万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百九十五号|ハエン――首府の記念年と「哈恩」の二字――

市が語る首府の歴史と大学の現代用例を分け、哈恩を暫定採用する。


「首府」という言葉の広さ

ハエン市が2025年に掲げたのは、首府となって1200年という記念でした。その説明に現れるのは、現在の県名でもある Jaén ではなく、イスラム期の行政地域を指す Yayyan です。同じ場所の話を読んでいても、町と、その町が中心となる地域を分ける必要があります。ハエン市の記念事業発表

本稿の対象はスペインの自治体 Jaén、INEコード23050です。この組を保持し、別の国の同名地や、同じ名の県へ話を移し替えずに、漢字の二字を考えます。


歴史表記

市の2025年1月23日付発表は、825年にアブド・アッラフマーン2世が町を cora islámica de Yayyan の首府とした、と説明しています。ここで直接読んだのは、記念事業を発表する現在の自治体の文章です。825年の命令書やアラビア語史料の原本・写本・校訂本文を見たわけではありません。同時代の命名行為の証拠としては扱いません。市の発表、冒頭

Yayyan はこの資料では cora という地域の名として現れます。したがって、引用された語をそのまま「825年の市名の綴り」と認定することは控えます。イスラム期の行政地域、現在のハエン県、現在のハエン自治体は、境界も制度も同一と確認したものではありません。

日本語の歴史的漢字表記は原典未確認です。「哈恩」の現代用例が見つかっても、そこから中世以来の漢字名や漢字表記の命名者を導くことはできません。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトは、日本語見出しを「ハエン」、原語の都市名を Jaén としています。本誌もこのカナを採ります。公式日本語観光案内

同ページはハエン県や県内の町にも触れますが、記事に複数の町が登場することと、人口を合算することは別です。また、市の記念事業でいう歴史上の首府や、現在の県の中心都市という役割を、スペイン国家の首都という意味にはしません。国家の首都は憲法第5条のマドリードです。スペイン憲法


中国語圏その他の表記との比較

山東建築大学の国際交流合作処が2026年3月6日に公表した訪問報告には、「西班牙哈恩大学(University of Jaén)」とあります。さらに大学紹介の段落は、主キャンパスの所在地を「哈恩市」と記します。大学名だけでなく、町を指す用例まで読める資料です。同大学の訪問報告

Turespañaの中国語冊子の11ページにも「哈恩,Jaén」という対応が見えます。ここでは地名の対応だけを参照し、同所の建物説明を歴史的同定の根拠にはしません。公式中国語冊子

大学の訪問報告は、交流を行った大学自身が発表した現代中国語の文章です。地名の公定訳を制定する告示でも、古い漢字史料でもありません。紹介文中の距離や学生数を、自治体の同定や人口の根拠へ流用することもしません。

本誌案は「哈恩」。引用の二字を省略も字形変更もせず使い、日本語で用いる字形との違いも生じないため、区分は「既」とします。日本語で広く定着した伝統名を意味する「伝」とは区別します。


二文字・三文字案の比較

哈恩

確認した現代用例と同じ二字です。ただし、日本語の通常の読み、とくに「恩」のオンから、ハエンのエンという音をそのまま再現することはできません。都市名としての読みはカナと原綴りを添えて指定します。「哈恩」だけでは国や自治体コードの識別も十分ではありません。

哈延

「恩」を「延」に替える本誌の「改」案です。「延」のエンはカナに近づきますが、確認した大学の用例と同じ字形ではなくなります。前半を含めた全体の読みが自動的にハエンとなるわけでもありません。実際の都市名用例は未確認です。

哈恩市

大学の報告に実際に現れる三字です。「市」は都市を指すことを助けますが、地名の音の一部ではなく、通常読めばシが加わります。対象自治体の識別情報は別途示せるので、本誌の制定名には地名部分の二字を採ります。この中国語の「市」を、日本の地方自治制度と同じ法的区分ともみなしません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ハエン(Jaén)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

哈恩――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

INE年次人口センサス表68065による2025年1月1日の通常居住者人口は112,119人。Sexo=Total・Periodo=2025、自治体コード23050の municipio 全域の数です。中心市街地だけでも、ハエン県全域でも、周辺自治体を合算した都市圏でもありません。INE表68065

2026年11月7日保存版を用いました。公表日は2025年12月2日、対応PXの作成日表示は2026年4月30日。保存CSVのSHA256は 9e37188faa63aa86e7a8648469834beaa2e728e5338e3364ef1ce4685178d419、該当原行は物理53342行です。記念事業の発表に出る県人口の概数は、この市の人口に置き換えません。

国・現代名・自治体コードを一組にして扱います。代表点は選定資料のGeoNamesの位置を継承しています。独立した自治体境界ポリゴンの版や、中世の地域境界との重なりは未確認です。


採らなかった表記と未解決点

「哈延」は読みを考えるための本誌案として残しますが、根拠のある同一形の用例を優先し、今回は「哈恩」を採ります。これを日本語の伝統名、唯一の中国語表記、漢字表記の初出と主張するものではありません。

漢字名の初出・命名者、日本語の歴史的漢字原典、Yayyan の中世原文での綴りと指示範囲は継続調査です。今回確かめた市の記念事業発表と大学の交流報告は、それぞれ現代の機関が何を述べ、何と表記したかの直接資料として用いています。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第三百九十六号

第三百九十六号はレウスを取り上げます。