海岸を東へ、フレスコへ
都市篇第七十五号は、前号のササンドラから海岸を東へ進み、フレスコを訪ねます。ここでは町、港、潟湖、県、小郡が同じ名を持ちます。ある資料に「Fresco」とあっても、何を指すかを確かめないまま都市の漢字表記に数えることはできません。
日本語の名はフレスコ。漢字では、中国語の港湾資料と都市の所在地表示に弗雷斯科が見えます。ただし、日本語の歴史的な都市名として確立した字ではありません。今回の問いは、この四字をどこまで都市名の手がかりとして扱えるかです。
日本語資料のフレスコ市
国際協力機構(JICA)の派遣要請資料には、勤務先として「フレスコ病院」、住所として「ディボ県フレスコ市」が載ります。少なくとも日本語で、町をフレスコと呼んだ直接の資料です。「ディボ県」は資料作成当時の行政区分であり、現在の所属を示すものではありません。
ササンドラの水揚施設に関するJICA報告書の沿岸図にも、サンペドロ、ササンドラ、フレスコなどが並びます。海岸の連続した地名として読むことはできますが、この図に都市の漢字名はありません。今回確認した日本語資料から、フレスコ市に直接用いられた歴史的漢字表記の原典は特定できませんでした。探索範囲で未確認という意味で、過去に存在しなかったと断定するものではありません。
「弗雷斯科」は何を指すか
中国語の港湾情報サイトは、港コードCIFREの項目を「弗雷斯科/FRESCO」と記します。これは港の表記の実例であって、それだけでは市役所や居住地の公称漢字名を証明しません。
一方、旅行予約サイトTravelokaの中国語ページは、フレスコにある宿泊施設の所在地について「位于弗雷斯科」と表示します。都市の所在地を示す現代の直接用例としては読めます。ただし商用サイトの翻訳であり、字形の選定者、初出、公的承認、日本語での定着を示す資料ではありません。
国連大学の中国語報告書にも「弗雷斯科」が現れますが、文脈はフレスコ潟湖周辺です。潟湖への用例を、そのまま都市名の独立した証拠には加えません。同じ字が複数の地物にかかるからこそ、対象を分けて記録します。
四字を残す理由
本誌の都市篇は二文字・三文字を標準にします。フレスコについては、確認できた直接・近接用例が四字の弗雷斯科です。「弗雷」「雷斯」「斯科」などを切り出せば短くなりますが、その形をこの都市に用いた資料を確認できませんでした。
字数を整えるために用例を作り足さず、四字を例外として残します。本誌がこの字形を日本語の都市索引へ暫定的に取り込む区分は創です。中国語の現代用例を参照した本誌の提案であり、日本語の古い表記を継承する「伝」や、日本語史料での使用を意味する「史」ではありません。
港町と現在の市街
西アフリカ開発銀行(BOAD)が公開する沿岸道路の環境影響調査は、フレスコとササンドラを結ぶ道路を事業区間として扱います。同報告書は、古い交易地点が潟湖と海の間にあり、現在の町はその場所とは異なると説明します。1966年に海浜の集落が内陸側へ移ったとも記します。地名が同じでも、現在の地図上の一点を古い交易地点そのものと見なせません。
報告書は、Frescoという名を十五世紀に当地へ寄ったポルトガル人航海者に結びつけます。ただし航海者の個人名、命名時の原記録、語の由来は示していません。誰がこの町に名を与えたかは未確定とします。報告書に記された都市座標にも実際の位置と合わない数値があるため、地図には別の資料を使います。
コートジボワール政府はフレスコをフレスコ県の県庁所在地と記します。県庁所在地と国の首都は別です。国の首都はヤムスクロであり、フレスコは首都ではありません。
座標と人口は対象範囲をそろえる
GeoNamesは同名の県、小郡、川、居住地を別項目で並べています。本誌の地図には、居住地「Fresco」の代表点、北緯5.082265度、西経5.569379度を用います。行政境界の中心や古い交易地点を精密に測った座標ではありません。
人口には、2021年国勢調査を基にしたコートジボワールの政令別表にあるフレスコ・コミューン27,758人を採ります。基準日は同年12月14日です。同じ名の小郡に関する国勢調査表の48,098人とは範囲が違い、県全体の人口とも混同しません。2014年のコミューン人口は23,675人で、この数字とも年を混ぜません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
フレスコ
所属国
コートジボワール
現代中国語の港湾・所在地用例
弗雷斯科
暫定制定都市名
弗雷斯科――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と字形の初出を継続調査
採らなかった表記と未解決点
港の漢字表記だけを日本語の史料用例とは扱いません。潟湖の漢字表記も都市固有の証拠には数えません。資料にない二字・三字形は提案しません。
未解決なのは、日本語でフレスコ市を漢字で記した原典、弗雷斯科の漢字選定者と初出、ポルトガル人航海者による命名を直接確かめる原記録です。人物名や年代は推測で補いません。
参考資料
- JICA・フレスコ病院への派遣要請資料(1997年)
- JICA・ササンドラ市水揚施設関連報告書の沿岸図
- GeoNames・コートジボワールのFresco検索結果(居住地の行)
- Traveloka・フレスコ所在の宿泊施設の中国語所在地表示
- 搜航網・弗雷斯科港CIFRE
- 国連大学を含む国連報告書・フレスコ潟湖周辺への言及(中国語、13頁)
- BOAD公開・沿岸道路環境影響調査、フレスコ市の歴史と道路区間(135頁)
- コートジボワール政府・フレスコ県庁所在地に関する記事
- コートジボワール選挙管理委員会・2021年国勢調査に基づくコミューン人口を含む政令別表
- コートジボワール統計局・2014年コミューン人口表
- コートジボワール政府・2021年国勢調査結果(小郡・県別人口)
- 外務省・コートジボワール共和国基礎データ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第七十六号
次は、グラン・ラウーです。フレスコから海岸をさらに東へたどり、町と潟湖の名がどう書かれてきたかを調べます。
