万国漢字志

都市篇 · ガーナ

万国漢字志 都市篇 第八十二号|ケタ――砂州の町と二字の表記

ガーナ東部の海と潟の間にある町。中国語圏の二字の用例、要塞の歴史、人口の区域差を調べる。

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海と潟の間のケタ

都市篇第八十二号は、前号テマから海岸を東へ進み、ガーナのケタを訪ねます。ケタ潟とギニア湾に近いこの町には、海辺の要塞が残ります。資料を読むと、町の名の由来、外国語での二字表記、現在の自治体人口は、それぞれ別の問いだと分かります。

とくに人口には、公的な資料同士で食い違いがあります。古い行政区域と新しい国勢調査値を混ぜないよう、数字の出典も確かめます。


日本語では「ケタ」

細見真也が1976年に発表したガーナ農業の論文には「南部沿岸地方のケタ(Keta)」とあります。国際協力機構(JICA)のガーナ沿岸漁業に関する図にも「Keta(ケタ)」とあり、JICA海外協力隊の要望票は「ケタ市事務所」と記します。年代の異なる日本語資料で、町を指す片仮名の用例を確認できます。

今回確認できた日本語資料では、このガーナの町を指す歴史的な日本語漢字表記を原典で確認できませんでした。未確認は不存在を意味しません。古い地図や港湾・教育関係の文献を引き続き調べます。


台湾の資料に見える「凱塔」

台湾の文化部文化資産局は、ガーナ沿岸の要塞群を紹介するページで、範囲の東端を「凱塔(Keta)」、西端を「貝因(Beyin)」と記します。「凱塔」は、Ketaを指す二字の実際の用例です。

ただし、これは世界遺産の位置を説明する中国語の文章です。日本語で「凱塔」が昔から使われたという証拠でも、二字を初めて作った人を示す資料でもありません。資料の使用言語と、万国漢字志が日本語の索引へ採る判断を分けます。


砂州の名をめぐる伝承

ガーナの地名研究には、アンロの人々の移動に伴う伝承が記録されています。砂州を渡った指導者ウェニャが、砂の先端に着いたことを告げた言葉から「Keta」という名が生まれた、というものです。研究は「砂の先端」を意味する地名と説明します。

この話は地名の意味を考える手がかりですが、当時の命名行為を記録した同時代の文書ではありません。「ウェニャが名付けた」と確定した事実にはしません。まして「凱塔」の二字を選んだ人を特定するものでもありません。

現在の地形にも海と潟の近さが表れています。ケタ市自治体の説明には、海岸の砂州と、内側に広がるケタ潟が記されています。地名の伝承を、現地の地形から切り離さずに読むことができます。


要塞が語る別の歴史

ケタに残るプリンゼンシュタイン要塞について、市自治体の2018〜21年計画は1784年に造られ、大西洋を挟む奴隷貿易に関わったと記します。ガーナ博物館・記念物局は、後には監獄として使われ、1978年までその用途が続いたこと、海によって建物の一部が失われたことを伝えます。

要塞は町の歴史を示す重要な遺構ですが、1784年を「Keta」の命名年にはできません。要塞の建造年代と、地名や二字表記の成立年代を区別します。


二つの「2021年人口」

ガーナ財務省が公開するケタ市自治体の2026年予算書は、2021年国勢調査における現行のKeta Municipalの人口を7万8,862人と記します。国勢調査の基準夜は2021年6月27日です。公式サイトの都市一覧には、この自治体人口を載せます。ケタ市街だけの人口ではありません。

一方、ケタ市自治体のウェブサイトは「2021年」の人口を18万2,409人と記します。しかし同じ数は、財務省公開の2019年予算書では当時の人口推計として示されています。アンロガ地区は2019年にケタ市自治体から分離しました。2021年の国勢調査では両者は別々に集計されています。分離前の区域をもとにした推計を、分離後の実測人口と同列には扱えません。

ウェブサイトの記述だけを採ると、町の規模を大きく見誤ります。ここでは調査年と行政区域が明示された7万8,862人を選び、ウェブサイトとの食い違いは隠さず残します。


二字を採り、語源とは混ぜない

都市篇の標準は二字・三字の案を比較します。ケタには、対象の町をKetaと照合できる二字の「凱塔」があります。確認できていない三字形を、片仮名から機械的に作る必要はありません。

万国漢字志の暫定制定都市名には「凱塔」を採ります。区分は「創」。二字そのものを本誌が発明したという意味ではなく、台湾の資料にある中国語表記を、日本語の都市索引へ本誌が新たに選定する判断です。「砂の先端」という地名の伝承から「凱」や「塔」の字義が決まった、とも主張しません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ケタ

所属国

ガーナ

中国語圏の資料で確認した表記

凱塔(台湾)

暫定制定都市名

凱塔――創

制定状態

暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と選字者は継続調査


採らなかった表記と未解決点

地名の意味を漢字に直訳した新語や、未確認の三字形は採りません。台湾の「凱塔」も日本語の歴史表記としては登録せず、出典の言語を示して残します。

未解決なのは、日本語資料における漢字使用の有無、二字の初出と選字者、地名伝承の古い記録です。人口についても、自治体サイトの「2021年・18万2,409人」という記述は2021年国勢調査の現行区域値と一致せず、その更新経緯は未確認です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第八十三号

次は、東の国境を越え、トーゴの首都ロメを調べます。