万国漢字志

都市篇 · 西サハラ

万国漢字志 都市篇 第二十六号|ブジュドゥール――四字「布支杜爾」を縮めない

ブジュドゥールは西サハラの大西洋岸にある都市で、灯台の周囲にあった漁村から発展し、2024年人口は5万7,360人である。

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四字の直接用例を優先する

都市篇第二十六号は、西サハラの大西洋岸にある都市ブジュドゥールです。

国連の中国語文書は、この都市を四字の布支杜尔と記しています。二字・三字を主流とする都市篇でも、資料にない形へ縮めることはしません。

今回は、簡体字の尔を日本で用いる字体の爾へ直した布支杜爾を、暫定制定都市名に採ります。

日本語史料に定着した漢字形は確認できていません。したがって、これは古い日本語表記の復元ではなく、中国語圏の既存用例を根拠にした暫定案です。


日本語では「ブジュドゥール」

外務省の海外安全情報は、西サハラ地域について、ラユーン、スマラ、ブジュドゥール、ブクラ、ダフラを都市として列挙しています。JETROのモロッコ電力分野の報告書も、風力発電事業の都市名にブジュドゥールを用います。

本稿の現代日本語都市名は、このカタカナ形に合わせます。

国立国会図書館サーチの書誌情報を「ブジュドゥール」と「布支杜爾」で検索した結果は、いずれも0件でした。今回確認した日本語官公庁資料にも、この都市の漢字表記は見つかっていません。ただし、書誌検索の0件は表記の不存在を意味しません。とくに、後述するボジャドール岬の日本語表記と、現在の都市名を混同しない追加調査が必要です。


国連文書にある「布支杜尔」

2022年の国連総会第四委員会会議録の中国語版は、アガディール、阿尤恩、布支杜尔、達赫拉を「都市」として並べています。同じ会議録には、布支杜尔から阿尤恩までの移動経路と、国際ロータリーのブジュドゥール支部も記されています。2023年の同委員会会議録にも布支杜尔が現れます。

南アフリカ常駐代表が国連安全保障理事会議長へ送付した、ポリサリオ戦線代表からの書簡を収める文書S/2022/414の中国語版は、布支杜尔市という形を繰り返し用います。政治的主張を含む書簡ですが、表記については省名や岬名ではなく、居住地としての都市を指す直接用例です。

中国大陸の簡体字形布支杜尔を日本字体へ移すと、布支杜爾となります。変更するのは字体だけで、四字の順序と音写の構造は保ちます。


二字・三字へ切らない

布支、支杜爾、布杜爾などへ短くすれば、二字・三字にはできます。しかし、いずれもブジュドゥールを指す地名としての直接用例を確認できませんでした。

長い表記から一字を落とすだけでは、どの音を残し、どの音を省くかの根拠がありません。既存用例の裏づけがない短縮は、史料の整理ではなく新たな造語になります。

都市篇の二字・三字優先は、根拠のある短い形を探す方針です。短ければ根拠を問わないという意味ではありません。この号では、国連文書にある四字形を崩さないことを優先します。


「創」が意味するもの

布支杜爾という字の並びは、万国漢字志が無から作ったものではありません。先行する国連中国語文書の布支杜尔を、日本で用いる字体へ直しています。

それでも制定区分を創とするのは、日本語史料上の既存漢字形を継承するのではなく、他言語圏の表記を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。

本稿の創は、「世界で初めて四字を選んだ」という意味ではありません。先行用例と日本語側の採用判断を区別するための表示です。


岬の航海史と都市名を分ける

ブジュドゥールの海岸には、ポルトガル語でCabo Bojadorと呼ばれる岬があります。ポルトガル政府観光局の日本語ページは、航海者ジル・エアネスが1434年にボジャドール岬を越えたと紹介しています。

この出来事は大航海時代の重要な航海史ですが、ジル・エアネスが現在の都市名を作ったことを示す資料ではありません。岬を越えた人物と、都市または地名の命名者は分けて扱う必要があります。

GeoNamesの都市項目はBoujdourの異名としてCabo Bojadorも掲げています。一方、日本語資料に現れるボジャドールは、都市ではなく岬を指す場合があります。岬名のカタカナ用例を、そのまま都市の歴史的漢字表記へ数えることはできません。

Boujdourという都市名の最初の命名者と、布支杜尔の四字を最初に選んだ人物は確認できません。都市名と漢字表記の命名者は、いずれも未確定とします。


灯台周辺の漁村から都市へ

モロッコ高等計画委員会地域局の2010年概況は、ブジュドゥールがもともと灯台の周囲にできた漁村だったと説明しています。同資料によれば、スペイン当局による1974年の人口調査で、ブジュドゥールの住民は約600人でした。

モロッコ内務省、ブジュドゥール県、ブジュドゥール自治体の名義で作成された2012年の自治体概況は、ブジュドゥール自治体が1992年に旧農村コミューンから設置されたと記しています。県の設置年である1976年とは区別が必要であり、これらの年だけから都市そのものの創建年を決めることはできません。

同資料は、2011年の海面漁業について漁業者2,331人、漁船765隻、魚市場を掲げ、当時進行中の事業として新港と港湾工業区域を挙げています。数字は2012年資料の時点値であり、漁業と港湾が当時の主要な産業・整備項目だったことを示します。

2024年国勢調査の地域報告は、県人口の87.73パーセントがブジュドゥール自治体に集中すると示しています。歴史的な岬の名だけでなく、多数の住民が暮らす現在の都市として捉える必要があります。


西サハラという所在地

国連は、西サハラを1963年から非自治地域の一覧に載せています。1991年には、国連安全保障理事会が国連西サハラ住民投票ミッションを設置しましたが、最終的な政治的地位は確定していません。

外務省の海外安全情報も西サハラ地域として扱い、ブジュドゥール市内ではモロッコ当局により比較的安定が保たれていると説明しています。

公式サイトで所在地を西サハラとするのは、国連と外務省の地域区分に合わせるためです。人口と自治体史にはモロッコ側の行政資料を用いますが、それを領有権の確定資料とは扱いません。

ブジュドゥールはモロッコ側の行政区分では県の中心ですが、国連統計部がWestern SaharaのCapital cityとして掲げるのはEl Aaiúnです。そのため、公式サイトの首都欄は「非首都」とします。


人口と位置

モロッコ高等計画委員会の2024年国勢調査報告によれば、2024年9月1日時点のCommune de Boujdourの人口は5万7,360人です。

同じ報告のブジュドゥール県全体は6万5,381人で、自治体人口は県人口の87.73パーセントを占めます。都市一覧には県全体ではなく、自治体の5万7,360人を採ります。

この人口は、モロッコ政府機関が自らの行政区分で集計した数値です。西サハラ全体の人口や国連推計とは範囲と作成主体が異なるため、政治的地位の根拠には用いません。

GeoNamesのBoujdour(ID 2463029)が示す都市地点は、北緯26.13073度、西経14.48513度です。ブジュドゥール県全体の代表点ではなく、市街地の地点を公式サイトの地図表示に使います。


三つの表記を分ける

布支杜爾

国連中国語文書の布支杜尔を日本字体へ直した四字形です。

暫定制定都市名に採ります。

布支杜尔

国連の中国語文書が都市に直接用いる簡体字形です。

日本語側へ移す際だけ、末字を爾へ直します。

ブジュドゥール/ボジャドール岬

外務省などが用いる現在の都市名はブジュドゥールです。

日本語のボジャドール岬は航海史上の岬を指します。関連する地名ですが、都市の異表記として無条件に統合しません。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の布支杜爾を採ります。

根拠は、国連中国語文書に布支杜尔市という都市への直接用例があり、別の国連文書でも複数都市の一つとして継続して使われていることです。簡体字から日本字体への置換以外に、文字の追加や削除は行いません。

日本語の歴史的漢字表記、根拠のある二字・三字形、都市名の命名者、漢字を選んだ人物が判明した場合は再検討します。それまでは、史料にない短縮を作らず四字形を維持します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ブジュドゥール

所在地

西サハラ

国連中国語文書で確認した漢字形

布支杜尔

暫定制定都市名

布支杜爾――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

二字の布支、三字の支杜爾や布杜爾は、ブジュドゥールを指す直接用例を確認できないため採りません。

未解決点は、日本語史料における都市の漢字表記、二字・三字の直接用例、Boujdourという名称の確実な語源と命名者、布支杜尔の漢字を最初に選んだ人物です。

また、ボジャドール岬の日本語用例と、現在の都市ブジュドゥールの表記史は分けて調査を続けます。岬の航海史から都市の創建者や命名者を推定しません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二十七号

次は、ダフラです。

大西洋岸をさらに南へ進み、細長い半島に発達した都市ダフラの表記史と、二字・三字の候補を調べます。