カラの北、図の上端にある町
前号のカラから、同じトーゴの北部にあるダパオン(Dapaong)へ進みます。第八十六号のアタクパメで読んだJICA報告書の降雨図にも、この町が載っています。南北に長い地図の上端にDAPAONG、少し南にKARA。資料を読み継ぐと、既刊の町と今回の町が一枚の図でつながります。
ダパオンの日本語用例は、事業報告書だけにあるわけではありません。国立民族学博物館の論文には、モバ族の雑穀酒と、その醸造に使う甕を調べた記録が残っています。地図上の点に、酒造りの場所としての名前が重なります。
漢字名には、二字の达庞と三字の达帕翁が見つかりました。今回は、同じ公的ガイドの異なる版を開き、どちらも都市そのものを指すことを確かめます。
酒造りの記録にある「ダパオン」
森淳「モバ族の酒造りと甕について」は、『国立民族学博物館研究報告別冊』第12号に収められています。リポジトリの書誌情報が示す発行日は1990年3月30日です。電子公開日の2010年2月26日とは区別します。
印刷680頁(PDF3頁)の「はじめに」には、「トーネ県ダパオン(Dapaong, Prefecture du Tone)」とあり、エンチャブレ家で雑穀酒と土器を調査したことが記されています。同頁には「ダパンゴ市東端」という形もあります。カタカナの用例は確認できますが、これだけで改称の時期や、二つの形の使い分けまで説明することはできません。
同頁は、製造工程を8ミリフィルムで撮影し、後に「ダパンゴの酒つくり」として博物館のビデオテークに収めたとも記しています。本稿で確認したのは論文の記述であり、映像そのものは未確認です。醸造場や道具に結び付いた都市名の記録として読むことにします。
JICA公開報告書の印刷2-37頁(PDF21頁)にも、本文に「サバネス州ダパオンで」とあります。同頁の図2-20にはDapaongの降雨グラフと、地図上のDAPAONGがあります。本文・図を原頁画像で照合し、日本語名と英字名を確認しました。
この図は、ダパオンなどについて2000~2008年の収集資料を使い、等降雨量曲線は1971~2000年の平均としています。時期の異なる資料を組み合わせた図なので、現在の降雨量を示すものとしては扱いません。
日本語の歴史的漢字表記は未確認
今回確認できた日本語の都市名は、カタカナのダパオンとダパンゴです。日本語の地理書・地図で用いられた歴史的な漢字都市名は、現時点では原典未確認です。
1990年刊の日本語論文に町の名前があることと、そこに漢字名があることは別です。後に確認する中国語の二字・三字を、日本語の歴史表記へ移して記録することはしません。未確認は、過去に漢字表記が存在しなかったという結論でもありません。
同じガイドにある二字と三字
中国商務部などによる『对外投资合作国别(地区)指南 多哥』2025年版は、印刷6頁(PDF18頁)の「1.3.2 行政区划」で、各地域とその中心都市を列挙しています。草原区の項目には「首府达庞(Dapaong)」とあります。达庞は、地域名の草原区とは別に示された中心都市の名前です。施設名から取り出した字でもありません。
一方、済源の公的サイトが掲載する同ガイドの2024年版、印刷6頁(PDF17頁)の同じ節では、「首府达帕翁(Dapaong)」となっています。英字名が併記されており、三字の达帕翁も同じ都市の直接用例として確認できます。両版の該当頁をテキストと原頁画像で照合しました。
現在取得できた商務部の配布URLは2025年版でした。検索結果には2024年版の断片も残っていたため、版を原本で確かめる必要がありました。二つの表記を比較できるのは、それぞれの版の本文まで読めたからです。
確認できるのは、公的ガイドの2024年版と2025年版で表記が異なるということです。都市の改称や、中国語全体の標準表記の変更があったとまでは言えません。変更の理由、初出、選字者は未確認です。台湾など他の地域の公的な都市直接用例も、今回は採用根拠に加えていません。
二文字・三文字案の比較
达庞
2025年版の都市直接用例がある二字形です。本誌の都市名の文字数標準にも収まります。今回は、商務部の現行配布資料で確認できたこの形を、資料の字体のまま暫定案に採ります。
达帕翁
2024年版で確認できた三字形です。これも文字数標準を満たし、英字名と対応する都市の用例があります。採らなかったからといって、誤表記として退けるものではありません。版を添えて残す比較対象とします。
二字案は、本誌が三字形から一字を削って作ったものではありません。二字・三字とも既存の使用例があります。新しい版を採用根拠にする判断は本誌の提案であり、三字形が廃止されたという主張とは区別します。また、各字の意味から町の風景や語源を説明する根拠も確認できていません。
人口表が数えている範囲
トーゴの統計当局INSEEDの『ANNUAIRE STATISTIQUE NATIONAL 2022』、表3.21、印刷33頁(PDF51頁)のDapaong行は、男性5万6,976人、女性6万699人、合計11万7,675人です。男女の合計も一致します。人口の年は表題の2022年で、表紙の刊行表示「2023年12月」とは分けます。
表は都市の居住人口を男女別に示しています。同じ表には、前号のKaraや第八十六号のAtakpaméもあります。今回はDapaongの都市別集計を採り、サバネス地域やトーネ県全域の人口には置き換えません。集計した都市の詳細な境界と、自治体境界との対応は未確認です。
続頁の印刷34頁(PDF52頁)には、INSEEDの第5回人口・住宅国勢調査(RGPH 5)、人口の空間分布、2022年という出典が記されています。表題、該当行、続頁の出典を原頁画像でも照合しました。年鑑が参照する別冊報告書や境界図まで確認したという意味ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ダパオン
所属国
トーゴ
暫定制定都市名
达庞――既
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字表記と選字の経緯は継続調査
「既」は、中国語の公的資料に既存の都市直接用例があることを示します。その二字を本誌の日本語の都市索引に採るのは、万国漢字志の暫定的な提案です。二字に対する日本語の慣用読みを発見したという意味ではありません。
位置の目安は、GeoNamesの都市項目Dapaong、識別番号2367164の北緯10.862254度・東経0.207616度です。項目の種類は第一級行政区域の庁所在地です。検索結果にはDapaongを別名に持つToneの行政区域項目もあるため、都市点と区別しました。この座標は人口集計区域の境界を示しません。外務省の基礎データが記すトーゴの首都はロメであり、ダパオンは国の首都として扱いません。
残る確認事項
日本語の歴史的漢字表記、漢字名の初出と選字者、現地名の語源と命名者は未確認です。中国語ガイドの版による表記差の理由と、都市人口の詳細な集計境界も継続調査とします。
酒造りの現地記録、降雨図、投資ガイド、国勢調査を出典とする年鑑。それぞれの資料で町の名前が果たす役割は違います。今回の暫定案は、そのうち都市名の漢字直接用例を根拠とし、他の資料は日本語名や都市の位置、人口を確かめるために使いました。
参考資料
- 森淳「モバ族の酒造りと甕について」、『国立民族学博物館研究報告別冊』12号、1990年3月30日、679~701頁。印刷680頁(配布PDF3頁)の都市名・酒造りの調査記録をテキストと原頁画像で照合。書誌情報も確認
- JICA公開報告書、印刷2-37頁(PDF21頁)。本文のダパオン、図2-20のDapaong/DAPAONGと資料対象年をテキスト・原頁画像で照合
- 中国商務部など『对外投资合作国别(地区)指南 多哥』2025年版、印刷6頁(PDF18頁)、1.3.2「行政区划」の「首府达庞(Dapaong)」。原典配布PDFをテキスト・原頁画像で照合
- 同ガイド2024年版、済源公的サイト掲載PDF、印刷6頁(PDF17頁)、1.3.2「行政区划」の「首府达帕翁(Dapaong)」。テキスト・原頁画像照合
- INSEED『ANNUAIRE STATISTIQUE NATIONAL 2022』、2023年12月、表3.21、印刷33~34頁(PDF51~52頁)。Dapaong行の男女別・合計人口、表題と続頁の出典をテキスト・原頁画像で照合
- GeoNames・トーゴのDapaong検索結果、都市項目2367164。取得した掲載HTMLで項目の種類・座標を確認
- 外務省「トーゴ共和国基礎データ」、一般事情・首都ロメ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第八十九号
次回の都市は調整中です。今回の人口表にある未収録都市も候補とし、日本語名と漢字の都市直接用例を確認してから選びます。
