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都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第三十六号|ファティック――三字の「法蒂克」とシーヌの州都

ファティックはセネガル中西部、シーヌ川沿いにあるファティック州と同名県の行政中心。歴史的なシーヌ地方に位置し、2023年のコミューン人口は3万9361人。

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ファティックを三字でどう記すか

都市篇第三十六号は、セネガル中西部の都市ファティックです。

国際協力機構は、2023年に派遣された海外協力隊員の配属先を、

ファティック市の職業訓練センター

と記しています。日本語では、現在このカタカナ形が使われています。

一方、中華人民共和国外交部は、ンブールとカオラックを結ぶ高速道路の記事で、この都市を三字の、

法蒂克

と記しました。記事には「西部城市法蒂克」とあり、同名の州や県だけでなく都市を指すことが明確です。

この三字形は、日本語の読みから機械的に作った案ではありません。中国外交部の直接用例を出発点に、現在の日本語名、行政範囲、日本語史料の確認状況を分けて検討します。


日本政府資料の「ファティック市」

国際協力機構の記事は、セネガルへ派遣する隊員の活動地をファティック市と明記しています。隊員は市内の職業訓練センターで、野菜栽培と販売方法の指導に携わる予定だと説明されています。

国立国会図書館サーチには、2000年の論文「乾燥地セネガル・ファティックの農作業――おいしい『チェブジェン』のために」が収録されています。ここでもカタカナのファティックが使われています。

同じFatickという名は、都市、県、州に用いられます。JICA記事の「ファティック市」は都市、国立国会図書館の論文題名は調査地を示す表現です。州や県に関する資料だけを、都市名の直接用例として数えないようにします。

本稿と公式サイトでは、現在の日本政府系資料に確認できるファティックを現代日本語都市名とします。


中国外交部の「法蒂克」

中華人民共和国外交部が2023年に公開した駐セネガル大使のインタビューには、姆布尔―法蒂克―考拉克高速公路が現れます。

さらに本文は、この道路が首都ダカールから「西部城市法蒂克」と新しい工業中心カオラックを結ぶと説明しています。道路名の中だけでなく、ファティックを西部の都市として記した直接用例です。

三字は、Fatickの音節に沿って法・蒂・克を置く音訳です。字義をつないで都市の性格を説明する名称ではありません。

現時点で確認できた有力な中国語形は法蒂克です。ただし、中国の地名標準化機関が定めた唯一の標準形であるとまでは確認できません。本稿では、中国外交部が実際に都市へ用いた表記として扱います。


日本語の歴史的漢字形は未確認

国立国会図書館デジタルコレクションと国立国会図書館サーチで、ファティック、Fatick、法蒂克などを照合しました。今回確認できた日本語資料では、この都市を指す歴史的な漢字表記を確定できませんでした。

日本語資料に見つかるのは、少なくとも現段階ではファティックというカタカナ形です。中国外交部の「法蒂克」を、日本語の古い地理書や外交文書から復元した形とみなすことはできません。

これは、過去の日本語文献に漢字表記が存在しなかったという証明ではありません。旧フランス領西アフリカの地理書、植民地統計、地図には、全文検索できない画像資料も残ります。

したがって法蒂克は、中国語圏の既存用例を日本語の都市索引へ暫定的に取り込む形とし、日本語原典の調査を継続します。


シーヌ地方からファティック州へ

セネガル国家統計・人口経済分析庁は、現在のファティック州が歴史的にはシーヌ王国とサルームの一部に対応すると説明しています。

独立後、この地域はシーヌ=サルーム州の一部でした。1984年の法律によってシーヌ=サルーム州が分割され、ファティック州とカオラック州が成立します。

この法律の説明は、交通網と地理的位置を考慮し、中央に位置するファティック・コミューンを新しい州の行政中心としたことを記しています。都市名の成立と、1984年に州都へ選ばれたことは別の出来事です。

ファティックという名は、現在も州、県、コミューンに重なります。都市を紹介するときは、州全体の面積や人口をコミューンの数字として扱わないよう区別が必要です。


州都だが、国の首都ではない

セネガル文化・工芸・観光省は、国内14州の行政中心となる主要都市の一つにFatickを挙げています。ファティックは、同名州と同名県の行政機能が集まる都市です。

一方、日本の外務省がセネガル共和国の首都として掲げるのはダカールです。公式サイトではファティックを国家首都とはせず、紹介文で州と県の行政中心であることを示します。

国際協力機構の記事に現れる職業訓練センターも、地域行政と教育機能が集まる都市の一面を示しています。ユネスコ生涯学習研究所は2020年、ファティックを「学習都市」の世界ネットワークに加えました。

ただし、これらの制度や施設が都市名の由来になったわけではありません。現在の都市機能と地名の成立を混同しません。


2023年のコミューン人口は3万9361人

セネガル国家統計・人口経済分析庁の人口推計資料は、2023年国勢調査を基準値として、ファティック・コミューンの男性を1万9959人、女性を1万9402人、合計、

3万9361人

と記しています。

公式サイトにはこのコミューン合計を採ります。ファティック県の40万人余、ファティック州の90万人余とは集計範囲が異なります。また、ユネスコの都市紹介にある3万5000人とも基準時点と算定方法が異なるため、2023年国勢調査の値を優先します。

国連地名専門家グループが示す都市代表点は、北緯14.33310984度、西経16.40639662度です。公式サイトでは小数第六位に丸め、北緯14.333110度、西経16.406397度を表示します。座標原典はセネガルの国土整備・地理地図機関で、コミューン境界ではなく地図上で都市を示す代表点です。


都市名と漢字形の命名者

Fatickという地名について、セレール語の表現や母系集団名に結びつける説明が流通しています。しかし、今回確認した政府、統計、国際機関の資料から、一つの語源説を確定できませんでした。

特定の人物がFatickという都市名を作ったことを示す同時代資料も確認できません。1984年の州設置に関わった政治家や行政官は、すでに存在した都市名の命名者ではありません。

漢字形法蒂克についても、最初に三字を選んだ人物と時期は未確認です。2023年の外交部記事を書いた人物を、そのまま漢字表記の考案者とみなすことはできません。

したがって、都市名の命名者と漢字表記の命名者は、いずれも未確認とします。


二字案と三字案を比べる

法蒂克

中国外交部がファティックの都市名に直接用いた三字形です。対象が明確で、都市篇で主流とする二字・三字の範囲にも収まります。

法蒂

二字で簡潔ですが、Fatickを法蒂とする直接用例を確認できません。三字形から末字を落とす根拠がないため採りません。

法迪克

「蒂」を「迪」に替える三字案です。音は近くても、今回確認した外交部資料にある字は「蒂」です。資料のある字を音の印象だけで交換しません。

この都市では、新しい短縮形を作るより、都市への直接用例がある三字の法蒂克が適切です。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の法蒂克を採ります。

根拠は、中国外交部が「西部城市法蒂克」と記し、ンブールとカオラックを結ぶ道路の沿線都市として対象を特定していることです。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏で実在する三字形を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「法蒂克」という文字列そのものを本稿が初めて作った、という意味ではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ファティック

所属国

セネガル

中国語圏で確認した都市名

法蒂克

暫定制定都市名

法蒂克――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

法蒂は二字ですが、都市名としての直接用例がないため採りません。法迪克も、中国外交部の用字を根拠なく置き換えるため採りません。

未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、Fatickという地名の語源と命名者、漢字形「法蒂克」を最初に選んだ人物、中国の地名標準化資料における位置づけです。

人口は、統計庁の人口推計資料が基準値として掲げる2023年国勢調査のコミューン合計です。将来年の推計値と取り違えないよう、2023年欄だけを採っています。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第三十七号

次は、カオラックです。

ファティックから幹線道路を東へ進み、シーヌとサルームを分けたもう一方の州都に残る漢字表記を調べます。