国境の向こうの「アシニ」
前号で訪ねたアシニ=マフィアから、国境を越えて東のガーナ側へ移ります。都市篇第七十九号の町はハーフ・アシニです。名前の後半はよく似ていますが、二つの町を一つにまとめることはできません。ガーナ境界委員会の2023年年次報告は、調査の舞台として「Half Assini (Ghana)」と「Assinie (Cote d'Ivoire)」を別々に挙げています。後者の呼称を、前号のアシニ=マフィアと範囲まで同じ地名だとは決められません。
名前が紛らわしいのは、今の国境線を眺めるときだけではありません。古地図の読解では、同じHalf Assiniに近い綴りが、現在とは違う側に記された例もあります。まずは今日の町を確かめ、その後で古い地図に戻りましょう。
今日の町の範囲
ガーナの2025年ジョモロ自治体予算書は、自治体の中心地をHalf Assiniと明記します。ただし、自治体の中心地であることと、ガーナの国都であることは別です。外務省のガーナ基礎データが挙げる国の首都はアクラです。
人口も範囲を分けて読みます。ガーナ統計局の2010年国勢調査ジョモロ地区報告、付表A1では、集落Half Assiniの人口は16,938人です。調査の基準夜は2010年9月26日でした。一方、2025年予算書にある126,576人は2021年のジョモロ自治体全域の人口です。年も対象範囲も違う二つの数字を、町の人口増加として比べることはできません。
本誌が示す北緯5.050911度、西経2.880158度は、気象サイトWeather AtlasがHalf Assiniに付す町の代表点です。公的測量による行政境界や町域の中心を示す座標ではありません。
日本語には「ハーフ・アシニ」
国際協力機構(JICA)の資料には、ウェスタン州ジョモロ郡の任地として「ハーフ・アシニ」が現れます。該当箇所はPDF通し198ページ目で、説明文にも郡都ハーフ・アシニとあります。今回の見出しには、この日本語での直接用例を採りました。
ただし、片仮名の用例は漢字表記の証拠にはなりません。今のところ、このガーナの町を日本語で漢字書きした歴史的な原典は確認できませんでした。「確認できない」は「存在しなかった」と同じではなく、引き続き調べるべき点です。
古地図の位置を読み違えない
歴史家ルネ・バエジュは、複数の古地図を照合した論文で、1862年の地図にある「alf assinie」と1869年の地図にある「Half Assini」は、現在のコートジボワール側に置かれていると説明します。1869年の同じ地図では、現在のガーナ側のハーフ・アシニに当たる場所は「Ewianoe」と記されていた、という読解です。これに対し、1884年の英国側の地図では「Albanee」と「Half Assinie」が同じ場所の別名として現れると記します。
ここで紹介したのは、論文による所蔵古地図の読解です。本誌が地図原本を直接確認した結果ではありません。綴りと表示位置の移り変わりは興味深いものの、これだけで町そのものが国境をまたいで物理的に移った、あるいは分割されたとは言えません。欧文の古地図名を、そのまま日本語の歴史的漢字表記として数えることもしません。
五字の中国語用例
Weather AtlasのHalf Assini, Ghanaのページには、言語別の名として中国語の「哈夫阿西尼」が載ります。中国語版の旅行予約サイトExpediaも、宿泊施設を「哈夫阿西尼」にあると記し、住所欄には英語でHalf Assiniとあります。どちらもガーナの町への直接のウェブ上の用例です。ただし、気象・旅行の商業サイトであり、公式地名や中国語圏で広く定着した表記を保証するものではありません。旅行サイトの文面には自動翻訳が含まれる可能性もあります。
本誌の都市名は二字・三字を標準にしています。それでも、ここでは五字を残します。「哈夫」だけでは地名の後半が消え、「阿西尼」だけでは前号のアシニ周辺と区別しにくくなります。どちらかをこの町全体の短い漢字名として用いた直接資料も、今回は確認できませんでした。字数を整えるために地名の一部を落とすより、直接用例のある全体を暫定的に採る判断です。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ハーフ・アシニ
所属国
ガーナ
現代中国語ウェブ上の町名用例
哈夫阿西尼
暫定制定都市名
哈夫阿西尼――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と漢字の選字者は継続調査
この「創」は、本誌が既存の中国語ウェブ上の五字を日本語の都市索引へ暫定的に取り込む区分です。五字そのものを本誌が発明した、あるいは日本で昔から使われた、という意味ではありません。字面から地名の語源や名付け親を推定しません。
残る問い
今後確認したいのは、ガーナ側の町を指す日本語の古い漢字資料があるか、ウェブ以外に「哈夫阿西尼」の独立した用例があるか、そして古地図の異綴りが現地でどう使い分けられていたかです。古地図の位置、現代の行政資料、旅行サイトの漢字を同じ種類の証拠として扱わず、資料が増えたときに暫定案を見直します。
参考資料
- JICA・平成24年度秋募集ボランティア要望調査票、PDF通し198ページ目の「ハーフ・アシニ」
- Weather Atlas・Half Assiniの中国語表記と代表座標
- Expedia中国語版・Assembly Hotelの所在地と英語住所
- ガーナ統計局・2010年国勢調査ジョモロ地区報告、付表A1
- ガーナ財務省・2025年ジョモロ自治体予算書、中心地と2021年自治体人口
- René Baesjou・古地図におけるHalf Assiniと周辺の異名に関する論文
- ガーナ境界委員会・2023年年次報告、両国の地名を区別した記述
- 外務省・ガーナ共和国基礎データ、首都アクラ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第八十号
次はガーナの首都、アクラです。
