万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百三十二号|キール――二字に収まっても、キールとは読めない――

県立高校の交流記録のキール市と中国総領事館の基尔市を比較。二字の基爾を暫定案とし、キ・ジという音読みとキールの違いを記す。


ビデオレターの送り先はキール

兵庫県立国際高等学校の2021年度の記録に、ドイツのキール市が出てきます。姉妹校フンボルト校とのビデオ交流を伝える記事です。町の名は、相手の高校がどこにあるかを説明する一語として書かれています。

中国駐ハンブルク総領事館が市への訪問を報告するときは、基尔市。市を表す接尾の市を除けば二字で、本誌の二字・三字という標準に収まります。けれども、それだけで日本語のキールを読めるでしょうか。本誌は基爾を暫定案にし、文字数と読みの問題を分けて考えます。


歴史表記

キールの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回の県立高校の資料にあるのはカタカナのキール市です。中国語の基尔を日本語の古い地理書で確認した形として紹介することはできません。

港や運河に関する古い記述を探す場合にも、都市そのものと、それを含む施設名を分ける必要があります。本稿が確かめた中国語用例は、市議会議長への訪問という市そのものを対象とした記事です。運河名から市の漢字形を逆算したものではありません。

初出、選字者、日本語での漢字の読みが定まった時期は継続調査です。確認していない古い表記を補う代わりに、現認できた現代用例から提案します。


日本語での用例

兵庫県立国際高等学校の「2021年度 TOPICS」には、12月20日の項目として「ドイツのフンボルト校とビデオ交流を実施しました!」があります。本文は姉妹校をドイツのキール市にある学校として説明します。

同校の生徒がドイツ語でビデオレターを作り、フンボルト校側からは日本語による学校紹介のビデオが届いたと記されています。本誌が都市名の用例として採るのは、この交流を実施した側が書いたカタカナです。

2021年度の記録であり、12月20日は項目に記された交流の日付です。ページの初回公開日や最終更新日を別に確認できたわけではありません。「20年来」という本文の説明から交流の開始年を逆算することも避けます。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐ハンブルク総領事館の「林动总领事上任拜会德国石荷州基尔市议长奥斯特」は、2025年11月6日掲載です。訪問した日は本文で同年10月30日とされており、二つの日付を分けます。

見出しと本文に基尔市があり、本文の最後も同市との協力に言及しています。大学や運河などの固有名だけでなく、市名の用法を確かめられる資料です。

本誌では尔→爾とし、基爾を案にします。基尔は確認した現代中国語の形、基爾は本誌が字体を調整した形です。中国語の音写を日本語の音読みへそのまま移せるという意味ではありません。また、この一例から台湾などの地域の用字や、中国語圏での唯一の標準形まで確定しません。


二文字・三文字案の比較

基爾

確認した基尔の二字を維持し、尔だけを爾にする案です。省略や新しい音節の補充をせず、原文との対応を示せます。本誌はこの二字を採ります。

ただし、基のキ、爾のジという音読みの例を並べても、キールにはなりません。 二字という字数の条件を満たすことと、通常の読みから都市名を復元できることは別です。キールの読みを必ず添えます。

基伊爾

長音のあるキールを意識し、間に伊を補う三字の本誌比較案です。これは原文の字体を直すだけの操作ではなく、新しい一字の追加になります。この三字形の既存用例は確認していません。

伊を入れても、末尾の爾が日本語でルを表す根拠にはなりません。三字へ増やすことで発音が解決したように見せないため、採りません。

文字数を増やすよりも、確認した二字とカタカナの読みを組み合わせる方が、今回の資料に忠実な案だと判断します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

キール

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

基尔

暫定制定都市名

基爾――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

尔を爾へ調整するため「改」です。原文と無変更の「既」や、日本語の伝統的表記を示す「伝」ではありません。読みはキールとし、キ・ジの音読みを都市名の読みとして採るものでもありません。

人口はDestatis年次版の2025年12月31日現在251,842人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、2026年8月刊、人口・境界とも2025年12月31日を基準にします。対象はKiel, Landeshauptstadtという自治体全体です。表のLandeshauptstadtは州都を表す名称の一部で、ドイツの国の首都は外務省資料でベルリンと確認しています。キールを国の首都とは扱いません。


採らなかった表記と未解決点

基伊爾は、カタカナの長音を意識して作った本誌の比較案にとどめます。文字を一つ増やすこと自体を読みやすさの保証にしません。

基尔についても、現代中国語の使用例があることと、日本語で漢字のまま定着していることは別の事実です。基爾にキールと読ませるのは本誌の提案であり、今回の高校の交流記事がその漢字の読みを証明するわけではありません。

日本語の古い地図や港湾・運河関係の刊本を調べる際には、キール市の表記か、施設の名称の一部分かを確かめます。高校の交流記録が示す相手校の所在と、市議会議長への訪問報告が示す市名。この二つを基礎に置き、都市の歴史全体を推測で付け足さない形で調査を続けます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百三十三号

次回はケムニッツを予定しています。旧称期と現名期を分け、現在の市名の漢字案を考えます。