万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百五十七号|エルチェ――名前の重なりと「埃爾切」――

エルチェの地名と現代中国語の用例を比較し、本誌の暫定案を考える。


一つの都市、異なる名前

エルチェはスペインの自治体 Elx/Elche を指します。現地の名、日本語での呼び名、別の言語による漢字表記を照らし合わせると、一つの場所にも異なる呼び方が重なっていることが分かります。


歴史表記

市立考古学・歴史博物館は、古代の Ilici とイスラム期の Ilš を区別し、Ilš の形成を10世紀と説明します。一方、Carmen Barceló と Eduardo López Seguí の2006年の研究は、碑文とアラビア語資料を検討し、イスラム期の集落が8世紀半ばに創設されたという仮説を示します。両者は成立の時期について異なる見解を示しており、本誌はどちらかを確定しません。元となる古代・中世文書の原本は未確認です。日本語の歴史的な漢字表記も原典未確認です。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトの日本語版を参照し、本稿では「エルチェ」と呼びます。現地語の綴りや別の言語による名前を、そのまま別の自治体として数えるわけではありません。


中国語圏その他の表記との比較

広州南沙の当事者部署が2026年の訪問を報告し、「埃尔切市(Elche)」と記しています。市長の訪問先による現代の直接用例であり、日本語の歴史用例を意味しません。

本誌の採用案は「埃爾切」です。出典の表記「埃尔切」から、「尔」を日本語でも用いる「爾」に改めました。 こうした変更を伴うので、確認した字形のままの既存表記を意味する「既」ではなく「改」とします。


二文字・三文字案の比較

埃爾切

出典の表記を手がかりに、日本語で用いる字形と三字の長さを優先した案です。短い一方で、元の綴りや発音を完全には表せません。

埃尔切

現代中国語資料にある字形をそのまま保つ三字です。出典への忠実さは高い一方、二字目は日本語の通常の字形とは異なります。

恵留切

エ・ル・チェを手がかりに本誌が作った三字案です。「切」をチェとは普通に読めず、既存用例も確認していません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

エルチェ(Elx/Elche)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

埃爾切――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

INEの年次センサス表68065では、2025年1月1日の通常居住者人口は 245,575人 です。自治体コード 03065、Elx/Elche の municipio 全域を対象とし、中心市街地だけや周辺自治体を合算した都市圏は数えていません。自治体の中の地区や集落も、別の自治体として重ねて数えません。


採らなかった表記と未解決点

「埃爾切」の通常の日本語音だけではエルチェと読めません。カナを添え、表記の初出と命名者は継続調査します。 漢字の歴史的用例の原典と、現代表記の初出・命名者は確認できていません。比較のために作った案を、歴史上使われた表記とは扱いません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇

第三百五十八号はグラナダを取り上げます。