三字の既存形と地名の由来を分ける
都市篇第四十一号は、セネガル南部の州都、コルダです。
前号のケドゥグから南部を西へたどると、カザマンス地方の内陸部に入ります。JICAの報告書は、地方都市の給水施設について「コルダ州コルダ市」と記し、州と都市を区別しています。
中国語圏では、Koldaを、
科尔达
と記す都市直接用例があります。日本で用いる字体へ直すと、
科爾達
です。
三字でコ・ル・ダの音のまとまりにも対応します。一方、現地で伝わる都市名の由来は一つに定まりません。今回は、漢字形の根拠と地名伝承の揺れを別々に確かめます。
日本語では「コルダ市」
JICAのセネガル給水計画報告書は、除鉄装置を備えた給水施設の所在地を「コルダ州コルダ市」と記しています。同じ名を持つ州だけでなく、都市を直接示す日本語の公的用例です。
同じJICAの1997年度派遣要請資料も、住所を「コルダ州コルダ県コルダ市」と行政階層ごとに分けています。現代日本語の公的資料では、都市名はカタカナのコルダで確認できます。
国立国会図書館サーチでは、コルダとセネガルを組み合わせた書誌、原綴りのKoldaを含む地図・外国語資料、漢字形の科爾達と科尔达を分けて調べました。今回確認できた公開書誌と検索可能な本文からは、この都市を指す日本語の歴史的漢字表記を特定できませんでした。
これは、過去の日本語資料に漢字表記が存在しないという証明ではありません。旧フランス領西アフリカの地図や地理書には、画像だけで残る本文や索引もあります。そのため、歴史表記は未収録とし、日本語原典の調査を続けます。
国連文書の「科尔达市」
国連女性の地位委員会へ提出された2013年の中国語文書は、出生登録の活動地を「韦林加拉市和科尔达市」と記しています。ヴェリンガラ市とコルダ市を並べ、同じ段落に現れる「科尔达区」とも書き分けているため、ここでの科尔达は都市名を直接指します。
世界気象機関の世界気象情報サービス中国語版も、セネガルの都市一覧に科尔达を載せています。英語版で同じ都市IDを開くとKoldaが表示され、州名だけを切り出した形ではありません。
さらに、国連の1964年から1965年の公式記録には、航空機が「科爾達(Kolda)」の軍営上空を飛んだとの記述があります。都市行政単位を明記した用例ではありませんが、繁体字の科爾達がローマ字名と対応して使われていたことを示します。
簡体字の「尔」「达」を日本で用いる「爾」「達」へ直した科爾達は、現在の都市直接用例と古い繁体字用例の双方につながる三字形です。ただし、国連や世界気象機関は用例を記録する機関であり、この漢字形を最初に作った個人とは限りません。
州都であり、国の首都ではない
セネガル国土整備庁の公式地理データは、Koldaの集落点を州都に分類しています。学校、郵便、税関、憲兵隊、病院などの施設も同じ地点情報に付されています。
一方、セネガル共和国の首都はダカールです。公式サイトの「首都」表示は国家首都かどうかを示すため、コルダは首都ではないと登録します。紹介文では行政上の役割が消えないよう、コルダ州の州都と明記します。
現在のコルダ州は、コルダ県、ヴェリンガラ県、メディナ・ヨロ・フラ県から成ります。2008年の行政再編以前は、現在のセディウ州もコルダ側の行政区画に含まれていました。資料にKoldaとだけあるときは、州、県、コミューン、都市のどれを指すかを文脈で判断する必要があります。
コミューン人口は10万3574人
セネガル国家統計・人口経済分析庁の『人口推計 2023―2073』は、2023年国勢調査を基準に、州、都市部・農村部、県、郡、コミューンを分けて人口を掲げています。
コルダのコミューン行は、男性5万2012人、女性5万1562人、合計、
10万3574人
です。
同じ表のコルダ県32万4192人、コルダ州91万4797人とは別の値です。都市一覧では対象範囲を揃えるため、コミューン人口だけを採ります。
セネガル国土整備庁の公式KMLは、州都コルダの集落点を北緯12.89225137989805度、西経14.94070310325418度に置いています。小数第六位へ丸めた北緯12.892251度、西経14.940703度を地図に使います。
これは都市を示す集落点であり、コミューン境界の重心ではありません。人口の範囲と地図上の一点は役割が異なります。
Koli Daboという市の説明
コルダ市が公開する沿革は、KoldaをKoli Daboの変化した形だと説明しています。Koli Daboは、現在のSikilo地区にあるHilèleの渡し場近くへ住み着いた最初の居住者とされています。
この説明から確認できるのは、市が紹介する地名由来の一説です。Koli Dabo本人が名称を公的に定めたことや、いつKoldaという綴りに固定されたかまでは示されていません。
同じ沿革によれば、コルダの村は二つの地区から成り、コミューンは1952年12月1日の命令で設けられました。1960年に完全な自治体となり、後に州都としての役割を得ます。集落の成立、自治体の設置、州都化は別々の出来事です。
Koli-DadoとKoly-Daa
ジガンショールのアサン・セック大学に提出されたMoussa Fallの修士論文は、コルダ市のグリオ代表への聞き取りから、別のKoli-Dado説を記録しています。KoliとDadoという二人の名を結び、その音からKoldaが生まれたとする伝承です。
同じ論文は、現地調査で地名の由来について複数の相反する説明が得られたと明記し、さらにKoly-Daa説を紹介します。こちらでは、牧畜民が開いた場所へKolyという人物が移り、Mandingueの表現で「Kolyのところ」を意味する名からKoldaへ変化したとされます。
市の沿革にあるKoli Dabo、聞き取りのKoli-Dado、別伝承のKoly-Daaは、似た音を持ちながら人物と筋書きが一致しません。本稿では、どれか一つを確定語源へ引き上げず、複数の伝承があることを記録します。
Koli DaboやKolyを都市名の命名者として一覧に載せることもしません。資料が示すのは由来に現れる人物または最初の居住者であり、命名行為を行った本人とまでは確定できないためです。
農業と牧畜の内陸都市
コルダ州は、セネガル南部のオート・カザマンスに位置します。セネガル国家統計・人口経済分析庁の地域報告は、スーダン・ギニア型の気候、雨季、農業と牧畜が地域経済を支える構造を説明しています。
Moussa Fallの都市調査も、コルダの主要な経済活動として農業、牧畜、手工業を挙げています。地域全体の産業統計をそのまま市の値へ置き換えることはできませんが、コルダ市が農牧地域の行政・サービス拠点である背景を読み取れます。
市街地は、ガンビア、ギニアビサウ、ギニアに近い南部内陸にあります。沿岸の大都市とは異なり、国境をまたぐ人と物の移動、農産物、家畜、市場の結節点として発達してきました。
二字・三文字案を比べる
科爾達
国連文書と世界気象情報サービスでKoldaへの直接対応を確認できる三字形です。コ・ル・ダの三つの音の区切りを保ち、都市篇で主流とする二字・三字の範囲にも収まります。
科達
二字にはできますが、中央の「ル」に対応する「爾」を落とします。コルダを科達とする直接用例も、今回の公的資料では確認できません。
科爾
これも二字ですが、末尾の「ダ」に対応する「達」が消えます。確認した資料の用字ではなく、都市名の途中で終わったように見えます。
既存の三字形があり、音の対応も保たれています。字数だけを減らすために一字を落とす理由はありません。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の科爾達を採ります。
根拠は、国連文書と世界気象情報サービスが都市名に科尔达を用い、古い国連記録にも繁体字の科爾達が確認できることです。簡体字を日本で用いる字体へ直し、三字の構成は維持します。
制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「科爾達」という三字を本稿が初めて作った、という意味ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
コルダ
所属国
セネガル
中国語圏で確認した都市名
科尔达
暫定制定都市名
科爾達――創
制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査
採らなかった表記と未解決点
科達と科爾は二字に収まりますが、都市名としての直接用例がなく、原音の一部も失うため採りません。既存の三字形を優先します。
未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、Koldaの地名伝承を裏付ける同時代記録、現在の都市名を公的に定めた人物と時期、漢字形科爾達/科尔达の初出と考案者です。
人口は2023年国勢調査を基準とするコミューン行です。州・県人口とは区別します。座標は公式地理データの集落点であり、行政境界の中心点ではありません。
参考資料
- JICA『セネガル共和国 農村地域における安全な水の供給と衛生環境改善計画 準備調査報告書』
- JICA『平成9年度春協力隊員派遣受入希望調査表』
- 国連女性の地位委員会 文書E/CN.6/2014/NGO/144 中国語版
- 国連総会『1964年7月16日から1965年7月15日までの安全保障理事会報告』中国語版
- 世界気象機関 世界気象情報サービス中国語版「科尔达」
- セネガル国家統計・人口経済分析庁『人口推計 2023―2073』
- セネガル国家統計・人口経済分析庁『コルダ地域社会経済報告 2024』
- Géo Sénégal「Kolda ND-28-IV」公式地理データ
- コルダ市「Aperçu historique」
- Moussa Fall『Système de caste et développement socio-économique du Sénégal : le cas des Peuls de la ville de Kolda』アサン・セック大学、2021年
- 外務省「セネガル共和国基礎データ」
- 国立国会図書館サーチ「コルダ セネガル」検索結果
- 国立国会図書館サーチ「科爾達」検索結果
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第四十二号
次は、セディウです。
コルダからカザマンス地方を西へ進み、2008年に新しい州の州都となった都市の漢字表記を調べます。
