港町の名前を、音楽の論文で読む
ル・アーヴルの漢字名を探していると、台湾の音楽学刊に行き着きました。作曲家ジャック・ルゲルネの生い立ちを紹介する本文に、出生地として**勒阿弗爾(Le Havre)**が現れます。観光案内や外交記録とは違う場所にも、町の名前は書き留められています。
日本語の公式観光記事が使うル・アーヴルと、この四字を対応させ、本稿では勒阿弗爾を暫定採用します。港として語られる地名と、町全体を対象にした人口は、資料を分けて確かめます。
歴史表記
日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 古い日本語の地理書、海運資料、地図などで、漢字形と読み、Le Havreとの対応を揃えて確認したとは言えません。漢字名の初出・選字者も未確定です。
今回読む音楽論文は2020年の文章です。本文に1906年の出生地として勒阿弗爾が出てきても、1906年当時にその漢字が使われた証拠にはなりません。出来事の日付と、その出来事を記述した文章の年代を分けます。
日本語の歴史原典がまだ見つかっていないことだけで保留せず、現代の用例で確かめた四字を既として扱います。
日本語での用例
フランス観光開発機構のFrance.fr「ル・アーヴル Le Havre」は、日本語名と欧文を同じ見出しに掲げています。2009年12月31日公開と表示されるこの頁は、戦後の再建を扱う本文でもル・アーヴルを用いています。本稿の現代日本語名は、この形に従います。
同じ本文にはル・アーブルという表記もあります。一つの公式記事の中でヴとブの書き分けが併存しているので、片方を誤りとして消すのではなく、確認した日本語の異表記として残します。本稿では見出しのル・アーヴルに統一します。
勒・阿・弗・爾を日本語の通常の音訓で並べても、この日本語名をそのまま再現できるわけではありません。現地話者の音声は今回は未確認であり、漢字の一字ごとにフランス語の音を確定することはしません。
中国語圏その他の表記との比較
国立臺北藝術大学が公開する『關渡音樂學刊』第31期は、2020年2月の号です。楊勝安「初探勒給涅對法文藝術歌曲的貢獻」の印刷頁44、PDF第52頁の本文に、**勒阿弗爾(Le Havre)**という対応があります。学校名や記事の題名から推測した字ではなく、町を指す本文中の用例です。
この箇所を参照する目的は、現代台湾の論文で使われた地名と欧文の対応を確認することです。作曲家の生涯全体を新たに検証したり、この用字を二十世紀初頭の原典へ遡らせたりするものではありません。
中国外交部が掲載する在フランス大使のノルマンディー訪問記事の本文では、勒阿弗尔市と書かれています。表示は2024年2月18日、訪問日は2月15〜16日です。同じ文章には、勒阿弗尔・ルーアン・パリを結ぶ港湾組織への言及もあります。
今回確かめた全形は、台湾側の勒阿弗爾、大陸側の勒阿弗尔です。市を指す用例と港を含む組織への言及はありますが、港湾組織の範囲を自治体全体と同じものにはしません。
二文字・三文字案の比較
勒阿弗爾
大学学刊の本文に欧文と並んで現れる四字形です。全形を保持し、制定区分は既とします。字数の標準に合わせるためだけに一部を削ることはしません。
阿弗爾
先頭の勒を外して三文字にした、本誌の比較形です。短くはなりますが、確認したLe Havreの漢字名全体から一字を失います。今回参照した資料で、この三字を都市の全名として用いる例は確認していません。採用しません。
勒港
港を表す字を加え、二文字にまとめる本誌の比較形です。しかし、確認した四字の大部分を置き換えることになり、資料との対応が弱まります。さらに本稿は港の施設だけを対象にしていません。この形を史料上の既存名とはしません。
勒阿弗尔は、外交記事で確認した簡体字の対応形として残します。四文字であること自体を、短縮しなければならない欠点とは扱いません。
166,687人は港湾組織の人口ではない
INSEEのLe Havre、自治体コード76351の人口表では、population municipaleは166,687人です。別計上人口1,901人を含むpopulation totaleの168,588人とは区別し、本稿では前者を採ります。
この統計版の説明にある人口基準日は2023年1月1日、自治体境界は2025年1月1日、発効日は2026年1月1日です。発効年を人口の観測年へ読み替えません。
範囲はLe Havreというcommune全体です。港湾施設だけの人数、再建された中心市街だけの人数、ルーアンやパリを含む広域の人数ではありません。周辺自治体や都市圏、内包地区を別都市として重複加算しません。
国家首都は外務省のフランス基礎データでパリと確認できます。ル・アーヴルは、現在の国家首都には区分しません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ル・アーヴル
所属国
フランス
暫定制定都市名
勒阿弗爾――既
制定状態
暫定制定・原典継続調査
確認済みの四字を保持し、公式日本語資料の読みと組み合わせます。日本語の伝統的漢字名として認定したものではありません。
採らなかった表記と未解決点
阿弗爾と勒港は、本誌の比較形に留めます。勒阿弗尔は簡体字の対応形、ル・アーブルは今回公式記事の本文で確認した日本語の異表記として残します。
日本語歴史原典、漢字名の初出と選字者、現地音声は継続調査です。今回の資料は、地名が外交、観光、音楽研究の異なる文章に現れることを示しています。その重なりを、歴史上の用字が連続していた証明へ広げないようにします。
参考資料
- France.fr「ル・アーヴル Le Havre」。フランス観光開発機構、2009年12月31日公開表示。見出しと本文のル・アーヴル、本文のル・アーブル。
- 国立臺北藝術大学『關渡音樂學刊』第31期、2020年2月。楊勝安「初探勒給涅對法文藝術歌曲的貢獻」、印刷頁44、PDF第52頁。本文の勒阿弗爾とLe Havre。
- 中国外交部・在フランス大使のノルマンディー訪問記事。2024年2月18日付、訪問2月15〜16日。本文の勒阿弗尔市。
- INSEE・Le Havre自治体人口と2023年基準人口の版説明。自治体人口と対象版。
- 外務省「フランス基礎データ」。国家首都パリ。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第百七十七号
次は確認済みフランス自治体の掲載順に従い、Villeurbanneを予定します。日本語名と漢字形は、次稿で資料を確認して示します。
