万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百十五号|ドレスデン――電子翻刻のカタカナと、四字の暫定案――

青空文庫の「文づかひ」にあるドレスデンと、現代中国語の德累斯顿を比較する。電子翻刻と初出紙面を分け、四字を調整する本誌案の範囲を示す。

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手紙を託された先の都市名

森鴎外の『文づかひ』を青空文庫で読むと、手紙を届けてほしいと頼まれる場面にドレスデンが現れます。その後、演習を終えて帰る町の名もドレスデン。作品の電子本文で確認できるのは、カタカナの都市名です。

一方、中国外交部が掲載する留学生向けの活動報告では、同じ町を德累斯顿と書いています。こちらは現代中国語の四字です。

文学作品に見える名と、公的なウェブ報告に見える名。それぞれが何を確認させてくれるのかを分けたうえで、本誌の漢字案を考えます。


歴史表記

ドレスデンの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回読んだ『文づかひ』の電子翻刻にも、対象の都市名はカタカナで現れます。

青空文庫の底本情報によれば、底本は岩波文庫『舞姫・うたかたの記 他三篇』で、1981年の第1刷、1992年の第21刷が記されています。親本は1971年刊の『鴎外全集第二巻』。作品の初出情報には1891年1月28日の『新著百種 第12号』とあります。

ここで実見したのは後年の底本に基づく電子翻刻であり、1891年の初出紙面ではありません。底本情報の初出年月日を、漢字表記の初出へ読み替えることはしません。初出紙面で同じカタカナだったかどうかも、別に照合すべき事項です。

鴎外作品を参照したことは、鴎外がこの町の漢字を選んだという根拠にもなりません。漢字の初出と選字者は、未確認のまま残します。


日本語での用例

青空文庫の『文づかひ』では、姫が手紙を託す場面と、隊が演習から帰る場面の双方にドレスデンを確認できます。ウェブ目録の項目名だけを読んだのではなく、電子本文の中の用例です。ただし、小説の語りをそのまま作者自身の行動記録とは扱いません。

現代の公的な例では、在ドイツ日本国大使館の領事出張サービス案内に、実施先としてドレスデン及びライプツィヒとあります。

本誌の現代日本語都市名はドレスデンとします。文学作品の電子翻刻と大使館の現代の用例は、そのカタカナを確認する資料として用い、歴史的な漢字が確認できたという扱いにはしません。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の驻德国使馆开展“领保进校园”活动は、2022年11月23日付の報告です。冒頭には大使館員が德累斯顿へ赴き、現地の中国人留学生の団体を対象に活動したとあります。

確認した原文は德累斯顿。本誌の候補徳累斯頓は、そこから德を徳、顿を頓へ調整した形です。四字の順序は保ちますが、原文と完全に同じ字形ではありません。

これは本誌が行う調整であり、その形を日本語の古い刊本から発見したわけではありません。台湾などを含む中国語圏の全地域で同じ字体が使われているとするものでもありません。

德や累や斯や顿の意味を連ねて、ドレスデンの名の由来を説明することも避けます。今回は、外国都市を指す実用の文字列として参照します。


二文字・三文字案の比較

杜頓

二字へ縮める、本誌の比較案です。杜の「ト」と頓の「トン」を手がかりにしても、ドレスデンの「レス」や母音の違いを写せません。短くなった分だけ、出典の四字とのつながりも薄くなります。

この二字をドレスデンの歴史表記や略記として確認したわけではありません。

徳須頓

日本語で音の手がかりを取りやすそうな字を並べる、本誌の三字比較案です。しかし徳の「トク」、須の「ス」、頓の「トン」をつないでも、ドレスデンとは隔たりがあります。

三字に収めるために元の累を落とし、斯を須に替えることにも、用例上の根拠はありません。文字数の標準に収まるだけで採用はできないと考えます。

徳累斯頓

現代中国語の德累斯顿の四字と順序を保ち、德と顿の字体を調整する案です。確認した資料の都市名と対応させやすく、根拠のない短縮を追加せずに済みます。

本誌の二字・三字という標準からは外れますが、四字を残す例外とし、ドレスデンの読みを添えます。 徳を「トク」、累を「ルイ」、斯を「シ」、頓を「トン」と読んでも、普通の日本語の音読みだけでドレスデンにはなりません。字体変更でその問題が解決するわけでもありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ドレスデン

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

德累斯顿

暫定制定都市名

徳累斯頓――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

既存の現代中国語用例をもとに、德を徳、顿を頓へ本誌が調整するため「改」とします。日本語の歴史表記を復活させたものではなく、四字を保つことも今回の暫定判断です。

人口はドイツ連邦統計局(Destatis)の自治体一覧年次版による、2025年12月31日現在562,764人です。人口と自治体境界の基準日はともに同日、2026年8月版を用います。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計です。対象はDresden, Stadtの自治体全体。ザクセン州全体や都市圏の人口ではなく、周辺自治体との合算や住民登録簿による別集計も代用しません。


採らなかった表記と未解決点

杜頓と徳須頓は、本誌の比較案として残します。二字・三字に縮めると読みの説明が減るわけではなく、出典の文字列からは遠ざかります。

原文の德累斯顿をそのまま採る選択肢もあります。今回は二字の字体を調整しましたが、これを過去の日本語表記として扱わないことが前提です。

『文づかひ』の初出紙面、日本語の歴史的な漢字と読み、選字者の調査は残っています。電子翻刻で読めることと、初出の紙面を見たことの間には距離があります。その距離を明示したうえで、確認できた用例から暫定案を置きます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百十六号

次回はニュルンベルクを予定しています。人口基準の掲載順に沿って、日本語の用例と漢字表記の根拠を確認します。