万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百四十三号|カッセル――CasselからKasselへ、漢字の来歴は別に問う――

長野県のカッセル市と中国総領事館の卡塞尔を比較。卡塞爾を暫定案とし、市の電子転記にある1926年の綴り変更と日本語漢字の未確認を区別する。


CからKへ、漢字はどうするか

市名の綴りを変える決定が、今も市の公式サイトに載っています。CasselからKasselへ。カッセルの場合、ラテン文字での変更をたどる資料があっても、それだけで漢字表記の来歴が分かるわけではありません。

日本では長野県の自治体交流の記事にカッセル市、中国総領事館の領事サービス案内に卡塞尔市が見えます。本誌は二字・三字を比べ、三字の字体を調整した卡塞爾を暫定案にします。


歴史表記

カッセルの日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 中国語の卡塞尔を、そのまま日本の古い地理書から見つけた表記として掲げません。

一方、市の公式サイトには「Beschluß des Preußischen Staatsministeriums über die Schreibweise “Kassel”」が公開されています。そこでは1926年12月4日の決定として、Casselの綴りをKasselに変更することが記されています。出所の表示は『Amtsblatt der Regierung zu Kassel』1926年、283頁です。

ここで読んだのは、市が現在公開する電子転記本文です。1926年の官報の紙面や、その決定文書の原本画像を実見したとはしません。市の解説「Von Cassel zu Kassel」も参照しましたが、いずれも日本語漢字の用例ではありません。現地の綴りの履歴と、日本語漢字の履歴を別々に残します。


日本語での用例

長野県の「環境エネルギー政策に関する日独自治体連携事業について」は、2016年12月8日更新。自然エネルギー国際市民フォーラムの内容として、カッセル市の市長によるスピーチを紹介しています。

フォーラムの日付は2016年11月1日で、ページ更新日とは違います。県の本文は開催したと説明しており、ここから市名のカタカナ用例を確認できます。当時紹介された役職を、現在の市長の情報として使うものでもありません。

本誌の現代日本語名はカッセルです。日本語にする段階でどの刊本が最初にこの音を採ったかや、1926年の綴り変更が日本語の表記へどう伝わったかは、この交流記事からは分かりません。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐フランクフルト総領事館の「驻法兰克福总领馆赴卡塞尔、马尔堡开展巡回办证服务的通知」は、2024年8月20日掲載です。本文で9月7日に卡塞尔市で窓口を開くと案内し、会場の住所には34117 Kasselとあります。

中国語の市名とラテン文字の所在地を同じ文書で照合できます。見出しだけの語形一致や、人物の姓との取り違えに頼らず、都市の用例と分かる資料です。ただし、この通知だけで予定どおり窓口が開かれたとまでは確認しません。

本誌は尔→爾とし、卡・塞はそのまま残します。調整後の卡塞爾は本誌案であり、本文の卡塞尔とは区別します。他の中国語圏の用字や、日本語の伝統的な漢字形をこの通知一件で確定することはできません。


二文字・三文字案の比較

卡爾

中国語形の先頭と末尾を残し、塞を落とした本誌の二字案です。この都市の略記としての先例は今回確認していません。短い形になっても、もとの三字との対応が一つ失われます。

カッセルの中間をどう読ませるかという問題も残ります。二字を標準に含めることと、何を省くかの根拠があることは別です。

加瀬留

日本語のカ・セを意識し、本誌が組んだ三字の創案です。カタカナへの近さを試す案ですが、瀬のセは訓読み、留の通常の音読みはリュウ・ルなどであり、三字を並べても促音を含むカッセルが自明になるわけではありません。

しかも、確認した中国語形の三字をすべて置き換えます。読みの注記が必要な点は解消せず、出典との直接の対応を失うため採りません。

卡塞爾

原文の三字を保ち、尔だけを爾へ調整します。二字へ切り詰める操作を増やさず、資料の配列へ戻れる点を採用理由にします。本誌の二字・三字の標準内に収まります。

ただし、塞のサイ、爾のジといった日本語の漢字音をつなげても、カッセルとは読めません。読みは日本語資料で確認したカッセルを添えます。 漢字形を採る判断を、現地発音の精密な再現と同一視しません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

カッセル

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

卡塞尔

暫定制定都市名

卡塞爾――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

尔から爾への字体調整を加えたため「改」です。日本語の歴史漢字を確認した「史」や、原文無変更の「既」ではありません。

人口はDestatis年次版の2025年12月31日現在196,799人。2022年国勢調査に基づく公式人口更新統計、2026年8月版で、人口・境界の基準日はともに2025年12月31日です。AGS 06611000のKassel, documenta-Stadtという自治体全体を対象とし、同名の郡や行政管区、北ヘッセン地域へ範囲を広げません。


採らなかった表記と未解決点

卡爾は原文を短縮した案、加瀬留は日本語の音を意識して作った案です。いずれも本誌の比較用で、既存表記として示していません。

市の電子転記は、現地の綴りの変更に日付を与えます。しかし、その決定者を漢字の命名者とすることはできません。漢字の初出、選字者、日本語の歴史原典における用字は未確認です。

後に短い漢字の用例が見つかった場合には、指す範囲と読みを改めて調べます。今回の三字の判断は、確認できる用例を残すための暫定案です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百四十四号

次回はハーゲンを予定しています。日本貿易振興機構の企業訪問記事にある都市名から、中国語の二字形と読みの問題を考えます。