万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百十四号|エッセン――交流の記録にある「埃森」の二字――

郡山市による交流事業の報告ではエッセン、中国外交部の学校訪問報告では埃森。二字をそのまま採る案と、日本語の音に寄せる比較案を検討する。

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学校の交流から見える二つの表記

郡山市のウェブサイトに、ドイツから訪れた高校生が安積開拓・安積疏水の歴史を学んだ報告があります。そこでは、訪問元の都市をエッセン市と書いています。

中国外交部にも、エッセンの学校を訪問した報告があります。こちらの都市名は埃森。日本語ではあまり地名に見かけない埃と、見慣れた森の二字です。

別々の学校訪問の記録ですが、同じ町をどう書くかという問いでは並べて見ることができます。二字の意味から町の風景を作り上げず、用例のある形と本誌が考える比較案を分けて検討します。


歴史表記

エッセンの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 日本語の地理書や紀行の紙面で、漢字の用字と読みを確かめる必要があります。

今回の埃森は、現代中国語の公的なウェブ報告にある表記です。古い日本語刊本の画像や、その電子翻刻から確認した歴史漢字ではありません。

漢字表記の初出や選字者も認定しません。訪問報告の発表日までに使用されていることと、その日にこの二字が作られたことは、別の話です。


日本語での用例

郡山市のドイツの高校生が「一本の水路」を学ぶロゲイニングを行いました!には、ドイツ・エッセン市のウルフスクーレ校が福島県立安積高校を訪問したとあります。本文では令和6年度の交流事業とし、催しの日付を2025年1月17日、ページの更新日を同年4月1日としています。

開催日とウェブページの更新日は同じではありません。ここで確かめるのは、郡山市が交流先の都市をエッセンと書いていることです。

本誌の現代日本語都市名もエッセンとします。小さなッを含む読みを採用形に添えます。交流事業の報告を、都市の人口や日本語名称の初出を証明する資料としては使いません。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の「驻德国大使夫人郭金秋出席伯乐中学中秋节活动」は、2019年9月13日にドイツの北威州埃森市で行われた学校の行事への出席を報告しています。ページの表示日は同月17日です。

本文には学校名とともに、埃森市の都市名が使われています。本稿ではこの二字を、現代中国語で同じ町を指す用例として参照します。日本語の歴史的な表記として読んだり、中国語圏のあらゆる地域で同じ字を使う証拠にしたりはしません。

埃には日本語で「ほこり」という意味があり、森には木々の集まりが思い浮かびます。しかし、ここで確認したのは外国都市の名を表す字の組です。この字面を根拠に、エッセンの語源や町の性質を説明することはできません。

採用候補の埃森は、原文と同じ字形・同じ順序です。本誌が漢字を交換した形ではありません。


二文字・三文字案の比較

恵仙

日本語の音を意識して組む、本誌の二字比較案です。恵方の恵を「エ」、仙を「セン」と読むことを手がかりにできますが、それでも「エセン」と「エッセン」の間に促音の違いが残ります。

また、この二字をエッセンの都市名として使った実例は、今回確認していません。読みの説明を組み立てられることと、用例があることを取り違えないようにします。

恵津仙

恵仙の間に津を置く、本誌の三字比較案です。字を一つ加えても、津の通常の「ツ」を小さなッとして扱えるわけではありません。「エツセン」となれば、現代日本語の都市名とは別の響きになります。

音を詳しく写そうとするほど字が増え、それでも読みの約束は必要になります。三字にするだけで問題が解消するとは考えません。

埃森

確認した公的中国語文書の二字を、そのまま採る案です。出典の文字と照合でき、短縮や字体変更を本誌が追加する必要がありません。

ただし、埃を「アイ」、森を「シン」などと音読みしても、エッセンにはなりません。二字を既存用例から採り、エッセンの読みを添える案です。二字に収まっていることと、日本語で迷わず読めることは分けて考えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

エッセン

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

埃森

暫定制定都市名

埃森――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

既存の現代中国語表記を、字形も順序も変えず採るため「既」とします。日本語でこの漢字が伝統的に定着しているという意味ではありません。

人口はドイツ連邦統計局(Destatis)の自治体一覧年次版による、2025年12月31日現在573,618人です。人口と自治体境界の基準日はともに同日、2026年8月版を用います。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計です。対象はEssen, Stadtの自治体全体。ルール地域やライン・ルール都市圏の人口を市の人口に置き換えず、周辺自治体との合算値や住民登録簿による別集計も代用しません。


採らなかった表記と未解決点

恵仙と恵津仙は、本誌が比較のために作った案です。とくに小さなッを漢字でどう扱うかは、単純な一字一音の対応では解決できません。

今回は、見慣れない埃を別の字に替えるより、確認した埃森を残す判断をしました。その際、埃や森の意味を都市の由来に結び付けないこと、読みを省かないことを条件にします。

日本語の歴史漢字、初出、選字者の調査は続きます。交流の報告は町の現在の日本語表記を示してくれますが、それだけで漢字表記の過去まで埋められるわけではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百十五号

次回はドレスデンを予定しています。文学作品の電子翻刻にある都市名と、現代中国語の用例を分けて見ていきます。