大学の名と、市の名
日本語ではゲッティンゲン、中国語では哥廷根。大学の名前として目にする機会があっても、それぞれの用例が市全体を指すのか、大学という組織を指すのかは、文の中で確かめたいところです。
慶應義塾大学SFCドイツ語研究室の街の紹介は、見出しをゲッティンゲン Göttingenとします。中国駐ハンブルク総領事館の訪問報告には哥廷根市。この二つをつないで、本誌では哥廷根の三字をそのまま暫定採用します。
歴史表記
ゲッティンゲンの日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 現代中国語に哥廷根があることだけで、日本の古い刊本にも同じ形があったとはいえません。
ニーダーザクセン州立公文書館の所蔵資料案内「Cal. Or. 100 Göttingen Stadt」は、市史の概説でGutingiという村名と953年を紹介します。一方、この資料群そのものの年代範囲は1325–1754年です。
案内の解説に953年が書かれていることと、その年の文書がこの資料群の中で実見できたことは別です。本稿が読んだのは現行の所蔵資料案内であり、953年の文書原本ではありません。Gutingiという欧文の旧形も、日本語の歴史漢字とは区別します。
日本語での用例
慶應義塾大学SFCドイツ語研究室の「ゲッティンゲン Göttingen」は、ニーダーザクセン州の大学都市としてこの街を紹介しています。見出しにカタカナと現地綴りが併記され、本文でも市街や駅に話題が及んでいます。
したがって、ここでのゲッティンゲンは大学名の一部分だけではなく、街の日本語名として確かめられます。本誌が添える読みも、この現代日本語用例によります。ページの明示的な掲載日は今回未確認であり、大学の創設年を日本語名の使用開始年としません。
大学を中心にした紹介は街を知る入口になりますが、大学の在籍者数を市の人口に置き換えるものでもありません。
中国語圏その他の表記との比較
中国駐ハンブルク総領事館の「地方合作助力中德友好」は、2019年12月11日付の記事です。報告する訪問日は12月9日で、本文に哥廷根市と哥廷根大学がそれぞれ現れます。
市長への訪問と大学関係者への訪問を分けて書いているので、哥廷根が大学の専用名ではなく、市名にも使われると確認できます。ここから採る市名は、市という種類を表す末尾の字を除いた哥廷根です。
今回はこの三字に字体の変更を加えません。中国語の市名用例としての確認であり、日本語での伝統的定着や、漢字の初出まで立証したわけではありません。他の中国語圏での異表記についても網羅的な結論を出しません。
二文字・三文字案の比較
哥根
中央の廷を省く本誌の二字比較案です。都市名としての既存用例は今回未確認です。三字から二字へ縮めることはできますが、その略記を裏付ける資料がなく、ゲッティンゲンの読みが容易になるわけでもありません。
歌廷根
最初の哥を、日本語でなじみのある歌に置き換える本誌の三字案です。この形も確認済みの異表記ではありません。字を見やすくする狙いはあっても、出典にある哥との一致を失い、読みがゲッティンゲンになる根拠も増えません。
哥廷根
総領事館の本文で確認した三字を、その順番と字体のまま保つ案です。二字・三字の標準内であり、短縮や置換を新たに説明せずに済むことを採用理由にします。
通常の日本語の音読みを重ねたカ・テイ・コンは、ゲッティンゲンとは異なります。ゲッティンゲンの読みは日本語資料に基づいて添える都市名で、この三字の字音から導いたものではありません。中国語の発音を片仮名へ機械的に置換したとも、ドイツ語の発音を完全に写したとも主張しません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ゲッティンゲン
所属国
ドイツ
確認した現代中国語表記
哥廷根
暫定制定都市名
哥廷根――既
制定状態
暫定制定・原典継続調査
現代中国語で確認した文字列を、字体も字順も変更せずに採るため「既」です。日本語の歴史原典が未確認である以上、「史」や、日本語での広い定着を示す「伝」とはしません。
人口はDestatis年次版の2025年12月31日現在130,521人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、人口・自治体境界とも2025年12月31日、2026年8月刊の版を用います。対象はGöttingen, Stadt、自治体識別番号03159016の市全体です。同名のゲッティンゲン郡全体や、大学関係者の人数、周辺の都市圏へ範囲を広げません。
採らなかった表記と未解決点
哥根は一字省略、歌廷根は一字置換の比較案です。どちらも本誌が置いた案で、実際の使用を確認した表記ではありません。今回の哥廷根の採用は、漢字だけで日本語として自然に読めるという評価でもありません。
漢字の初出と選字者、日本語の歴史刊本での形、他の中国語圏の用字は継続調査です。公文書館の案内が紹介するGutingiと、2025年人口が対象とする市域についても、千年以上にわたり境界が同一だったとは扱いません。
古い文書の年代、現代の紹介文の用字、現在の人口は、それぞれ別の時間を持ちます。その違いを残したまま、都市名の暫定案を置きます。
参考資料
- 「ゲッティンゲン Göttingen」、慶應義塾大学SFCドイツ語研究室。街の日本語名と現地綴りの併記。明示的な掲載日は未確認。
- 「地方合作助力中德友好」、中国駐ハンブルク総領事館、2019年12月11日掲載。訪問日は12月9日、哥廷根市と哥廷根大学を区別して記載。
- 「Cal. Or. 100 Göttingen Stadt」、ニーダーザクセン州立公文書館ハノーファー部門、Arcinsys所蔵資料案内。Gutingi・953年は市史の概説、資料群の年代範囲は1325–1754年。中世文書原本の実見ではありません。
- 『Gemeindeverzeichnis』年次2025版、Destatis、2026年8月刊。人口・境界2025年12月31日、Göttingen, Stadtの自治体全体。
- 「ドイツ基礎データ」、日本国外務省、2025年6月3日表示、一般事情「3 首都」。首都ベルリンの既確認出典を再利用。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。
次回予告|都市篇 第二百六十七号
次回はウルムを予定しています。日本語の市名と漢字表記の根拠を確かめ、候補を比較します。
