万国漢字志

都市篇 · フランス

万国漢字志 都市篇 第百七十一号|リール――里爾の二字と、市域の境界――

リールの日本語名と公式中国語用例を照合し、里爾を既として暫定採用。人口は2023年基準・2025年境界・2026年発効の自治体PMUN238,246人。日本語歴史原典・初出・選字者は継続調査。

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里爾という二字で、リールを示す

リールという音を漢字に移すと、里爾。日本語では見慣れない二字ですが、台湾の大学が公開する交流協定の一覧で、欧文のLilleと対応している形です。一方、中国駐フランス大使館の訪問記録には里尔が現れます。

二つの資料を並べると、名前の長さはどちらも二字で、違うのは後ろの字です。本稿では、台湾側で実際に確認できる里爾を、リールの暫定制定都市名に採ります。字面から町の由来を読み解く前に、まずどの資料で使われた名前なのかを見てみます。


歴史表記

日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 古い地理書や新聞の該当紙面で、漢字・読み・指す都市を揃えて確認したとは言えません。里爾の初出や選字者、日本語への導入経路も未確定です。

国立国会図書館の「フランスの地図」には、リールの都市地図帳が紹介されています。欧文の資料名と所蔵情報が分かる案内ですが、今回、地図帳の現物は閲覧していません。案内は表記がフランス語であることも説明しています。

地図帳の題名にLilleがあることから、その本文に日本語の漢字形が載ると推測することはできません。今回の採用根拠は、これから挙げる現代の公式用例です。


日本語での用例

在フランス日本国大使館の2026年度領事出張サービスの案内には、対象都市としてリールが挙げられています。2026年4月15日付の頁で、本文の都市一覧に使われる名前です。本稿も現代日本語名をリールとします。

ここで参照するのは都市名の用字です。案内された予定がその後どう実施されたかを確定するための引用ではありません。

里にはリの音がありますが、里・爾の通常の日本語音訓を並べるだけで、長音と末尾のルを備えたリールにはなりません。本誌では里爾という都市名全体にリールの読みを対応させます。フランス語の現地音声は今回聴取しておらず、各字が原音を正確に保存するとまでは言いません。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐フランス大使館の2023年12月の訪問記録は、見出しだけでなく、本文中でも現地の華僑・留学生を指す箇所に里尔を使っています。掲載は12月18日、本文が記す訪問は12月14日から15日です。現在も閲覧できる過去の公式記録として参照します。

台湾の國立臺灣大學國際事務處の交流協定一覧には、協定の中国語名に里爾科技大學、対応する英語名にUniversity of Science and Technology of Lilleとあります。大学名に含まれる地名として、里爾とLilleの対応を確認できます。

これは大学の歴史的な校名を含む協定情報です。現在の大学制度や所在地の範囲まで、この一覧だけで確定するものではありません。中国大陸側の里尔を機械的に字体変換してから、台湾にも里爾の実例があると扱ったわけではなく、両方の本文を別々に読みました。


二文字・三文字案の比較

里爾

台湾の大学の公式本文で確認した二字形です。欧文との対応を確かめられる既存用例を根拠に、既として暫定採用します。日本語で広く定着した伝統形や、日本の歴史資料から採録した形と認定するものではありません。

里尔

中国大使館の本文にある簡体字の形です。確認した既存形として併記します。主表記に里爾を選ぶことによって、里尔を誤記とするわけではありません。

里爾市

三字で示す場合の本誌の比較形です。末尾の市は行政上の種類を添えるもので、リールの音をより細かく示す字ではありません。都市名そのものと説明の語を分けるため、制定都市名は二字の里爾とします。この三字形を歴史的用例として提示するものではありません。


238,246人は、どこまでのリールか

INSEEの自治体コード59350の人口表では、Lilleのpopulation municipaleは238,246人です。別計上人口1,863人を加えたpopulation totaleの240,109人ではなく、前者を採ります。

同じ頁は、LilleとHellemmes-Lille、Lommeとの合併・結合に伴う境界の変更を案内しています。人口を読む際は、現在の名前を古い単独の範囲へ戻してしまわないことも必要です。本稿の対象はこの版のLilleというcommune全体で、内部の関連単位を別都市として足し直しません。

対象版の説明に従い、人口基準日は2023年1月1日、自治体境界は2025年1月1日、発効日は2026年1月1日です。周辺自治体や広域行政組織、連続市街地・都市圏の人口も加えません。地図帳や大学の名称が指す地域の広さから、この市域の境界を推定することも避けます。

国家首都は外務省の基礎データでパリと確認できます。本稿のリールは、現在の国家首都には区分しません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

リール

所属国

フランス

暫定制定都市名

里爾――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

確認できた二字を保持し、読みは都市名全体に添えます。本誌による暫定選定であり、日本語の公定表記を変更するものではありません。


採らなかった表記と未解決点

里尔は対応する既存形として残し、里爾市は行政種別を付けた比較形に留めます。里という字を土地の性格に、爾という字を町の由来に結び付けても、それだけでは選字の経緯を説明できません。

日本語の歴史原典、最初の漢字用例とその選字者、現地音声との対照は継続課題です。今回確認できた公式本文と、その先に残る問題を分けたところに、里爾という暫定案を置きます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第百七十二号

次はレンヌ(Rennes)。人口確認済みのフランス自治体の掲載順に従い、雷恩の現用例と日本語の読みを比べます。