万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百十号|ライプツィヒ――写真目録の「ライプチヒ」と三字の「萊比錫」――

瀧廉太郎の写真についたライプチヒという資料名と、現在の公的文書のライプツィヒ。中国語の莱比锡も並べ、三字を残す案と読みの限界を考える。

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写真に添えられた町の名

文化遺産オンラインに、瀧廉太郎の写真が登録されています。資料名は「瀧廉太郎(ライプチヒ・聖ヤコブ病院にて)」。解説は、1901年にドイツの病院前で撮影された写真としています。

ここで目に留まるのは、町の名のライプチヒです。在ドイツ日本国大使館の領事案内では、同じ町はライプツィヒ。わずかな違いですが、日本語で音を写すときの選択が見えます。

この町を漢字にするならどうでしょう。中国語の公的文書には莱比锡とあります。三字で書けることと、その三字から日本語の読みが分かることは、別々に考える必要があります。


歴史表記

ライプツィヒの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 漢字と読みを同じ箇所で確かめられる古い地理書や紀行の頁は、引き続き探します。初出と選字者も未確定です。

冒頭の写真は古い資料ですが、今回確認したライプチヒという文字は、文化遺産オンラインの資料名にあります。写真が撮られた1901年に、このカタカナが写真へ書き込まれたと確認したわけではありません。

写真の年代、現在の目録に付けられた名前、当時の紙面に印刷された地名。それぞれ確かめる対象が違います。本稿では目録の表示を、明治期の漢字表記やその読みの証拠に移し替えません。古い刊本の翻刻を引用しているわけでもありません。


日本語での用例

在ドイツ日本国大使館の「領事情報」内の領事出張サービス案内には、ドレスデン及びライプツィヒという組合せが出てきます。2025年3月28日付のページです。日本語の実務の案内で、ライプツィヒの形を確かめられます。

一方、写真の資料名にはライプチヒとあります。今回は資料名を引用する際のカタカナを、そのまま残します。どちらかを誤記と断じたり、資料名を本誌の表記に合わせて直したりはしません。

本誌の現代日本語都市名はライプツィヒとします。莱比锡の三字に、その日本語読みが記されているという意味ではありません。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の領事サービス網に掲載された「驻德国使馆在德国东部地区举办巡回领保讲座和领事办证服务」は、2018年3月の巡回領事サービスを報告しています。本文の訪問先の一つが莱比锡市です。

この用例で確認できる字形は莱比锡。本誌案では、莱を萊に、锡を錫に置き換え、比を残して萊比錫とします。簡体字からの字形調整を本誌が行った案であり、今回の中国語原文が萊比錫と印刷されているわけではありません。

台湾などの公的資料でも同じ三字が使われるかは、今回の資料とは別に確認が必要です。中国語圏全域の統一形として認定したり、日本語の古い漢字表記として紹介したりはしません。

また、三字を中国語の音訳として用いることと、日本語の音読みをつなぐことは同じではありません。字面から「ライプツィヒ」の全体を自然に読めるとは考えません。


二文字・三文字案の比較

萊比錫

中国語の用例の三字を保ち、字形を調整する案です。元の莱比锡と一字ずつ対応させられ、照合の手がかりが残ります。これを今回の暫定案とします。

ただし、萊の「ライ」、比の「ヒ」、錫の「シャク」など、日本語の通常の読みを並べてもライプツィヒにはなりません。萊を見慣れない読者もいるでしょう。必ずライプツィヒの読みを添えることが前提です。

来比錫

最初の字を、日本語でなじみのある来に替える本誌の比較案です。「ライ」への手がかりは得やすくなりますが、確認した原文の莱との字形のつながりは薄れます。残る比錫だけで「プツィヒ」が読めるようになるわけでもありません。

本稿では、来比錫を歴史的な実例として確認したとは扱いません。

来錫

二字に縮めた本誌の比較案です。短くはなりますが、比を落とすため、確認できた中国語の三字との対応が一つ失われます。それでも日本語の読みが自明になるわけではありません。

今回は、短縮して新しい説明を増やすより、元の三字の並びを残す案を採ります。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ライプツィヒ

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

莱比锡

暫定制定都市名

萊比錫――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

確認した中国語の莱比锡をもとに字形を調整するため、「改」とします。日本語の伝統的表記や、原典で確認した歴史表記という判定ではありません。

人口はドイツ連邦統計局(Destatis)の自治体一覧年次版による、2025年12月31日現在615,932人です。人口と自治体境界の基準日はいずれも同日、資料は2026年8月版。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計です。対象はLeipzig, Stadtの自治体全体で、都市圏や空港周辺の複数自治体を合算した人口ではありません。住民登録簿の別集計を代用していません。


採らなかった表記と未解決点

来比錫と来錫は、本誌が比較のために組んだ案です。莱比锡と同じ立場の、確認済みの中国語用例として並べません。萊比錫も、今回実見した日本語の歴史原典の文字ではありません。

残る課題は、日本語の漢字と読みを併記した原頁、初出、選字者の確認です。写真の資料名にライプチヒとあることだけでは、当時の人がどの漢字を選んだかまでは分かりません。今回未確認という結果を、かつて存在しなかったという結論に広げないようにします。

同じ町を指すカタカナにも幅があります。漢字を採る場合にも、その幅を三字へ無理に閉じ込めず、読みを添えて町を指せる形にしておきます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百十一号

次回はシュトゥットガルト。日本語の長いカタカナと中国語の四字を並べ、字数を減らすと何が変わるかを考えます。