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万国漢字志 都市篇 第五十四号|カジノル――1860年のCassinolから三字「迦慈乗」へ

カジノルはセネガル南部、ムロンプ・コミューンの六地区から成るジョラの集落群。水田農耕と水田漁、伝統王制、十九世紀の対仏交渉史を伝える。

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カジノルはカジフォロンではない

都市篇第五十四号は、セネガル南部の集落群、カジノルです。

この名は資料によって、Kajinol、Kadjinol、Cadjinol、Kadjinolle、Kajinoolと書かれます。さらに1860年のフランス条約集にはCassinolと記録されました。

似た名にKadjifolongがあります。前に扱ったムロンプを構成する地区の一つです。しかし、カジノルの別名ではありません。2023年国勢調査でも、KADJINOLLEを冠する六地区とMLOMP KADJIFOLONGは別々に収録されています。

よく似た地名を同じ場所としてまとめると、人口も歴史も混ざります。本稿では、カジノル六地区を一つの集合地名として扱い、カジフォロンを含めません。

日本語や中国語でカジノルを直接指す既成の漢字名は確認できませんでした。そこで、まず資料ごとの綴りと範囲を確かめ、最後に本誌独自の三字案を組みます。


日本語名と長音は未確定

国立国会図書館サーチ、国立公文書館アジア歴史資料センター、国立国会図書館の本文検索を、Kajinol、Kadjinol、Cadjinol、Kadjinolle、Kajinool、Cassinol、カジノル、カジノールなどで確認しました。しかし、セネガルのこの集落群を漢字で記した日本語資料は見つかりませんでした。

綴りの変化は現地と植民地期の資料に残っています。1896年の植民地資料と1906年の研究書にはCajinolle、独立直前の1960年セネガル官報にはCadjinol、現在の国勢調査にはKADJINOLLEが現れます。国立人口研究所の人口研究は、現地語寄りのKajinoolを用います。

フランス語系の綴りCadjinolやKadjinolからはカジノル、人口研究が用いる現地語寄りの綴りKajinoolからはカジノールという写し方が考えられます。Kajinoolの二つのoは長母音を示す可能性がありますが、今回、現地話者の音声資料までは確認できませんでした。

本稿では前号予告との連続性とGeoNamesのKadjinolを踏まえてカジノルとします。公的に定まった日本語名ではなく、今後、現地語の発音資料が得られれば再検討します。

日本語の歴史的漢字表記も採録できないため、歴史表記欄は未記入とします。これは漢字表記が存在しなかったという断定ではなく、現在の調査で原典を示せないという記録です。


六地区から成る集落群

フランス国立人口研究所のムロンプ人口観察資料は、調査地域を旧来の二つの村、M'LompとKajinoolに分けています。Kajinoolを構成するのは次の六地区です。

  • Kanjanka――現在の国勢調査表記Kandianka
  • Hasuka――同Hassouka
  • Ebankiin――同Ebankine
  • Kañao――同Kagnao
  • Seege――同Sagueur
  • Kafon――同Kafone

セネガルの行政制度と地名の綴りが変わっても、六地区をまとめる集合地名は人口研究の中に残っています。セネガルの大学で行われた地域研究も、Cadjinolleをこれら六地区から成るまとまりとして説明します。

行政上はジガンショール州ウスイ県ルディア・ウォロフ郡、ムロンプ・コミューンに属します。現代の行政区分と、後に述べる伝統王国の範囲は同じものではありません。


代表点と2023年人口

GeoNamesはKadjinolを集落として登録し、代表点を北緯12.56194度、西経16.57083度に置いています。別名にはCajinolle、Kajinole、Kajinolleが記録されています。

セネガル国土整備庁の縮尺20万分の1の公式KMLでは、カジノル全体の代表点を確認できませんでした。構成地区の点はありますが、その一地区を集落群全体の中心とみなす根拠はありません。そのため都市一覧ではGeoNamesの集合地名の点を用います。六地区の境界や幾何学的中心を測量した値ではありません。

セネガル国家統計・人口経済分析庁(ANSD)の2023年国勢調査は、KADJINOLLEを冠する六地区を次のように収録しています。

  • Kadjinolle Ebankine――317人
  • Kadjinolle Hassouka――401人
  • Kadjinolle Kafone――513人
  • Kadjinolle Kagnao――425人
  • Kadjinolle Kandianka――347人
  • Kadjinolle Sagueur――136人

合計は2,139人です。内訳を合算すると男性1,023人、女性1,116人、447世帯、365コンセッションになります。

都市一覧の人口は、この六行を編集上合算した値です。ANSDが「Kadjinolle 2,139人」という単独行を公表しているわけではありません。Kadjifolongの1,036人はムロンプ側の地区なので加えません。

セネガルの首都はダカールです。カジノルは国の首都ではなく、州、県、郡、コミューンの行政首都として扱う根拠も確認できません。


水田と水路の暮らし

カジノルはカザマンス川河口部の水田地帯にあります。地理学者マリー=クリスティーヌ・コルミエ=サレムの研究は、Kadjinolをムロンプ周辺のジョラ集落として扱い、水田の中で柵や投網を使う漁を記録しています。

漁獲は主に自家消費と地域内の交換に向けられました。水田は米だけを作る場所ではなく、水路、魚、季節ごとの労働を結ぶ生活空間でもあります。

国立人口研究所の観察資料も、地域経済の中心に稲作、漁、ヤシ酒の採取を挙げています。現代の人口値だけでは見えにくい土地利用と生活のまとまりが、六地区を結んでいます。


五つの伝統王国の一つ

ムロンプ・コミューンの植物利用を調査した研究は、慣習上の五つの王国として、カジノル、ムロンプ、エルディア、カニュト、サマティットを挙げています。王は社会の結束と平和を守る役割を持つと説明されます。

ここでいう王国は、現在のセネガル行政区分や独立国家ではありません。地域の伝統的・儀礼的な枠組みです。カジノルが国や州の首都だという意味でもありません。

人口観察資料には、成人儀礼ブクットをカジノル六地区がほぼ同じ年に行ってきた記録があります。1990年の実施は、六地区を一つの儀礼単位として見る具体例です。

現在の王の氏名は、今回確認した資料だけでは確定できませんでした。過去または近隣の王名を流用せず、未確定のままとします。


1860年5月19日のCassinol

ジュール・ド・クレルクがフランス外務省の後援で編んだ『フランス条約集』第八巻は、1860年5月19日にフランスとCassinolの首長たちが結んだ条約を登録しています。

同書の要約は、ポワント・ジョソール、すなわちポワント・サン=ジョルジュの譲渡、フランスの宗主権の承認、セネガル植民地への領域併合を内容として掲げます。

このCassinolは、現代資料のCadjinolやKadjinolleへ続く歴史綴りとして確認できます。Cassinolは日本語の漢字表記ではないため、記事冒頭の歴史表記欄には入れず、ラテン文字による歴史記録として残します。

歴史学者ロバート・M・バウムは、カジノル側が周辺からの襲撃に対するフランスの保護を求めた可能性を示す一方、交易所の拡張や新作物の導入をめぐって、その後に警戒が強まった経緯を記しています。

条約集の「宗主権」や「併合」は、フランス側が植民地拡大を記述した語です。カジノルの人々が近代国家間の対等な条件で、自らの土地を一義的に譲ったという物語には置き換えません。

条約はCassinolという綴りの年代を確かめる資料ですが、この地名を最初に作った人物を示す資料ではありません。


地名の意味と命名者は未確定

Kajinol、Kadjinol、Cadjinol、Kadjinolle、Kajinool、Cassinolという綴りは確認できました。しかし、語を現地語の要素に分けて意味を説明する信頼できる資料は見つかっていません。

六地区の成り立ち、十九世紀の首長、フランス側の条約締結者は、それぞれ別の問題です。歴史上の人物が確認できても、その人が地名を作った証拠がなければ命名者にはしません。

漢字表記の命名者も確認できません。今回の制定案は万国漢字志の案ですが、特定の一個人名を登録しません。


中国語圏にも直接用例はない

台湾・国家教育研究院の外国地名訳名データ、中国大陸・台湾・香港の政府機関と主要用語資料を、Kajinol、Kadjinol、Cadjinol、Kadjinolle、Kajinool、Cassinolで確認しました。しかし、この集落群を直接指す漢字表記は見つかりませんでした。

検索語としては卡吉诺尔や卡济诺尔のような四字形を組めます。しかし、対象に使われた出典がなく、中国語の既成地名として採録することはできません。

既存用例から文字を借りたとは言えない以上、候補を採る場合は万国漢字志の新しい表記だと明示する必要があります。


二文字・三文字案の比較

迦慈乗

三文字です。迦をカ、慈をジ、乗を訓読みのノルに対応させます。日本語のカジノルを三字で最後まで写せる点が長所です。

迦は音訳に用いられてきた字ですが、この三字をカジノルに使った既存例は確認できません。慈しむ、乗るという字義を地域の性格や水路交通へ結びつけるものでもありません。音読みと訓読みを組み合わせた、本誌独自の当て字です。

迦治乗

三文字で、同じくカジノルと読めます。しかし、治が統治や王権を強く連想させます。伝統王国という地域の枠組みと、地名の語源を混同させるおそれがあるため採りません。

加持乗

三文字でカジノルと読めます。しかし、加持は仏教語として定着しており、実在しない宗教的な由来を連想させます。地名の語源資料がないため採りません。

迦慈瑠

三文字です。迦をカ、慈をジ、瑠をルに対応させますが、中間のノを落とします。字面を整えるために音を欠く案なので採りません。

卡吉諾

三文字の中国語式音写を意識した比較案です。ただし、日本語では読みが定まらず、カジノルを直接指す中国語用例もありません。中国語の既成形であるかのように扱えないため採りません。

今回は、日本語の音を三字で保ち、政治的な意味づけを避ける迦慈乗を選びます。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の迦慈乗を採ります。

制定区分は創です。日本語の歴史的漢字名を復元したものでも、中国語圏の既存表記を取り込んだものでもありません。カジノルという本稿の日本語名を、万国漢字志が三字へ写した暫定案です。

迦慈乗を選んだ主体は万国漢字志ですが、特定の一個人を漢字表記の命名者として登録しません。今後、日本語・中国語の直接用例や現地語発音が確認できた場合は、カタカナ表記、制定形、区分を再検討します。


万国漢字志の暫定案

本稿で用いる都市名

カジノル

所属国

セネガル

公式・研究資料で確認した綴り

Kajinol/Kadjinol/Cadjinol/Kadjinolle/Kajinool/Cassinol

歴史的な日本語漢字表記

未確認

信頼できる中国語表記

未確認

暫定制定都市名

迦慈乗――創

制定状態

暫定制定・日本語原典、中国語直接用例、現地語発音、語源と命名史を継続調査


採らなかった表記と未解決点

迦治乗は統治や王権を連想させ、加持乗は既存の仏教語を含むため、どちらも由来を誤解させます。迦慈瑠はノを落とします。卡吉諾は日本語の読みが定まらず、中国語の直接用例もありません。四字の卡吉诺尔や卡济诺尔も、検索用に組めるだけで対象用例は確認できませんでした。

未解決点は、Kajinoolの正確な現地語発音、地名の語源、集落群の創建時期、地名の命名者、現在の伝統王、日本語と中国語の直接用例です。

人口2,139人は2023年国勢調査の六地区を合算した値です。座標はGeoNamesがKadjinolに置く代表点であり、六地区の境界や中心を精密に示すものではありません。

1860年条約の首長たちは条約当事者ですが、Cassinolという地名や漢字表記の命名者ではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第五十五号

次は、エルディアです。

ムロンプ地域の五つの伝統王国を結ぶ最後の名として、Loudia Diola、Eloudiaという綴りと漢字表記を調べます。