万国漢字志

都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第四十七号|カブルス――四字「卡布魯斯」と二つの地名由来

カブルスはセネガル南西端、ディエンベリング・コミューンに属するカブルス郡の庁所在地。三地区から成る古い村で、反植民地抵抗史に名を残すアリーヌ・シトエ・ディアタの出生地として知られる。

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カップスキリングの南にある古い村

都市篇第四十七号は、セネガル南西端の村、カブルスです。

前号のカップスキリングから南へ進むと、ギニアビサウ国境に近いカブルスへ入ります。海浜観光地として成長したカップスキリングより古く、周辺の土地利用と地域史を考えるうえで重要な村です。

中国語圏の旅行情報には、簡体字の、

卡布鲁斯

と、繁体字の、

卡布魯斯

が見えます。いずれもCabrousseまたはKabrousseを四字で写した形です。

都市篇は二字・三字を主流としています。しかし、確認できた直接用例を切り縮める理由はありません。今回は四字の形を残しながら、村の名そのものに伝わる二つの由来説を読みます。


「カブルス」は前号から引き継ぐ読み

セネガル国土整備庁の公式地理データは、村名をCabrousseと記します。セネガル内務省の行政資料も、郡名に同じCabrousseを用いています。一方、資料によっては語頭をKにしたKabrousseも使われます。

日本語の公開資料については、国立国会図書館サーチと一般公開された政府・研究機関の文書を、カブルス、カブルース、カブロス、Cabrousse、Kabrousseに分けて確認しました。今回の範囲では、この村を直接指す定着した日本語表記を確認できませんでした。

前号の次回予告はCabrousseをカブルスと読みました。本稿はシリーズ内の継続性を保つため、この読みを引き継ぎます。ただし、公的な日本語標準名が確定したという意味ではありません。より明確な日本語用例が見つかった場合は、読みを再検討します。

日本語による歴史的な漢字表記も確認できませんでした。これは不存在の証明ではないため、歴史表記は未収録とし、旧フランス領西アフリカの地誌、海図、水路誌の調査を続けます。


中国語圏の四字「卡布魯斯」

中国大陸向けExpediaは、Kabrousseの宿泊地ページを卡布鲁斯と表示します。香港向けAirbnbも、所在地Kabrousseを卡布魯斯と記しています。台湾向けAirbnbの地域ページにも同じ繁体字形が現れます。

「鲁/魯」は字体の対応です。本稿では正字体へそろえ、四字の卡布魯斯を比較の基準にします。

ただし、これらは旅行予約サービスの表示です。中華人民共和国政府、台湾当局、国連などが地名標準として定めた形は、今回の資料から確認できません。自動翻訳または事業者の翻訳である可能性も残ります。

Club Med中国の案内は、カップスキリング施設の住所にKABROUSSEとラテン字のまま記しています。中国語圏でも、漢字形が一つに統一されているとは言えません。

したがって、卡布魯斯は日本語の歴史名でも、公的に確定した中国語標準名でもありません。中国語圏に直接用例がある四字形を、万国漢字志の都市索引へ暫定的に取り込むものです。


村であり、郡庁所在地でもある

セネガル国土整備庁の公式KMLは、CabrousseをChef-lieu d'arrondissement、すなわち郡庁所在地に分類しています。

カブルス郡はウスイ県の行政区画です。村としてのカブルスはディエンベリング・コミューンに属し、独立したコミューンではありません。国の首都でもありません。セネガル共和国の首都はダカールです。

この違いは重要です。郡の名、郡庁所在地の村、コミューン全体の人口を一つにまとめると、カブルスの規模を大きく誤ります。

公式KMLは村落点を北緯12.35504167190211度、西経16.71612249638894度に置いています。小数第六位へ丸めた北緯12.355042度、西経16.716122度を地図に使います。これは集落を示す点であり、カブルス郡やディエンベリング・コミューンの境界中心ではありません。


三地区を合わせて3,840人

セネガル政府の地方給水・衛生計画は、カブルスを三つの公式集落行に分けています。

  • カブルス・モソール 1,782人
  • カブルス・カディアカイ 653人
  • カブルス・ニアル 1,405人

いずれも2011年の推計値です。三地区を合計すると、

3,840人

となります。本稿と都市一覧は、村を構成する三地区の合計としてこの値を採ります。資料そのものに「Cabrousse合計3,840人」という行があるのではなく、三つの掲載値を本稿で加算した数字です。

同資料が示す2015年値は推計ではなく将来予測で、三地区合計4,935人です。より新しい2023年国勢調査ではディエンベリング・コミューン全体の人口を確認できますが、今回取得できた公表資料からカブルス三地区の確定値を再構成できませんでした。そのため、年は古くても範囲を明示できる2011年値を採ります。


最初の名「エレ」と三つの地区

フランス国立開発研究所が公開する参加型地図研究は、住民への集団・個別聞き取りをもとに、村の歴史を記録しています。

その調査によれば、現在のギニアビサウから来たエレという人物が、稲作、漁業、狩猟に適した場所を見つけ、家族とともに定住したと伝えられます。村の最初の名もエレだったとされます。

最初の地区は、エレの長男の名に由来するカディアカイです。その後、移住者の増加によってニアルとモソールが加わり、現在の三地区が形づくられたと説明されています。

これは住民の聞き取りを整理した村の伝承です。創建文書や同時代史料で確認した事実とは区別する必要があります。エレは村の創建者として伝わる人物ですが、現在名Cabrousseを作った人物とは確認できません。


Cap-Roxoか、cases de brousseか

同じ参加型地図研究は、Cabrousseという名を植民地期の変形とし、住民が語る二つの説明を記録しています。

第一は、セネガルとギニアビサウの国境近くにある岬、Cap-Roxoとの関係です。岬名の音が変化してCabrousseになったという説明です。

第二は、フランス語のcases de brousseまたはcases dans la brousse、つまり「茂みの家々」「森林のなかの家々」に結びつける説明です。聖林が点在する、かつての森林環境を映した名だとされます。

どちらも住民の語りをもとにした由来説で、語形変化を示す同時代文書は提示されていません。二説の一方を確定語源とはしません。また、岬Cap-Roxoと前号のCap Skirringは別の地名です。

現在名を誰が最初にCabrousseと記したかも未確認です。地名の由来に関わる人物と、名称を実際に定めた人物を分けるため、都市名の命名者は登録しません。


アリーヌ・シトエ・ディアタの出生地

セネガル国立公文書館は、反植民地抵抗の象徴であるアリーヌ・シトエ・ディアタが、1920年ごろカブルスに生まれたと紹介しています。セネガル通信社も、彼女をカブルス出身の国民的な歴史人物として伝えています。

1943年、植民地当局は彼女をカブルスで逮捕しました。のちにトンブクトゥへ送られ、1944年に亡くなったとされています。現在も船、競技場、大学施設などにその名が残ります。

彼女はカブルスを代表する著名人物ですが、村名や漢字形の命名者ではありません。人物一覧へ加える場合も、「出生地ゆかりの人物」と「名称を作った人物」を別項目として扱う必要があります。


二字・三字へ切らない

卡布魯斯

四文字です。簡体字の卡布鲁斯と繁体字の卡布魯斯が、CabrousseまたはKabrousseを直接指す旅行情報に現れます。

卡布斯

三文字に収まりますが、「魯」を落とした形です。今回確認した資料に、カブルス村を指す直接用例はありません。

布魯斯

三文字ですが、語頭の音を落とし、人名Bruceなどにも広く使われる並びです。対象の村を特定しにくくなります。

卡布

二文字ですが、原名の後半を大きく省きます。カブルス村の既存略称として確認できません。

二字・三字を主流とする方針は、出典にない短縮形を作る理由にはなりません。直接用例を保つ四字の卡布魯斯を採ります。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の卡布魯斯を採ります。

根拠は、中国語圏でカブルス村を直接指す卡布鲁斯/卡布魯斯が使われていることです。簡体字の「鲁」だけを正字体の「魯」へ直し、字順と文字数は変えません。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏の現行用例を日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。四字の文字列そのものを本稿が初めて作った、という意味ではありません。

漢字形を最初に選んだ人物と時期は確認できません。旅行サービスの掲載担当者や翻訳機能を命名者とみなすことはできないため、漢字表記の命名者も未確認とします。


万国漢字志の暫定案

本稿で用いる都市名
カブルス

所属国
セネガル

中国語圏で確認した場所名
卡布鲁斯/卡布魯斯

暫定制定都市名
卡布魯斯――創

制定状態
暫定制定・日本語原典と命名史を継続調査


採らなかった表記と未解決点

三字の卡布斯と布魯斯、二字の卡布は、カブルス村を直接指す用例を確認できないため採りません。ラテン字のCabrousseとKabrousseはどちらも実際に使われますが、どちらか一方を漢字形の根拠から排除する必要はありません。

未解決点は、日本語で定着した現代表記と歴史的漢字表記、中国語の公的標準名、Cabrousseの二つの由来説を判定できる同時代史料、現在名を最初に記録または制定した人物、漢字形の考案者です。

人口は2011年の三地区推計値を合算したもので、2023年国勢調査の村別確定値ではありません。座標は公式地理データの集落点であり、郡やコミューンの境界中心ではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第四十八号

次は、カラバーヌです。

カザマンス川河口の島へ進み、港町として使われた表記と植民地期の記録を調べます。