言語を切り替えると、二字が替わる
オーストラリア政府観光局のHobartの案内には、簡体字版で霍巴特指南、繁体字版で荷伯特(Hobart)指南という見出しがあります。日本語版の名はホバートです。
「霍巴特」と「荷伯特」は、どちらも三字。けれども一字目と二字目が違います。簡体字を繁体字へ機械的に置き換えるだけでは、この二つの名の関係を説明できません。
同じ発信元が、異なる言語版で別の漢字形を使っている。その事実から出発し、今回は**霍巴特(ホバート)**を暫定案にします。「荷伯特」が誤りだという判断でも、先に使われた形を確定したという判断でもありません。
同じ発信元で確かめる、現代の使い分け
簡体字版の本文は、Hobartを霍巴特と記し、タスマニア州の州都として紹介しています。繁体字版もHobartに対応する都市を紹介しますが、そこで使うのは荷伯特です。まず確認できるのは、この二つのページに現用の表記差があるということです。
これだけで、中国大陸の全資料は前者、台湾の全資料は後者で統一されているとは言えません。各地域の官庁、出版物、地名辞典を横断した結果ではなく、政府観光局の簡体字版と繁体字版という、確認できた範囲での比較です。
一方を古い形、もう一方を新しい形と並べることも、今回の資料だけではできません。ページの言語の違いと、表記の年代の違いは別の問題です。
歴史表記と日本語の読み
日本語で使われた歴史的な漢字名は、現時点では原典未確認です。 古地図や紀行の原本で「霍巴特」を確認した、とは記しません。現代の観光局サイトにその字があることは、近代日本で同じ表記が使われた証拠にはならないためです。
現代日本語については、政府観光局の日本語版見出しでホバートを確認できます。本稿が霍巴特に添える読みも、この都市名に対応させます。
「霍」「巴」「特」の各字の日本語音読みから、ホバートという都市名を規則的に再現できると主張するものではありません。また、現地音声や中国語音声は未聴取であり、どちらの漢字形が実際の発音に近いかを聴き比べたものでもありません。
漢字の初出や選字者も要継続調査です。既存の表記を採用することと、その成立史を解明することは分けておきます。
二文字・三文字案の比較
霍巴
霍巴特から末字を落とした二字の比較案です。短くなりますが、今回の公式ページに掲載されていた名は三字です。二字形を現用略称として確認したわけではありません。短くする必要がないところで一字を落とす理由は、今のところ見いだせません。
荷伯特
政府観光局の繁体字版で使われている三字の既存形です。この案を採るとしても、新しい当て字を創作することにはなりません。本誌の採用形と併せて、参照すべき現用形として残します。
霍巴特
簡体字版で確認した三字を、そのまま使う案です。二・三字という都市篇の標準にも収まり、資料の見出しと容易に照合できます。今回はこの形を採ります。採用理由は確認済みの用例との照合であり、もう一方より歴史が古い、意味が優れる、といった未検証の順位付けではありません。
人口表のホバートは、どこまでか
人口の対象は、ABSのHobart、SUA6003です。公式原表「Regional population 2024–25」Table 2では、2025年6月30日の推計居住人口233,736人。2021年SUA境界に基づく値で、2025年分は暫定推計です。
SUAは、都市中心や関連する中心群をSA2という統計地区から構成した区域です。City of Hobartという自治体だけの人口でも、別の区分であるGreater HobartのGCCSA人口でもありません。観光ページに描かれた旅の範囲とも、自動的には一致しません。
ホバートはタスマニアの州都ですが、オーストラリアの国都はキャンベラです。この二つの意味の「首都」を混同しないようにします。
位置の目安は、GeoNamesのHobart項目にある南緯42.87936度・東経147.32941度。既存索引の代表点であって、SUA境界を示す点列でも人口重心でもありません。人口は同索引の値を流用せず、ABS原表によっています。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ホバート
所属国
オーストラリア
確認した現代中国語の用例
簡体字版:霍巴特
繁体字版:荷伯特
暫定制定都市名
霍巴特――既
制定状態
暫定制定・原典継続調査
三字を変更せず採るため、区分は既です。日本語に伝統的に定着した形だという「伝」や、歴史原典を実見した「史」にはしません。
採らなかった表記と未解決点
荷伯特は、採用形とは異なる既存名として残します。今後、日本語の歴史資料や地名辞典で別の根拠が得られれば、両形との関係を改めて検討します。
今回並べた二つのページは、同じ都市を異なる漢字で案内する例です。そこから表記の年代順や命名者まで読み取ろうとせず、確かめられた三字の使用例を記録しておきます。
参考資料
- オーストラリア政府観光局「霍巴特指南」簡体字版。霍巴特とHobart、州都の記載。
- 同「荷伯特(Hobart)指南」繁体字版。荷伯特の現用例。
- 同「ホバート旅行ガイド」日本語版。日本語名の用例。
- ABS「Regional population 2024–25」公式原表。Table 2、区域6003、2025年6月30日暫定ERP、2021年SUA境界。
- ABS「Significant Urban Areas」ASGS Edition 3。採用人口の地理区分に対応する定義。
- GeoNames「Hobart」。既存索引の代表点。CC BY 4.0。
- 外務省「オーストラリア基礎データ」。国都の確認。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第百四十三号
次は、現在の掲載順に従ってニューカッスル・メイトランドを扱います。港町と川沿いの町を、一つの人口表がどう並べるのかを見ていきます。
