島と村を同じ名で呼ぶ
都市篇第四十八号は、セネガル南西部の島にある村、カラバネです。
カザマンス川が大西洋へ注ぐ河口に、同じ名のカラバネ島があります。マングローブに覆われた島の北岸に村があり、十九世紀には交易と植民地行政の拠点になりました。
中国大陸向けの旅行案内には、島を指す、
卡拉班岛
という形が見えます。島を表す一般名詞の「岛」を除けば、地名本体は三字の卡拉班です。
今回は、島全体と村の位置を区別しながら、この三字を都市索引へ取り込めるかを考えます。
「カラバーヌ」から「カラバネ」へ
前号では次回の都市をカラバーヌと予告しました。これはCarabaneの綴りから置いたシリーズ内の仮の読みでした。
その後、日本語の公的資料を調べると、国際協力機構(JICA)の2025年報告書が、新政権の港湾整備構想を説明するなかでカラバネ港と記していました。在セネガル日本大使館の2013年報告には、カザマンス川河口の寄港地を指すカラバンという形もあります。
どちらも日本語の法定標準名を定めた資料ではありませんが、同地の港・寄港地を直接指す日本の公的機関の用例です。本稿と都市一覧では、新しいJICA資料の表記から施設種別の「港」を外したカラバネを用い、カラバンを異表記として記録します。予告のカラバーヌは、公的用例を確認する前の仮の読みだったため採りません。
セネガル国土整備庁の公式地理データは、村をKarabaneとKで記します。一方、セネガル政府が提出したUNESCO世界遺産暫定一覧の資料は、島をCarabaneとCで記します。どちらも現在使われる綴りであり、KとCの一方だけを誤りとはしません。
国立国会図書館サーチでは、1946年、1948年、1956年、1957年の海図にCarabaneの停泊地が収録されていますが、表記はラテン字です。今回確認した公開地図資料、政府・研究機関の文書から、日本語による歴史的な漢字表記は見つかりませんでした。これは不存在の証明ではないため、歴史表記は未収録とします。
中国語圏の「卡拉班島」
Club Med中国のアフリカ旅行案内は、カップスキリングから訪れる島を卡拉班岛と表示しています。中国語版のセネガル世界遺産一覧にも、繁体字の卡拉班島が見えます。
「岛/島」は字体の違いです。いずれも固有名の卡拉班に、地形種別を示す「島」を加えた四字形と読めます。中国語の記事本文では、歴史上の交易拠点を三字の卡拉班だけで受ける用例も確認できます。
ただし、Club Medは旅行事業者、中国語版Wikipediaは共同編集型百科事典です。UNESCO世界遺産センターの原資料そのものはフランス語のL'île de Carabaneで、中国語の卡拉班島が、セネガル政府や国連によって公的な中国語標準名に定められたとは確認できません。
したがって、卡拉班島は中国語圏で対象を直接指す現行用例として参照しますが、日本語の歴史名や国際機関の公式中国語名とは扱いません。
島の座標と村の座標
UNESCO世界遺産暫定一覧は、約57平方キロメートルのカラバネ島全体を文化遺産候補として扱い、島を代表する座標を掲げています。
都市一覧で必要なのは、島の中央ではなく村落の位置です。セネガル国土整備庁の公式KMLは、Karabaneを集落として登録し、点を北緯12.55794220410567度、西経16.70296445112138度に置いています。
本稿では小数第六位へ丸めた北緯12.557942度、西経16.702964度を使います。これは同名島の輪郭中心ではなく、村を示す点です。
現在のカラバネは、ジガンショール州ウスイ県カブルス郡のディエンベリング・コミューンに属する村です。セネガル共和国の首都ではありません。現在の首都はダカールです。
2023年国勢調査で670人
セネガル国家統計・人口経済分析庁(ANSD)の2023年国勢調査は、CARABANEを村・地区・小集落の単位で収録し、人口670人を掲げています。内訳は男性356人、女性314人、109世帯、100コンセッションです。
この行は、ジガンショール州、ウスイ県、カブルス郡、ディエンベリング・コミューンの下にあるCARABANE集落を示します。同名島全体の人口や、観光客・季節滞在者を含む最大滞在人口ではありません。
地方給水・衛生計画には、2011年の推計値614人と、2015年の将来予測793人もあります。しかし、基礎人口と増加率から作った計画値であり、より新しい国勢調査の集落行を確認できました。都市一覧には2023年・670人を採ります。
過去の計画値より新しい国勢調査値が小さい理由は、公開資料だけでは確定できません。統計範囲や人口移動を推測で説明せず、調査年と集落単位を明示します。
1836年の交易拠点
1836年1月22日の条約によって、カラバネ島はフランスへ譲渡されました。セネガル文化当局が提出したUNESCO資料は、この年にフランスの交易拠点が置かれ、カザマンスの初期の植民地行政中心になったと説明しています。
1852年には、行政官エマニュエル・ベルトラン・ボカンデのもとで都市計画が整えられました。のちにカトリック伝道所、教会、商館倉庫、流刑施設などが建てられ、その遺構が島に残ります。
UNESCO資料は、行政中心としての役割が1904年にジガンショールへ移ったと要約します。一方、地域行政史の研究では、十九世紀後半にセディウとカラバネの管轄が統合・分割を繰り返したことも示されています。したがって、1836年から1904年まで一貫した「カザマンスの首都」と単純化せず、時期によって下カザマンスなどの交易・行政拠点だったと記します。歴史的な行政拠点と、現在の国の首都は区別します。
ボカンデは都市計画と交易拠点の形成に関わった人物です。しかし、CarabaneまたはKarabaneという地名を作った人物ではありません。有名な人物が都市整備に関わった事実と、都市名の命名者を混同しないため、命名者としては記載しません。
三つの語源説
カラバネの語源は確定していません。地名研究を引く資料には、少なくとも三つの説明があります。
一つは、ウォロフ語のkarabané、「よく話す者」に結びつける説です。
二つ目は、ポルトガル語のcasaとacabaを組み合わせ、「家々が終わる場所」と読む説です。ただし、この説明は村が植民地行政の中心になった歴史と結びつけた後世の解釈である可能性があります。
三つ目は、karam akam、「川の向こう側」に由来するという説です。
いずれも、名称が成立した時点の文書によって決着していません。Kで始めるKarabaneは地域言語、Cで始めるCarabaneはポルトガル語またはフランス語との関係を想起させますが、綴りだけで語源を確定することもできません。
現在名を最初に定めた個人や機関、時期は未確認です。都市名の命名者は登録しません。
「島」を制定都市名に含めるか
卡拉班島
中国語圏で同名島を直接指す四字形です。島全体を示すには明確ですが、村の都市名としては地形種別まで含みます。
卡拉班
三文字です。卡拉班島から一般名詞の「島」を外した固有名部分で、中国語の記事本文にも歴史上の拠点を指す用例があります。ただし、確認できた出典はいずれも非公的であり、島と村が同名であることを本文で説明したうえで、都市索引の暫定見出しに使う案です。
卡班
二文字にできますが、「拉」を落とした形です。カラバネの村または島を指す直接用例は確認できません。
拉班
これも二文字ですが、語頭を落とします。対象を識別できる既存略称ではありません。
今回は二字へ機械的に縮めず、直接用例のある固有名部分を保った三字の卡拉班を採ります。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の卡拉班を採ります。
根拠は、中国語圏の非公的な旅行案内と共同編集型百科事典に、島を直接指す卡拉班岛/卡拉班島があり、本文でも地名本体が三字の卡拉班として使われていることです。都市一覧では村を扱うため、地形種別の「島」を見出しから外します。中国語の公的標準名を採録したのではなく、出典の限界を明示した万国漢字志の暫定案です。
制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字名を復元するのではなく、中国語圏の現行用例を参考に、万国漢字志の日本語都市索引へ新たに取り込むためです。卡拉班という文字列自体を本稿が初めて作った、という意味ではありません。
漢字形を最初に選んだ人物と時期は確認できません。中国語の記事編集者や旅行案内の翻訳担当者を命名者とみなすことはできないため、漢字表記の命名者も未確認とします。
万国漢字志の暫定案
本稿で用いる都市名
カラバネ
所属国
セネガル
中国語圏で確認した島名
卡拉班岛/卡拉班島
暫定制定都市名
卡拉班――創
制定状態
暫定制定・日本語原典と命名史を継続調査
採らなかった表記と未解決点
四字の卡拉班島は同名島を示す比較表記として残し、村の制定都市名には地形種別を除いた三字を採りました。二字の卡班と拉班は、対象を直接指す用例がないため採りません。
未解決点は、カラバネとカラバンのどちらが日本語で定着するか、歴史的な日本語漢字表記、中国語の公的標準名、三つの語源説を判定できる同時代史料、現在名と漢字形の命名者です。機械翻訳型の旅行記事に見える卡拉巴内岛は別系統の四字形ですが、信頼できる直接出典として採りません。
人口670人は2023年国勢調査の集落行であり、島全体の人口ではありません。UNESCO資料の座標は島全体、都市一覧の座標は公式KMLの村落点を示します。
参考資料
- UNESCO世界遺産センター「L'île de Carabane」暫定一覧
- セネガル国土整備庁「Ziguinchor ND-28-II」公式地理データ
- セネガル国土整備庁「Ziguinchor ND-28-II」KML
- セネガル国家統計・人口経済分析庁「RGPH-5 2023 CARABANE」
- セネガル政府『Plan local d'hydraulique et d'assainissement de la communauté rurale de Diembéring』
- Ansoumana Diédhiou『La France et les populations de Casamance(1828-1914)』付録・1836年条約翻刻
- Dahou Dieng「L'évolution administrative de la Casamance de 1828 à 1960」
- 国際協力機構『セネガル国 主要都市基礎インフラ整備に係る情報収集・確認調査 ファイナルレポート』
- 在セネガル日本大使館「セネガル月例報告 2013年7月」
- Louis-Vincent Thomas「Onomatologie et toponymie en pays diola」『Notes Africaines』71号、1956年
- Club Med中国「探索卡拉班岛」
- 中国語版Wikipedia「塞內加爾世界遺產列表」
- 国立国会図書館サーチ「Carabane anchorage」1946年海図
- 国立国会図書館サーチ「Mouillage de Carabane」1948年海図
- 外務省「セネガル共和国基礎データ」
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第四十九号
次は、エリンキンです。
カラバネ島への舟が出る対岸の村へ渡り、カザマンス河口の交通拠点としての記録と漢字表記を調べます。
