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万国漢字志 都市篇 第二十二号|ゲルミム――三字「蓋勒敏」を採る

ゲルミムはモロッコ南部の交易都市で、サハラを越える隊商路とアムヒリシュ市場によって発展した。

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三字の直接用例から選ぶ

都市篇第二十二号は、モロッコ南部の交易都市ゲルミムです。

国連の中国語文書は、この都市を三字の盖勒敏と記しています。日本で用いる字体へ直すと蓋勒敏です。

都市篇では二字・三字を主流とします。今回は、三字形そのものが都市に直接対応する用例を確認できました。長い表記を機械的に切り詰める必要はありません。

暫定制定都市名には、資料にある三字を保った蓋勒敏を採ります。


日本語では「ゲルミム」

在モロッコ日本国大使館は、2020年の新型コロナウイルス関連情報でゲルミムを「各都市」の一つとして記しています。JICAの水資源調査報告書にも、行政区画名としてゲルミム県があります。

日本の公的資料には、時期や資料によってゲルミン、グールミン、グルミンというカタカナ形もあります。JICAの道路調査報告書はゲルミン方面、外務省のODA記事はグールミン、JICAの別報告書はグルミン・エスマラ州を使っています。

これらは欧文名Guelmimの日本語転写が一定してこなかったことを示します。本稿では、都市であることを明記した日本国大使館の用例を優先してゲルミムを現在名欄に置き、直前号の予告に使ったゲルミンを含む異形は受容史として残します。

今回確認できた日本語資料の範囲では、ゲルミムを指す歴史的な漢字表記は未確認です。ただし、これは表記が存在しなかったことを意味しません。近代の地理書、新聞、地図、旅行記などには、なお調査の余地があります。

モロッコの首都はラバトです。ゲルミムはゲルミム=ウエド・ノウン地方とゲルミム州の中心都市ですが、国の首都ではありません。


国連文書の「盖勒敏市」

国連デジタルライブラリーが公開する2018年の中国語文書は、対象者の居住地を摩洛哥盖勒敏市と記しています。同じページには摩洛哥南部盖勒敏市、盖勒敏市初审法院も現れます。

国名、南部という位置、都市を表す「市」、現地裁判所がそろっているため、地方全体ではなく本稿のGuelmim市を指す直接用例と判断できます。

文書にあるのは中国簡体字の盖勒敏です。日本語側へ移す際は、簡体字の盖を日本で用いる字体の蓋へ直し、蓋勒敏とします。三字の追加や削除は行いません。


Unicode CLDRの「蓋勒敏省」

Unicode CLDRのCJK地域区分名一覧は、Guelmim Provinceに対する繁体字形を蓋勒敏省、日本語形をゲルミン州としています。

これは行政区画名であり、都市そのものの直接用例ではありません。都市名の証拠は国連文書の盖勒敏市に置き、CLDRは同じ地名由来の州名における繁体字形を確認する補助資料として扱います。

簡体字の盖勒敏と繁体字の蓋勒敏が対応するため、日本語側の字体を決める根拠は明確です。


「創」が意味するもの

盖勒敏/蓋勒敏という文字列そのものは、万国漢字志の造語ではありません。国連文書とUnicode CLDRに先行用例があります。

それでも制定区分を創とするのは、日本語史料に定着した既存漢字形を継承するのではなく、中国語圏の既存形を日本字体へ正規化し、現代日本語の都市索引へ暫定的に取り込むためです。

本稿の創は、「世界で初めて三字を作った」という意味ではありません。異なる言語圏の既存形を根拠に、日本語側で新たに採用する区分です。


サハラを結んだ交易都市

ゲルミム=ウエド・ノウン地方評議会の公式サイトによれば、この地域ではヌール・ラムタ、テカウストに続き、ゲルミムが18世紀から、とくに19世紀にサハラ交易の中心を担いました。

隊商はゲルミムを経由してモロッコ北部とサハラ以南のアフリカを結び、金、象牙、ナツメヤシ、塩などを運びました。地方評議会は、ティンブクトゥへ向かう隊商の重要な中継地だったと説明しています。

都市の市場アムヒリシュには300年以上の歴史があり、現在もモロッコを代表するラクダ市場の一つとされています。ゲルミムを単に「砂漠の入口」と呼ぶだけでは、都市が果たした交換と仲介の役割を見落とします。

ゲルミム州観光評議会の公式サイトは、現在の都市の核をカスバのアグイディールに求め、1797年から1800年に地域を襲った社会不安と疫病の後に繁栄したと記しています。独立後の1959年には都市コミューンと中心地に定められ、のちに現在の地方の中心都市となりました。


水を表す名

ゲルミム州観光評議会は、Guelmimがアマジグ語のAgoulmimに由来し、「湿った場所」を意味すると説明しています。周辺に複数の水場があり、牧畜を営む人々が集まる場所になったことと結びつけています。

別の地域記事には、語を二つに分けて果実や甘さに結びつける説もあります。しかし、公式観光資料が示す水場の説明と一致せず、語源を確定できる言語学的資料も今回の調査では確認できませんでした。

したがって本稿では、Agoulmim=湿った場所を地域公式資料が採る説明として紹介しますが、唯一確定した語源とはしません。


命名者は確認できない

ゲルミムが18世紀末以降に交易都市として伸びた経緯は確認できます。しかし、Guelmimという名称を最初に造語した人物は確認できません。

公式資料は都市の成立を特定の一人の創建事業に帰さず、水場、カスバ、交易、市場の発展として説明しています。都市を発展させた統治者や商家を、そのまま名称の命名者として登録することはできません。

盖勒敏の三字を最初に選んだ人物も確認できません。国連やUnicodeを個人の命名者とみなすこともできません。都市名と漢字表記の命名者は、いずれも未確定とします。


人口と位置

モロッコ高等計画委員会が公表した2024年国勢調査の全国法定人口表では、Commune de Guelmimの人口は12万6,729人です。

内訳はモロッコ人12万6,537人、外国人192人で、世帯数は3万343世帯です。同じ表のゲルミム州全体は19万6,267人であり、都市一覧には州人口ではなく自治体人口を採ります。法定人口の基準日は2024年9月1日です。

GeoNamesのGuelmim(ID 2548526)が示す都市地点は、北緯28.986959度、西経10.057376度です。地方や州の中心座標ではなく、この都市地点を公式サイトの地図表示に使います。


三つの表記を分ける

蓋勒敏

国連文書の盖勒敏を日本で用いる字体へ直した三字形です。

都市との直接対応が確認でき、CLDRの繁体字形とも一致するため、暫定制定都市名に採ります。

盖勒敏

国連中国語文書が都市へ直接使う簡体字形です。

日本語側へ取り込むときだけ、盖を蓋へ直します。

ゲルミム

在モロッコ日本国大使館とJICA資料に見られるカタカナ形です。

都市の現在名として保持し、漢字形と置き換えません。


二字案を採らない理由

今回の調査で都市へ直接対応すると確認できた漢字形は、三字の盖勒敏です。

蓋勒や勒敏は見た目を二字にできますが、どちらにもGuelmimとの直接対応を示す資料を確認できませんでした。三字形の一部を切り出すと、資料にない別名を作ることになります。

二字を優先する方針は、直接用例のある三字形を根拠なく縮める規則ではありません。今回は三字のままで短く、都市との対応も明瞭なため、蓋勒敏を保ちます。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の蓋勒敏を採ります。

根拠は、国連中国語文書が盖勒敏市を都市へ直接使い、Unicode CLDRが同じ地名由来の州名に繁体字の蓋勒敏省を載せていることです。

簡体字一字を日本字体へ正規化する以外に、文字の追加や削除は行いません。日本語の歴史的漢字表記、二字の直接用例、名称の確実な語源、漢字を選んだ人物が判明した場合は再検討します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ゲルミム

所属国

モロッコ

国連文書で確認した中国語形

盖勒敏

Unicode CLDRの州名にある繁体字形

蓋勒敏省

暫定制定都市名

蓋勒敏――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

蓋勒と勒敏は、ゲルミムとの直接対応を確認できないため採りません。

未解決点は、日本語史料における歴史的漢字表記、二字の直接用例、Guelmimという名称の確実な語源と最初の使用者、盖勒敏の漢字を選んだ人物です。近代中国語訳名表の画像調査にも継続の余地があります。

日本語のカタカナ形にはゲルミム、ゲルミン、グールミン、グルミンがあり、時期や対象行政区画による使い分けは完全には整理できていません。公式サイトの索引は、都市への直接用例があるゲルミムに統一し、異形は本文に記録します。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二十三号

次は、タンタンです。

ゲルミムからさらに南西へ進み、井戸と音に結びつく都市名、二字形の直接用例、サハラ交易路との関係を調べます。