万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百八十六号|ウエルバ――古名を伝える資料と「韋爾瓦」――

1913年の雑誌に見える古名と2012年の中国語実例を分け、韋爾瓦を暫定採用する。


古い名前を、いつの紙面で読んだか

1913年の雑誌を開くと、ウエルバの古い名として Onuba や Welba が並んでいます。紙面は確かに古いのですが、そこに書かれた古代の出来事と同時代の資料ではありません。「古名が載る資料」と「古代の原典」の違いを、ここから考えます。

対象はスペインの Huelva、INE自治体コード21041です。同名の県や周辺の港町を、現在の一自治体の人口に含めません。


歴史表記

アンダルシア国際大学が公開する雑誌『La Rábida』の1913年12月31日号には、Enrique López y Perea による「Recuerdos históricos sobre la Provincia de Huelva」があります。印刷7〜8頁、PDFでは5〜6ページ目。末尾の署名には同年8月6日、Ayamonte とあり、執筆時点と掲載日も分けて読めます。

原紙の複製画像で、冒頭の Onuba と Welba、さらにローマ時代の Onuba を Huelva に比定する議論の記述を確認しました。これは1913年の著者が古名をどう説明したかの直接の証拠です。そこで挙げられる古典著作そのものや、古代の貨幣・碑文を実見した証拠にはなりません。古名の語源や地理的同定を、この雑誌だけで確定することは控えます。

別の時代の名簿を扱うアンダルシア州統計地図研究所の展示は、1890年の選挙人名簿と1898年の住民台帳などを紹介しています。選挙人の数は全住民の数ではない、という注意もあります。同じ Huelva の名が付いていても、資料ごとに対象と数え方が異なります。

この展示は現代の史料解説で、紹介された名簿原本を今回読んだわけではありません。古代の都市、1913年の歴史叙述、現在の municipio 全域を、名前だけで同一の範囲にしません。日本語の伝統的漢字表記も原典未確認です。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトの日本語版は、見出しを「ウエルバ」とし、Huelva を併記します。本誌ではこの現代日本語名を採ります。「ウェルバ」という小書きのェを使う形とも区別し、この記事ではウエルバにそろえます。


中国語圏その他の表記との比較

淡江大学西班牙語文学系の系刊『OLÉ』第4期は、表紙に2012年4月と記します。印刷22頁、PDF23ページ目の楊憶欣「我和韋爾瓦的回憶」には、都市を指して「韋爾瓦(Huelva)」とあります。本文の文字抽出とページ画像の両方で確認しました。

大学が刊行した系刊に載る留学体験の文章であり、地名の公定訳を定める告示ではありません。ここでは実際にこの三字が用いられた証拠として参照し、旅行案内や地理説明の全体を人口・境界の根拠にはしません。

本誌は「韋爾瓦」を字形変更も省略もせず採用します。同一の三字で、対象都市と原綴りの対応まで確認できるため区分は「既」です。日本語で用いる字形を保てますが、それだけで日本語に伝統的に定着した「伝」と認めるものではありません。


二文字・三文字案の比較

韋瓦

「爾」を省く二字案です。短くなりますが、中間の音に対応する部分を失います。本誌の比較用の短縮案で、既存略称の直接用例は今回確認していません。

威爾瓦

先頭を「威」に替えた三字案です。日本語でもなじみのある字ですが、確認した出典の「韋」とは異なります。本誌の比較用の改案であり、既存の用例を確認した形としては示しません。

韋爾瓦

そのままの字形による実例がある三字案です。ただし、通常の日本語音読みをつなげてもウエルバとは読めません。とくに「瓦」からバという音を自然に導けるわけではなく、カナによる指定の読みが必要です。字数の一致と音の一致は別に考えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ウエルバ(Huelva)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

韋爾瓦――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

INE年次人口センサス表68065の2025年1月1日の通常居住者は143,774人です。コード21041の municipio 全域であり、ウエルバ県、港の利用者や周辺自治体を合算した都市圏、過去の選挙人だけの人口ではありません。2026年11月7日保存版を用い、独立した境界ポリゴンの版は未確認です。


採らなかった表記と未解決点

「韋爾瓦」の実例は2012年の系刊で確認できましたが、漢字表記の初出・命名者、日本語の伝統的な漢字用例は未確認です。1913年の雑誌に古いラテン文字の名前が載っていることも、漢字名の歴史的使用を裏付けるものではありません。

古代の Onuba と現在の自治体の関係を確かめるには、古典著作の本文、考古資料、範囲の照合がさらに必要です。本稿では、読めた紙面の年代と、それが説明する時代の違いを残しておきます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇

第三百八十七号はタラゴナを取り上げます。