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都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第三十五号|ジョアール――三字の「若阿勒」と貝の島

ジョアールはセネガル西部、小海岸の南端にある漁業都市。島のファデュトゥ、ンガゾビルと一つのコミューンを構成し、貝塚とマングローブの景観でも知られる。2023年のコミューン人口は6万1582人。

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ジョアールは、どこまでを指すのか

都市篇第三十五号は、セネガル西部の大西洋岸にあるジョアールです。

日本の外務省は2018年、ンブールと並ぶ漁業都市としてジョアール市を挙げました。近年の政府開発援助資料では、コミューンの全名に近いジョアール・ファデュトゥも使われています。

セネガル側の行政名はJoal-Fadiouthです。大陸側のジョアール、潟湖の島ファデュトゥ、北側のンガゾビルを合わせたコミューンで、日常的な都市名としてはJoalだけでも呼ばれます。

中国語圏の資料には、ジョアールを三字で、

若阿勒

と記す用例があります。

ただし、確認できた用例は中国政府が定めた標準地名表ではありません。本稿では、実在する中国語表記として資料の性格を明示し、日本語の歴史的表記とは区別して検討します。


日本政府資料の「ジョアール」

外務省は2018年、セネガルの水産業を支援する無償資金協力について、対象地を、

ンブール市及びジョアール市

と記しました。在セネガル日本国大使館の記事も同じ形を使い、両市に水揚施設やアクセス道路を整備すると説明しています。

2024年の外務省資料では、事業名にジョアール・ファデュトゥが現れます。国際協力機構の案件名も同じ表記です。

したがって、ジョアールは日本政府資料に定着した短い都市名、ジョアール・ファデュトゥはコミューン全体を明確にする名称として扱えます。本稿の主題は大陸側の都市名ジョアールですが、人口と行政情報はコミューン全体の範囲で示します。

表記にはジョアルもあります。しかし、現在の外務省と在外公館が長音を含む「ジョアール」を反復しているため、公式サイトではこちらを主表記にします。


中国語圏にある「若阿勒」

中国商務部国際商務官員研修学院は2021年、セネガルから参加した図書館関係者の所属地を塞内加尔若阿勒·法久特と記しました。Joal-Fadiouthの全名に対応する、公的機関による直接用例です。ただし、地名標準化機関の告示ではありません。

香港のグリーンピースは2020年、西アフリカの漁業を扱う中国語記事で、セネガルの漁業都市Joalを若阿勒と記しました。同じ段落でンブールにも触れており、記事の対象地を取り違える余地は小さい用例です。

上海外国語大学系の学術誌『中国比較文学』には、セネガル初代大統領レオポルド・セダール・サンゴールの生地として若阿勒が現れます。人物の生没地を示す文脈で、Joalとの対応が確認できます。

中国語の地理資料には、コミューン全体を若阿勒―法久特または若阿勒法久特とする形もあります。ここでは前半三字がJoal、後半三字がFadiouthに対応します。研修学院の用例では、二つの地名を中黒でつないでいます。

複数の独立した中国語資料がJoalを若阿勒と書いています。そのため、この三字形は記事タイトルから機械的に作った案ではありません。

一方で、中国外務省、在セネガル中国大使館、国連中国語文書からは、今回Joalを直接示す用例を確認できませんでした。公的な中国語標準名と断定せず、既存の中国語用例として位置づけます。


日本語の歴史的漢字形は未確認

国立国会図書館デジタルコレクションとアジア歴史資料センターで、ジョアール、ジョアル、Joal、若阿勒などを照合しました。都市を指す日本語の漢字表記は確認できませんでした。

国立国会図書館サーチには、1989年の雑誌記事「貝殻の村・ジョアル(セネガル)」が収録されています。これは現在の「ジョアール」と異なる旧カタカナ形を示しますが、漢字表記の証拠ではありません。

これは、漢字表記が存在しなかったことの証明ではありません。旧仏領西アフリカの地理書、航路資料、漁業資料には、全文検索できない画像資料も残ります。

現段階では、若阿勒を日本語史料から復元した歴史表記とは扱いません。中国語圏の既存用例を、日本語の都市索引へ暫定的に取り込む形とします。


三つの場所から成るコミューン

セネガルの海洋保護区担当部局が公開する資料は、ジョアール・ファデュトゥ・コミューンが1966年に三つの場所を統合して成立したと説明しています。

一つ目は、大西洋岸の砂州に広がるジョアールです。人口と経済活動の大部分がここに集まり、零細漁業の水揚げと水産物加工が都市を支えています。

二つ目は、潟湖の島ファデュトゥです。貝殻の堆積が地面と景観を形づくり、木橋でジョアールと結ばれています。

三つ目は北側のンガゾビルです。行政名Joal-Fadiouthだけを見ると二地点に見えますが、コミューンの構成を説明するセネガル政府資料はンガゾビルも含めています。

この違いは数字を読むときに重要です。ジョアール単独の市街人口と、ジョアール・ファデュトゥ・コミューンの人口を混同しません。


漁港と海洋保護区

外務省の無償資金協力は、ジョアールとンブールの水揚施設を改修し、衛生・品質管理を改善する事業です。国際協力機構も、ジョアール・ファデュトゥの水産物付加価値向上を案件名に掲げています。

セネガルの海洋保護区資料は、ジョアールの漁業センターを国内有数の零細漁業拠点として説明します。漁業だけでなく、貝類の採集、水産物加工、農業、観光も地域の生活に関わります。

ジョアール・ファデュトゥ海洋保護区は、コミューンの沖合、潟湖、マングローブを含みます。セネガル政府の案内には、魚類、貝類、海鳥の生息環境に加え、貝塚、杭上の穀倉、共同墓地などの文化資産も挙げられています。

したがってジョアールは、漁港だけでも、観光地だけでもありません。海と潟湖の資源、加工と流通、島の生活文化が接する都市です。


サンゴールの生地

ジョアールは、詩人でセネガル初代大統領となったレオポルド・セダール・サンゴールの生地としても知られます。

セネガルの海洋保護区資料は、ジョアール・ファデュトゥの文化遺産としてサンゴールの生地と博物館を挙げています。文化省の記事は、ジョアールの教会でサンゴールが洗礼を受けたと記録しています。

中国語の学術誌で「若阿勒」が使われるのも、サンゴールの生地を示す箇所です。人物史の記述が、都市名の三字表記を残す経路になっています。

ただし、サンゴールは都市名Joalの命名者ではなく、漢字形「若阿勒」の考案者でもありません。有名な出身者と命名者を混同しないよう、公式サイトでも命名者は未確認とします。


コミューン人口は6万1582人

セネガル国家統計・人口経済分析庁の2023年国勢調査に基づく地域表では、ジョアール・ファデュトゥ・コミューンの人口は、男性3万2545人、女性2万9037人、合計、

6万1582人

です。

公式サイトにはこの数値を採ります。対象範囲はジョアール単独ではなく、ジョアール・ファデュトゥ・コミューン全体です。

GeoNamesが示すジョアールの代表点は、北緯14.17308841度、西経16.84928751度です。公式サイトでは小数第六位に丸め、北緯14.173088度、西経16.849288度を表示します。これはコミューン境界ではなく、都市を地図上で示す代表座標です。

セネガルの首都はダカールです。ジョアールは国の首都ではなく、ティエス州ンブール県のコミューンです。


都市名と漢字形の命名者

Joalという地名の由来には複数の説明が流通していますが、今回参照できた政府・統計資料から、語源や命名者を確定できませんでした。

1966年にコミューンが編成されたことは、古くからあるジョアールという地名をその年に誰かが作ったことを意味しません。行政単位の成立と都市名の成立は別の出来事です。

漢字形若阿勒についても、最初にこの三字を選んだ人物と時期は未確認です。中国語記事の著者や翻訳者が最初の命名者だったと推測することはしません。

したがって、都市名の命名者と漢字表記の命名者は、いずれも未確認とします。


二字案と三字案を比べる

若阿勒

中国語圏の複数資料でJoalに直接対応する三字形です。読みの手掛かりを保ち、都市篇で主流とする二字・三字の範囲にも収まります。

若阿

二字で簡潔ですが、Joalを若阿とする直接用例を確認できません。「若阿勒」から末字を落とす根拠がないため採りません。

若奥勒

日本語の長音を意識した三字案です。しかし、既存資料にあるのは「阿」であり、音の印象だけで「奥」へ置き換えることはしません。

この都市では、短縮や新しい音訳より、直接用例のある三字形若阿勒が適切です。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の若阿勒を採ります。

根拠は、中国商務部系の研修機関、香港の環境団体記事、中国の学術誌、複数の中国語地理資料にあるJoalへの直接用例です。中国政府の標準地名と断定せず、資料上の既存表記として採用します。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「若阿勒」という文字列自体を本稿が初めて作った、という意味ではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
ジョアール

コミューン名
ジョアール・ファデュトゥ

所属国
セネガル

中国語圏で確認した都市名
若阿勒

暫定制定都市名
若阿勒――創

制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

若阿は二字ですが、都市名としての直接用例がないため採りません。若奥勒も、資料にある字を根拠なく交換するため採りません。

未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、Joalという地名の語源と命名者、漢字形「若阿勒」を最初に選んだ人物、中国政府または国連が用いる中国語標準形の有無です。

また、ジョアール単独の最新人口は、コミューン全体の2023年人口と分けて示せる公的統計を確認できていません。公式サイトの人口は範囲を明記してコミューン値を採ります。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第三十六号

次は、ファティックです。

ジョアール・ファデュトゥから州境を越え、サンゴールの名とセレール文化に結びつく内陸都市の漢字表記を調べます。