河口の町に、同じ名の場所がいくつもある
都市篇第七十六号は、前号のフレスコから海岸を東へ進み、グラン・ラウを取り上げます。バンダマ川の河口付近には、かつての市街、現在の町、ラウ・クパンダの集落、潟湖があり、Grand-Lahouという地名が重なります。一つの資料に地名が現れても、それがどの場所を指すのかを確かめる必要があります。
漢字では、香港の無国界醫生がこの沿岸都市を大拉烏と記しました。三字の直接用例はあるものの、それを日本語で昔から使われた都市名と呼べるわけではありません。今回は、用例の言語と町の位置を分けて整理します。
日本語の「グラン・ラウ」
国際協力機構(JICA)の農業機械化に関する報告書は、グラン・ラウ(Grand Lahow)の農業機械化研修センターを紹介し、施設のフランス語名にはGrand-Lahouを含めています。JICAの別の事業紹介にも「グラン=ラウ」という表記があります。日本語の地名表記としては、語の区切りや長音に揺れがあることが分かります。
前号の予告は「グラン・ラウー」としました。本稿は、JICA報告書とAFP日本語記事で確認できる「グラン・ラウ」を見出し名に採り、「グラン・ラウー」を異表記として残します。いずれの日本語資料にも、この都市を指す漢字名は載っていません。
「大拉烏」は都市を指しているか
中国商務省が公開する2009年の在コートジボワール経済商務参事官へのインタビューは、「滨海城市大拉乌附近」と記します。香港の無国界醫生も2011年、緊急医療に関する記事で、**科特迪瓦西南部沿海城市大拉烏(Grand Lahou)**と記しました。後者は漢字の直後に欧文名を添え、両資料とも「沿海城市」と明示しています。潟湖や県だけでなく、この町を指す中国語の直接用例として読めます。
大拉烏は日本語の「グラン・ラウ」と一対一に音写した形ではありません。「大」はGrandに、「拉烏」はLahouに当てた中国語の訳名です。日本語に取り込むときも、現代中国語の既存表記を参照したことを隠しません。簡体字の大拉乌は同じ三字形の字体差であり、別の都市名案として数えません。
今回確認した日本語資料と国立国会図書館サーチなどの限定的な検索では、この町に直接用いた日本語の歴史的漢字表記の原典を特定できませんでした。未確認は不存在の証明ではありません。旧市街や河口を扱う古い地図、画像化された資料、別の欧文綴りには調査の余地があります。front matterのhistorical_formsは、確認済みの日本語史料用例がないため空配列とします。
旧市街と現在の町を分ける
世界銀行が公開する西アフリカ沿岸域管理事業の調査報告書によれば、植民地期のグラン・ラウはバンダマ川河口近くの砂州にありました。海岸線の侵食と河口の移動を受け、1973年に市街は約15キロ北のンジダへ移されました。同報告書は、現在のラウ・クパンダに旧市街の建物や墓地が残ることにも触れています。
したがって、古い河口付近の資料と、現在の町の代表点を同じ地点として扱いません。OpenStreetMapが現在の市街に置くGrand-Lahouの地点、北緯5.2503434度、西経5.0024449度を公式サイトの地図に用います。GeoNamesの同名地点は北緯5.13825度と旧海岸部に近いため、現在の市街のピンには使いません。採用点もコミューン全域の重心や公的な測量基準点ではありません。
町の移転は、地名を漢字にした人物を示す出来事ではありません。確認した資料は大拉烏という字を誰がいつ選んだかを示しておらず、都市名そのものの命名者も特定できません。双方とも未確定とします。
人口の範囲
コートジボワールの選挙管理委員会が公表する政令別表には、2021年国勢調査に基づくグラン・ラウ・コミューン42,212人が載ります。本稿の人口欄はこの自治体範囲の数値です。市街の一点の人口でも、同名の小郡や県全体の人口でもありません。
コートジボワールの国の首都はヤムスクロです。グラン・ラウが地域の行政中心地であることと、国の首都であることは別です。
三字形をどう扱うか
都市篇は二文字・三文字を主流にします。この町については、対象都市を欧文名と結び付ける三字の直接用例大拉烏を確認できました。一方、「拉烏」だけをこの町の名称として使った資料や、別の二字形の直接用例は確認できません。短くするための省字は行いません。
日本語の歴史的表記を継承する「伝」「史」ではなく、現代中国語の既存用例を日本語の都市索引へ暫定的に取り込む創とします。「創」はこの三字を本誌が新造したという意味ではありません。原典の性格と採用行為を区別するための制定区分です。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
グラン・ラウ(異表記: グラン・ラウー、グラン=ラウ)
所属国
コートジボワール
現代中国語の都市名用例
大拉烏(簡体字: 大拉乌)
暫定制定都市名
大拉烏――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と字形の初出を継続調査
採らなかった表記と未解決点
旧市街、潟湖、県の名称だけを現在の町の独立した漢字用例とは数えません。二字形を資料なしに新造することもしません。
未解決なのは、日本語でこの都市を漢字で記した原典、大拉烏の初出と選字者、そして都市名そのものの命名者です。旧市街を記した史料を見つけた場合も、対象地点と資料の年代を確認してから再評価します。
参考資料
- JICA・サブサハラアフリカ地域の農業機械化に関する調査報告書、グラン・ラウの研修センター
- JICA「稲作分野における機械化サービス向上計画」、グラン=ラウの用例
- AFPBB News「孤独に生き残るチンパンジーとの出会い」、グラン・ラウの用例
- 無国界醫生(香港)「科特迪瓦:龐大的緊急醫療需要仍然持續」、大拉烏の直接用例(2011年)
- 中国商務省・在コートジボワール経済商務参事官インタビュー、大拉乌の都市用例(2009年)
- 世界銀行公開・WACA Grand Lahou沿岸管理事業報告書、旧市街と1973年の移転
- OpenStreetMap・現在のGrand-Lahou市街の地点
- GeoNames・Grand-Lahou検索結果、旧海岸部に近い同名地点との比較
- コートジボワール選挙管理委員会・2021年国勢調査に基づくコミューン人口を含む政令別表
- 外務省・コートジボワール共和国基礎データ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第七十七号
次は、ジャクビルです。海岸を東へ進み、現地の地名と漢字表記の用例を調べます。
