万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百九十七号|カディス――同じ冊子の「的」と「迪」――

公式中国語冊子に併存する加的斯と加迪斯を比べ、古名や県名と区別して加的斯を暫定採用する。


同じページの二つの字

スペインの観光機関が出す中国語の学習案内を開くと、9ページの都市紹介の見出しに「加的斯」とあります。その下の紹介文では「加迪斯」。同じページに「的」と「迪」が並びます。Turespañaの中国語冊子

どちらかを勝手に誤植と決めず、実際に載る字を残して比較してみます。対象はスペインのカディス市、Cádiz、INE自治体コード11012です。同名の県や湾を指す場合とは分けて扱います。


歴史表記

カディス市の観光部門が公開する「Época romana」は、フェニキア人の植民都市を Gadir、ローマ期の都市を Gades と表記します。また、かつて島を隔てていた水路の向こう側への市街拡張について説明しています。市のローマ期解説

直接確認したのは、現在の市の歴史解説です。古代の碑文・貨幣銘文、古典著作の原文・写本や、中世のアラビア語史料は今回未見です。Gadir と Gades の綴りを読めることは、当時の漢字表記を確認したことにはなりません。

古代の島々と市街地、広域の Hispania、現在のカディス県、そして一自治体としての Cádiz は、それぞれ範囲が違います。古代都市の説明を現市域の境界の証拠とせず、県全体を一つの古代都市とみなすこともしません。歴史上の地域・時代ごとの名称と、現在の人口を数える単位を分けます。

日本語の歴史的漢字表記は原典未確認です。現代の「加的斯」を、古代や中世からの継承名と認定する根拠は今回得ていません。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトは、都市の日本語見出しを「カディス」、原語名を Cádiz としています。本稿もこのカナを採ります。公式日本語観光案内

取得した公式ページでも、自治体名と県名がともに Cádiz と表示されます。同じ綴りがあるというだけで両者を同じ範囲にせず、本稿の人口は自治体コードで固定します。別の国にある同綴りの地名も、スペインの11012へ自動的には結びつけません。


中国語圏その他の表記との比較

Turespaña刊の中国語冊子『在西班牙学习西班牙语』は、奥付に出版主体とNIPO番号086-18-013-9を載せます。印刷9ページでは都市紹介の見出しと写真の説明に「加的斯」、本文には「加迪斯」があります。確認したのは公式PDFを直接取得して得た本文テキストで、ページ画像は未確認です。同冊子、奥付2ページ・都市紹介9ページ

都市紹介という文脈で二つの形が用いられていることは確認できますが、どちらが先に作られたか、誰が選んだか、公定名かどうかは、この冊子からは分かりません。NIPO番号中の18だけを、このPDF版の確定した刊行年月として扱うことも控えます。

別に、中国駐スペイン大使館の2007年9月18日付の訪問報告にも「加的斯港」とあります。港を訪れた活動についての一次発表であり、市域人口や港湾区域の境界を示す資料ではありません。大使館の訪問報告

本誌は「加的斯」を同じ字形で、省略せず採ります。日本語で用いる字形への置換も不要なため区分は「既」です。「加迪斯」も同じ冊子の現代用例として残し、両者を古名と新名という関係にはしません。


二文字・三文字案の比較

加的斯

都市紹介の見出しで直接確認した三字です。ただし、日本語の通常の音読みをつなげたカ・テキ・シなどの読みから、カディスという音をそのまま得ることはできません。「的」をディ、「斯」をスと読ませるにはカナによる指定が必要です。

加迪斯

同じ9ページの本文に直接用例がある三字です。これも現代の「既」の候補ですが、日本語で「迪」をディと自然に読めるわけではありません。本誌では見出しと写真説明にある「加的斯」を採り、この形は比較候補に残します。表記頻度の全体調査を行って多数派を決めた結果ではありません。

加斯

「加的斯」から「的」を省く、本誌の二字の「改」案です。日本語ではカ・シなどとなり、短くしてもカディスに近い読みを自動的に得られません。中間の音を示す字を失うため採りません。この二字の実際の都市略称は未確認です。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

カディス(Cádiz)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

加的斯――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

INE年次人口センサス表68065による2025年1月1日の通常居住者人口は110,123人。Sexo=Total・Periodo=2025、自治体コード11012の municipio 全域です。カディス県、カディス湾周辺の自治体群、都市圏、港湾の利用人口や旧市街だけの数字ではありません。INE表68065

使用したのは2026年11月7日保存版です。公表日は2025年12月2日、対応PXの作成日表示は2026年4月30日。保存CSVのSHA256は 9e37188faa63aa86e7a8648469834beaa2e728e5338e3364ef1ce4685178d419、該当原行は物理26687行です。

同じ保存CSVで11004は Algeciras という別自治体です。Cádiz にそのコードを付けません。国・現代名・11012の対応を保持し、代表点は選定資料のGeoNamesの位置を継承します。独立した境界ポリゴンの版や、古代の海岸線との厳密な照合は未確認です。


採らなかった表記と未解決点

「加迪斯」は直接読めた現代用例であり、本誌が作った異体の案ではありません。今回は「加的斯」を選びますが、この選択を中国語の統一表記を定める行為とはしません。「加斯」は本誌による短縮案としてのみ残します。

日本語の歴史的漢字原典、漢字表記の初出・命名者、Gadir・Gadesの当時の史料との照合は継続調査です。今回の冊子を読んだことと、古代都市や県や湾の全体を歴史的に同定できたことを、同じ成果には数えません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第三百九十八号

第三百九十八号はRoquetas de Marを取り上げます。