三字「布瓦凱」とグベケの村
都市篇第七十号は、コートジボワール中部の都市ブアケです。
中華人民共和国外交部は、この都市を簡体字で布瓦凯と記します。日本で通常用いる字体へ直した布瓦凱を、今回の暫定制定都市名に採ります。
布・瓦・凱の三字は、本誌が目標とする二字・三字の範囲に収まります。ただし、布瓦凱を歴史的な日本語漢字名として使った資料は確認できていません。これは中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ取り込む暫定案です。
都市の前身は、コートジボワール大統領府がGbékékroと記す村でした。首長Gbékéの名を含む地名ですが、現在のBouakéという綴りや、布瓦凯の漢字を選んだ人物までは確定できません。
日本語では「ブアケ」
国際協力機構は、2022年に調印した円借款事業をターボ・コスー・ブアケ電力網強化事業と記します。日本国外務省のコートジボワール基礎データも、同事業名と、アラサン・ウワタラ大学に置かれた日本文化拠点の所在地にブアケを用いています。
このため、本稿の現代日本語都市名はブアケとします。フランス語の綴りはBouakéです。
国立国会図書館サーチと国立国会図書館デジタルコレクションでは、ブアケ、ブワケ、Bouaké、Bouake、布瓦凯、布瓦凱などを照合しました。しかし、範囲を区切った今回の検索では、この都市へ直接使われた歴史的な日本語漢字表記を特定できませんでした。
検索で見つからないことは、不存在の証明ではありません。画像だけの地図、本文検索できない資料、別の綴りや音写には未確認の用例が残る可能性があります。このため、歴史表記は登録せず、継続調査とします。
中国外交部の「布瓦凯」
中華人民共和国外交部が2018年に掲載した在コートジボワール中国大使館の記事は、Bouakéを布瓦凯と記します。高速道路事業の起工式を扱った記事で、布瓦凯をコートジボワール第二の都市と説明しています。
中国領事服務網の国情報にも、空港のある都市として布瓦凯が現れます。単なる検索語や自動翻訳ではなく、中国政府機関が対象都市へ直接用いる三字形です。
日本で通常用いる字体へ直すと、布瓦凱となります。原文の表記は簡体字の布瓦凯であり、布瓦凱を中国政府の原文表記として扱うことはしません。
今回確認した範囲では、繁体字圏の政府機関がBouakéへ布瓦凱を直接用いた資料は特定できませんでした。布瓦凱は、確認済みの布瓦凯を日本向け字体へ変換した本誌の表記です。
三字をそのまま採る
都市篇では二字・三字を主流とします。布瓦凯はもともと三字で、対象都市への公的な直接用例があります。
今回は、三字からさらに削った一字・二字形を作りません。どの音を省き、どの字を残すかを示す直接用例が確認できないためです。
また、文字の意味を都市の性格へ結び付けません。布、瓦、凱はBouakéの音を写すために並ぶ字であり、布地、瓦、凱旋を都市の由来とする資料は得られていません。
前身は「Gbékékro」
コートジボワール大統領府は、Bouakéの前身をGbékékro、すなわち首長Gbékéの村と説明します。Gbékéは1865年にこの地へ定住したバウレ人の首長とされています。
コートジボワール政府の2021年の記事も、伝統首長から首相へ贈られた名Kouagbêkêを、Bouakéの創設者の名と説明しています。政府観光誌は、市内に「老Gbêkê」の記念碑があると紹介します。
これらの資料から、GbékéまたはKouagbêkêが村の創設者で、旧名の献名先だったことは確認できます。しかし、現在のBouakéという名称を誰が提案し、いつ正式に決定したかは、引用した資料だけでは確定できません。
創設者、都市名の献名先、都市名の選定者、漢字表記の選定者は別の役割です。本稿はGbékéを都市名と結び付く人物として記録しますが、Bouakéまたは布瓦凯の命名者とは登録しません。
1865年と別系統の伝承
コートジボワール大統領府は、Gbékéが1865年にこの地へ定住したとします。一方、公的年金機関CGRAEの広報誌を含む別資料には、Gbékékroの成立をより早い時期に置く説明や、Bouakéをバウレ語の「羊」と「乾かす」に結び付ける語源説があります。
後者は、商人が羊皮を乾かした場所だったという伝承です。しかし、大統領府のGbékéの村という説明と、どのような関係にあるかは確定できません。
本稿は、1865年を大統領府が示す定住年として記します。他の年代や民間語源を消しませんが、相互の関係を推測で一本化もしません。
鉄道が結んだ中部の都市
コートジボワール大統領府によれば、ブアケはアビジャンとワガドゥグを結ぶ軸上にあり、ガーナ方面とギニア方面の道路が交わる場所に位置します。1912年にはアビジャン・ニジェール鉄道が通じました。
森林帯とサバンナの間という位置を背景に、カカオ、コーヒー、綿花、米などの集散と食品加工が発展しました。1960年代にはコスー・ダム建設が、ブアケと周辺の農工業開発を後押ししたと大統領府は説明しています。
JICAがターボ、コスー、ブアケを結ぶ電力網強化事業を進めていることも、この都市が中部・北部と周辺国をつなぐ位置にあることを示します。
内戦と再生の記憶
2002年に始まった内戦では、反政府勢力が北部と西部を掌握し、ブアケはその主要拠点となりました。日本国外務省は、同年の騒擾事件から国が事実上二分された経過をコートジボワール略史に記しています。
2025年、コートジボワール政府は独立65周年の公式式典をブアケで開きました。大統領は、ブアケを近年史の痛みと再生、結集、友愛を象徴する都市と位置付けています。
都市の紹介では、交通や人口だけでなく、この分断と再生の記憶も欠かせません。
国連地名データの代表座標
国連地名専門家グループの都市データは、Bouakéの代表座標を北緯7.69650560382891度、西経5.02874072145662度としています。
本誌の地図にはこの値を用います。これは都市を示す代表点であり、市域の重心、行政境界から計算した中心点、特定の庁舎の位置を示す値ではありません。
国連データはBouakéを首都として登録していません。コートジボワールの法定首都はヤムスクロであるため、本誌の首都欄も「いいえ」とします。
都市集落人口は728,733人
コートジボワール国家統計庁の2021年人口・住宅国勢調査に基づく都市化分析は、都市一覧でBOUAKEを728,733人と集計しています。基準日は2021年12月14日です。
同じ資料では、アビジャンに次ぐ規模の都市として読み取れます。中国外交部もブアケを同国第二の都市と説明しています。
一方、同じ国勢調査を用いたGbêkê地域報告では、Bouakéの小郡に相当する、より広い行政範囲の人口として832,371人が現れます。都市集落728,733人と行政範囲832,371人は集計対象が異なります。
本誌の一覧には、都市そのものに近い範囲として、都市集落の728,733人を載せます。二つの数値を増減や誤記として扱いません。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の布瓦凱を採ります。制定区分は創です。
根拠となる既存表記は、中国外交部と中国領事服務網が都市へ直接用いる簡体字の布瓦凯です。そこから凯を、日本で通常用いる凱へ置き換えます。
布瓦凱は無根拠な音当てではありませんが、日本語の歴史的漢字名を継承するものでもありません。中国語圏の既存音写を日本語の都市索引へ新たに取り込むため、既成の日本語表記を示す「既」ではなく「創」とします。
都市名と結び付く人物として、村の創設者Gbékéを記録します。ただし、Bouakéという都市名の選定者と、布瓦凯の漢字選定者はいずれも未確定です。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ブアケ
中国大陸表記
布瓦凯
日本向け字体
布瓦凱
暫定制定都市名
布瓦凱――創
制定状態
暫定制定・日本語漢字原典、繁体字圏の直接用例、都市名と漢字表記の選定者を継続調査
採らなかった表記と未解決点
布瓦凯は、中国政府機関が都市へ直接用いる簡体字形です。本稿では原文形として保存し、日本向けの制定形は布瓦凱とします。
布瓦凱は、布瓦凯を日本で通常用いる字体へ直した形です。今回確認した範囲では、歴史的な日本語漢字表記や、繁体字圏の政府機関による都市への直接用例は特定できませんでした。
未解決点は、歴史的な日本語漢字表記、布瓦凯の初出と漢字選定者、GbékékroからBouakéへ移る過程と正式な改称時期、Bouakéという都市名を提案・決定した人物、1865年説と別年代・民間語源の関係です。
Gbékéは村の創設者かつ旧名の献名先として確認できますが、都市名または漢字形の選定者としては登録しません。
参考資料
- 国際協力機構「コートジボワール向け円借款貸付契約の調印」
- 外務省「コートジボワール共和国 基礎データ」
- 中華人民共和国外交部「駐コートジボワール大使、ティエビス-ブアケ高速道路事業の起工式に出席」
- 中国領事服務網「科特迪瓦」
- コートジボワール大統領府「District Autonome de la Vallée du Bandama」
- コートジボワール政府「Cohésion sociale: le Premier Ministre Patrick Achi salue la chefferie traditionnelle du Gbêkê」
- コートジボワール政府観光誌『Sublime Côte d'Ivoire』2023年3月号
- コートジボワール公務員退職者総合基金『Élan Social』第36号
- コートジボワール政府「Bouaké célèbre 65 ans d'indépendance sous le signe de l'unité et de la sécurité」
- コートジボワール国家統計庁『RGPH 2021 Analyse thématique, Tome 13: Urbanisation』
- コートジボワール国家統計庁『Monographie de la région du Gbêkê』
- 国連地名専門家グループ「City Details - Bouaké」
- 国立国会図書館サーチ「Bouaké」検索
- 国立国会図書館デジタルコレクション「ブアケ」検索
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第七十一号
次は、コロゴです。
ブアケから北へ進み、同じ2021年国勢調査で国内有数の人口規模を持つ北部の拠点都市を調べます。
