会議報告に残った町の名
日本学術会議の海外会議の報告には、開催地を記す短い欄があります。2015年の国際宗教学宗教史学会第21回世界大会では、そこにドイツ・エアフルト市とあります。報告を読む入口では会議の内容が中心ですが、この欄は日本語で町をどう呼ぶかも教えてくれます。
一方、中国駐フランクフルト総領事館の大使訪問報告には、州都の名として埃尔福特が現れます。カタカナのエアフルトと四つの漢字。同じ町へ戻れる対応を保つため、本誌は埃爾福特を暫定案とします。
歴史表記
エアフルトの日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 明治期などの地理書の頁を確認した結果として、埃爾福特を掲げるものではありません。
今回読めた日本語資料は、2015年の会議についての現行の電子報告です。中国語資料も、現在公開されている2010年の外交活動報告です。どちらも用例としては具体的ですが、それ以前の漢字の初出や、日本語への伝来を確定する資料にはなりません。
また、会議の主題が宗教史であっても、報告内の地名まで歴史表記になるわけではありません。町の歴史を研究することと、町の名を記した文字の来歴を調べることは、分けて進めます。
日本語での用例
日本学術会議の「代表派遣会議出席報告」は、会議概要の開催地にエアフルト市と記しています。会期は2015年8月23日から29日。これは大会の日程であって、このウェブページの掲載日を示すものではありません。ページの明示的な掲載日は今回確認できていません。
開催地の欄を持つ報告なので、大学や人物名の一部分から都市名を推測せずに済みます。本誌も現代日本語名をエアフルトとし、前号の予告とそろえます。
現地市名は、市の地理情報サイトの発行者表示でLandeshauptstadt Erfurt, Stadtverwaltungと確認できます。Erfurtを現地名とし、記事を識別する欧字表記にもerfurtを用います。州都を意味する肩書が付いていますが、ドイツという国の首都とは区別します。
中国語圏その他の表記との比較
中国駐フランクフルト総領事館の「吴红波大使访问图林根州」は、2010年10月31日の掲載表示です。冒頭は10月28日の訪問を伝え、テューリンゲン州の州都を埃尔福特と記しています。
この本文で確認した形を出発点とし、本誌では尔を爾へ調整して埃爾福特とします。原文の四字と本誌案の四字は、順番を変えず対応します。字体を変更した操作を省略せず、「原文に埃爾福特とある」とは書きません。
URLには11月2日を含む部分がありますが、ページの掲載表示は10月31日です。また、同じページの後半には別の町での講演も収録されています。頁全体に出る地名を一括してエアフルトの異名とせず、冒頭の州都訪問の一文を用例とします。他の中国語圏の形は今回未確認です。
二文字・三文字案の比較
埃特
先頭と末尾を残す、本誌の二字の比較案です。この略記の既存用例は確認していません。四字のうち爾・福を落とすので、元の資料に戻る際に省略を補う必要があります。
日本語の通常の音読みでエアフルト全体が得られる形でもありません。短いことは利点ですが、今回は同定の手掛かりを減らす理由として十分ではありません。
埃福特
尔に当たる部分だけを省く、本誌の三字案です。語頭と後半は残りますが、なぜそこだけを省くかを支える既存の用例がありません。三字に収めても、エアフルトという読みには別の約束が必要です。
埃爾福特
確認した四字を保ち、字体だけを調整した案です。二字・三字を標準とする本誌では四字の例外ですが、出典にある四つの位置をそのまま残せます。根拠のない省略を足さないことを採用理由にします。
ただし、通常の日本語の音読みを連ねても、現地音やエアフルトをそのまま再現できません。読みは日本学術会議のカタカナ用例に基づいてエアフルトと添えます。 爾の音だけで日本語の「ア」を保証する、といった一字ずつの対応は主張しません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
エアフルト
所属国
ドイツ
確認した現代中国語表記
埃尔福特
暫定制定都市名
埃爾福特――改
制定状態
暫定制定・原典継続調査
尔を爾へ調整しているため「改」です。日本語の古い原典に確認した「史」や、原文を無変更で採った「既」とは区別します。
人口はDestatisの年次2025版による2025年12月31日現在217,159人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、2026年8月版、人口と自治体境界の基準日はともに2025年12月31日です。対象はErfurt, Stadtの自治体全体で、テューリンゲン州全体や周辺の自治体を含む都市圏ではありません。
採らなかった表記と未解決点
埃特と埃福特は本誌が比較のために作った短縮案です。歴史的な異表記の一覧に加えることはしません。字体調整後の埃爾福特についても、日本語の刊本での使用を確認したわけではありません。
埃・福・特の字義から、町の性格や名の由来を説明する根拠も得られていません。とくに福の字があることを、命名者が町を祝福した証拠とは扱えません。現地名の語源、日本語の歴史漢字、漢字の初出と選字者は継続調査です。
今回の判断を支えるのは、具体的な開催地と訪問先の名が確認できることです。四字を保ったことで読みの難しさがなくなったとはせず、出典との対応と日本語の読みを一緒に示しておきます。
参考資料
- 「代表派遣会議出席報告」、日本学術会議。2015年8月23〜29日の大会開催地をエアフルト市と記す。会期と掲載日を区別。
- 「吴红波大使访问图林根州」、中国駐フランクフルト総領事館、2010年10月31日表示。10月28日の州都訪問に埃尔福特。
- 「Impressum」、エアフルト市地理情報サイト。現地市名と発行者の表示を確認。明示的な刊行日は未確認。
- 『Gemeindeverzeichnis』年次2025版、Destatis、2026年8月版。Erfurt, Stadtの自治体人口。
- 「ドイツ基礎データ」、日本国外務省、2025年6月3日表示、一般事情「3 首都」。首都ベルリンの根拠。既刊221号で記録した2026年11月4日の親担当による本文確認を出典再利用。
- 「姉妹都市・友好都市のプロフィール」、川崎市。「ドイツ連邦共和国・リューベック(Lübeck)市」の節を次号の日本語名確認に参照。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。
次回予告|都市篇 第二百四十号
次回はリューベックを予定しています。川崎市の友好都市紹介に見える日本語名と、中国語の三字を照合します。
