎『世界地名大辞典』中巻再版(1935年)は、この都市をバンジェルヴィルと記します。日本放送協会放送文化研究所『外国地名の呼び方 : 中国,満洲,樺太を除く』(1950年)にも、同じくカタカナのバンジェルヴィルがあります。

ヴィを用いる点は現在のバンジェルビルと異なりますが、いずれも漢字地名ではありません。戦前と戦後の日本語資料で、Bingervilleがカタカナで扱われたことを示す用例です。

国立国会図書館の公開資料と次世代デジタルライブラリーの本文検索では、Bingerville、バンジェルビル、ベンジェルビル、バンジェルヴィル、班熱維爾、班熱城などを照合しました。しかし、範囲を区切った今回の検索では、この都市へ直接使われた歴史的な日本語漢字形を特定できませんでした。

検索で見つからないことは、不存在の証明ではありません。画像だけの地図、本文検索できない資料、別の綴りや音写には未確認の用例が残る可能性があります。このため、歴史表記は登録せず、継続調査とします。


中国外交部の「班热维尔」

中華人民共和国外交部が2015年に掲載した在コートジボワール中国大使館の記事は、表題から本文まで班热维尔を都市名として用います。本文ではLouis-Gustave Bingerを班热と記しています。

この四字形は、班热がBinger、维尔がvilleを受け持つ音写です。中国外交部の記事は都市への直接用例であり、班热と人名Bingerの対応も同じページで確認できます。

日本で通常用いる字体へ直すと、班熱維爾となります。ただし、中国外交部が用いた原表記は簡体字の班热维尔です。班熱維爾を中国政府の原文表記として扱うことはしません。


商業刊行物の「班熱維爾」

繁体字の班熱維爾には、香港で刊行されたフィリップスの2022年オークションカタログに用例があります。コートジボワール出身の画家アブディアの経歴で、2003年に班熱維爾の応用芸術学院を卒業したと記されています。

これは都市を指す公刊物の直接用例ですが、発行主体は政府機関ではなく、国際的なオークション会社です。商業刊行物の用例を、台湾政府の公的表記へ読み替えることはできません。

今回確認した範囲では、台湾政府が班熱維爾を都市名として用いた資料は特定できませんでした。繁体字用例が存在することと、台湾政府用例が確認できることは別です。


ビンガーにちなむ都市名

アビジャン自治地区の公式史は、Bingervilleがコートジボワール植民地初代総督ギュスターヴ・ビンガーへの敬意から名づけられたと説明します。中国外交部の記事は、その人物をLouis-Gustave Bingerと記します。

ビンガーは都市名の由来となった人物です。しかし、本人が都市名を作ったとは限りません。誰がBingervilleという名称を最初に提案し、誰が命名を決定したのかは、確認した資料だけでは確定できません。

また、班热维尔または班熱維爾の漢字を誰が選んだのかも確認できませんでした。都市名の献呈先、都市名の選定者、漢字表記の選定者は、それぞれ別の役割として区別します。


1900年の移転と1901年の改称

コートジボワール政府のグラン・バッサム事業報告は、黄熱病流行を受け、植民地首府が1900年にグラン・バッサムからバンジェルビルへ移されたと説明します。世界銀行が公開するPREMUの環境報告も、バンジェルビルを1900年から1934年までの政治的首都としています。

一方、歴史資料団体Images & Mémoiresの2023年紀要は、1900年12月26日付の命令文を二次的に再録しています。その本文によれば、新しい首府が置かれたAdjaméの町は、1901年1月1日からBingervilleの名を取ることになりました。同じ命令は、当初Bingervilleと名づける予定だったAbidjeanの港が旧名を保つとも定めています。

したがって、行政移転を1900年、改称命令を1900年12月26日、その発効を1901年1月1日として分けて記します。命令文そのものの原本ではなく、2023年の紀要に掲載された再録を参照している点にも留意が必要です。


首都期の終わりと年代の食い違い

アビジャン自治地区の公式史によれば、アビジャンは1933年8月18日の政令を経て、1934年7月1日に植民地首府となりました。これにより、バンジェルビルの首府としての役割は終わります。

複数の行政・事業報告は、バンジェルビルの首都期を1900年から1934年と整理しています。ところが、コートジボワール観光省の政府観光誌『Sublime Côte d'Ivoire』2023年10月号は、1904年から1934年と記します。

ここでは1904年を隠したり、1900年または1901年へ機械的にそろえたりしません。資料の間に開始年の違いがあることを記録します。その違いが生じた理由は、引用した資料だけでは確認できないため推測しません。

現在のコートジボワールの首都はヤムスクロで、実質的首都機能はアビジャンにあります。バンジェルビルは現在の首都ではありません。


報告書の事業地点を示す座標

世界銀行が公開するPREMU環境報告は、バンジェルビルの「site」の地理座標を北緯5度21分、西経3度54分と記します。十進法では北緯5.35度、西経3.9度です。

この報告書は、事業対象となる場所を説明する文脈で座標を示しています。本誌の地図では都市を示す代表点として用いますが、バンジェルビル市域の重心、行政境界から計算した中心点、市役所の位置を示す値ではありません。


都市集落人口は187,192人

コートジボワール国家統計庁の2021年人口・住宅国勢調査に基づく都市化分析は、都市一覧でBINGERVILLEを187,192人と集計しています。基準日は2021年12月14日です。アビジャン市を除く都市人口は一般世帯から得た人数であるという同表の注記も伴います。

本誌の一覧には、都市集落に対応するこの187,192人を載せます。

同じ国勢調査の全体結果では、BINGERVILLEのsous-préfecture/communeに当たる行政範囲の人口は204,656人です。内訳は男性101,397人、女性103,259人です。

187,192人と204,656人は、同じ都市名を含みますが集計範囲が異なります。前者は都市集落、後者は周辺を含むsous-préfecture/communeの人口であり、増減や誤記として扱いません。


「維爾」を「城」へ改める

班熱維爾

中国外交部の班热维尔を日本で通常用いる字体へ直した四字形です。繁体字の班熱維爾にも商業刊行物の直接用例があります。Bingervilleの全体を音で写す既存形として記録します。

ただし、日本語史料で歴史的に用いられた漢字地名であることは確認できず、台湾政府の用例も確認できていません。

班熱城

班熱維爾のうち、Bingerに対応する班熱を残し、villeに対応する音写の維爾を、意味を示す城へ置き換えた三字形です。人名部分の典拠を保ちながら、都市を表す部分を一字にまとめます。

班熱城そのものには、都市名としての直接用例が見つかっていません。このため区分は史ではありません。既存の表記をそのまま採るものでもないため、既でもありません。既存の四字形の構造を明示的に改めることから、制定区分は改とします。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の班熱城を採ります。制定区分は改です。

根拠となる既存表記は、中国外交部が都市へ直接用いる班热维尔と、商業刊行物で確認できる繁体字の班熱維爾です。そこから班熱を保ち、維爾を城へ意味的に置き換えます。

これは歴史的な日本語漢字名の復元ではなく、直接用例のない三字形を既成表記として扱うものでもありません。班熱城は、出典のある四字形をもとに万国漢字志が提示する暫定改作形です。

四字の班熱維爾は、既存の音写形として併記します。三字と四字を同じ由来の二つの形として示し、どちらの漢字選定者も未確認であることを残します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

バンジェルビル

日本国外務省の異表記

ベンジェルビル

中国大陸表記

班热维尔

繁体字の公刊用例

班熱維爾

暫定制定都市名

班熱城――改

制定状態

暫定制定・日本語漢字原典、台湾政府用例、各漢字形の初出と選定者を継続調査


採らなかった表記と未解決点

班熱維爾は、中国外交部の班热维尔に対応し、繁体字の直接用例もある四字形です。しかし今回は、Bingerを受け持つ班熱を保存し、villeを城へ意味訳することで三字にまとめた班熱城を制定形とします。班熱維爾を誤記として退ける判断ではありません。

班熱城には直接用例がありません。日本語の歴史表記、中国語圏の既成表記、台湾政府の公的表記であるかのようには扱いません。

未解決点は、歴史的な日本語漢字表記、班热维尔と班熱維爾の初出および漢字選定者、Bingervilleという都市名を提案・決定した個人、首都期の開始年が1900年と1904年に分かれる理由です。

ルイ=ギュスターヴ・ビンガーは都市名の献呈先として確認できますが、都市名の選定者や漢字形の選定者としては登録しません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第六十九号

次は、ヤムスクロです。

グラン・バッサム、バンジェルビル、アビジャンから現在の法定首都へ進み、コートジボワールの旧首都・現首都の流れを結びます。