万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百四十七号|ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア――短くすると消える Las Palmas の音――

グラン・カナリア島の都市名を中国語観光案内と照合し、字形調整と音の補いを区別する。


パルマの次は、別の島のラス・パルマス

前号の Palma はマヨルカ島の都市でした。今回の Las Palmas de Gran Canaria はグラン・カナリア島の都市です。似た音が続きますが、島も自治体も異なります。

スペイン政府観光局の中国語の家族旅行案内には「加那利岛拉斯帕尔马(Las Palmas de Gran Canaria)」という見出しがあります。ここでは末尾が「马」で止まっています。原綴りを横に置いて読むと、中国語表記の長さをどう扱うかという問題が見えてきます。


歴史表記

同局の日本語都市案内は、旧市街の建設を1478年と説明し、ベゲタなどの歴史地区を紹介しています。これは現代の公的な観光解説であり、15世紀の文書をそのまま提示した史料ではありません。

今回、創建当時の地名の綴りや、日本語の古い地誌に載る漢字名は原典画像で確認していません。都市の歴史を紹介できることと、漢字表記の来歴を確認できることは分けます。現代の観光案内を、日本語の伝統的漢字名の証拠としては扱いません。


日本語での用例

スペイン政府観光局の日本語ページは、見出しに「ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア」を用いています。本文には「グラン・カナリア島」という節もあり、都市と島を結びつけて確認できます。本稿もこのカナ表記を用います。

一方、「ラス・パルマス」は県名にも現れます。都市を指している箇所と、県全体を指す箇所では範囲が異なります。名称の似ている Palma、島名 La Palma、イタリアの Parma も、今回の都市の別名としてまとめません。


中国語圏その他の表記との比較

確認した中国語観光案内の本文見出しは「加那利岛拉斯帕尔马(Las Palmas de Gran Canaria)」です。資料の字形を保つため、尔や马を引用中で爾や馬へ置き換えません。また、この本文見出しには末尾の斯がないことも、そのまま記録します。

この用例は、同局がこの都市を紹介する際に使った現代の中国語表記です。全中国語圏の統一標準や、漢字名の初出を示すものとは限りません。案内の島の呼び方を人口の範囲にまで広げず、本稿ではINEの自治体コードで都市を特定します。

日本語向けに「拉斯帕爾馬斯」を提案する場合は、尔→爾、马→馬の調整だけでなく、原綴り Palmas の末尾の s に対応させる斯を本誌が補ったことも説明する必要があります。原文と同じ六字が載っているかのようには引用できません。


二文字・三文字案の比較

拉帕

冒頭付近から字を拾う二字案です。Las と Palmas の手がかりを少しずつ残せますが、大半の音が失われます。今回確認した既存用例ではなく、本誌の短縮比較案です。

拉斯帕

初めの三字を残す案です。短くはなりますが、Palmas の中ほど以降を丸ごと省くことになり、原綴りとの対応が乏しくなります。この三字で都市名を日本語として読めるようになるわけでもありません。

拉斯帕爾馬斯

六字になる案です。二字・三字という基本形から外れますが、Las Palmas のまとまりを保ち、前号の Palma と混同しにくくすることを優先して、今回は長さの例外とします。ただし de Gran Canaria の部分はこの六字には含めず、カナと原綴り、島名を併記します。

六字を保っても、通常の日本語の音読みではラス・パルマスと自然には読めません。とくに斯は通常「シ」、爾は「ジ」であり、スペイン語の音と一字ずつ機械的に対応するものではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア(Las Palmas de Gran Canaria)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

拉斯帕爾馬斯――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

既存の「拉斯帕尔马」を基礎に、尔を爾、马を馬に改め、末尾の斯を補っています。字形調整と補字を伴う本誌の案なので「改」とします。出典にこの六字がそのまま載っていた、という意味ではありません。

INEの年次人口センサス表68065では、2025年1月1日の通常居住者は384,023人です。表の名称は冠詞を後置した「Palmas de Gran Canaria, Las」、自治体コードは35016です。これは同市の municipio 全域であり、ラス・パルマス県全域、グラン・カナリア島全体、都市圏の人口ではありません。


採らなかった表記と未解決点

拉帕と拉斯帕は音の省略が大きいため、今回は採りませんでした。六字案は長さを犠牲にしていますが、短縮によって別のパルマとの区別が弱くなることを避ける判断です。漢字だけで世界中の同名都市を識別できるとはせず、スペイン・グラン・カナリア島の都市と明示します。

出典本文の末尾に斯がない理由は未確認です。これを誤植と断定したり、引用を黙って修正したりはしません。日本語の歴史的漢字表記、各中国語圏での用例の違い、表記の初出と命名者は要継続調査です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第三百四十八号

次号は、Alacant/Alicante を扱う予定です。日本語での呼び方と漢字候補は、資料の確認を踏まえて案内します。