市と県は同じ日に名を変えない
Lleida と Lérida。別々の都市のように二つ数えてしまう前に、行政資料を読んでみます。1992年のスペインの法律は、県名を Lleida とする一方、その前文で自治体の名称変更は1980年に認められていたと説明しています。市と県では、名称変更の時期が違いました。法律2/1992、前文・第2条
本稿の対象は、現在のスペインの自治体 Lleida、リェイダです。同名の県全域ではありません。現地の文書を紹介する目録と、現代中国語の用例から漢字案を考えます。
歴史表記
カタルーニャ州の公文書館紹介サイトは、市立公文書館の「Carta de Poblament de Lleida」を1150年の文書として掲載し、参照番号を CAT-AML-001-PER001 と示しています。解説では、イスラーム期の町の征服後に作られ、市立公文書館に残る最初の文書だと位置付けられています。州の公文書館資料紹介
今回直接読めたのは、この現代の紹介・目録です。所蔵館の文書ページへのリンクは取得が拒否され、1150年の文書画像や全文翻刻は確認できませんでした。したがって、目録題名の Lleida が、羊皮紙の原筆にもそのまま書かれているとは主張しません。市立公文書館に残る最古の文書という説明も、都市への最古の言及という意味ではありません。
中世のキリスト教勢力による再編を、現在のスペイン国の自治体制度の成立へ直結させません。歴史都市の範囲と現在の自治体全域の一致も未確認です。日本語の歴史的漢字形についても原典未確認です。
名称変更を記した当時の法律
1992年2月28日成立、翌29日官報掲載の法律2/1992は、前文で1980年の二つの州令により Girona と Lleida の自治体名への変更を認めたと記します。そして第2条で、Lérida 県の公式名称を Lleida とします。今回読んだのは、その法律の「TEXTO ORIGINAL」として掲載された本文です。スペイン官報
1980年の州令原本を直接確認したのとは区別しますが、この1992年法は少なくとも自治体と県の名称を分けて扱った当時の行政上の一次資料です。Lérida と Lleida を別の自治体として重複計上する根拠にはなりません。
日本語での用例
在バルセロナ日本国総領事館の2025年6月活動記録には「リェイダ市訪問」という見出しがあります。本文は6月16日の訪問を記し、スペイン語部分も ciudad de Lleida と対応します。公館自身の活動報告にある日本語名として、本稿は「リェイダ」を採ります。総領事館活動記録、2025年7月15日掲載
中国語圏その他の表記との比較
南開大学外国語学院の2024年9月27日の訪問報告は「莱里达大学(Universitat de Lleida, UdL)」と記します。交流当事者の大学による現代中国語用例です。大学名を市全域の人口へ読み替えるのではなく、地名部分と原綴りの対応を確認します。南開大学の報告
Minor Hotelsの都市別ページも「莱里达」を見出しに使い、都市の宿泊案内として示しています。こちらは都市そのものを指す用例です。ホテル運営者の公式中国語ページ
出典の「莱里达」は引用ではそのまま残し、採用案では「莱」を「萊」、「达」を「達」に替えて「萊里達」とします。「里」は日本語で用いる字体を保ちます。同一字形の既存用例を確認した場合の「既」とは区別し、本誌による字体調整の「改」とします。
二文字・三文字案の比較
萊里達
既存中国語音写の三字構成を保つ案です。字数を削らず、原文との対応が見えます。ただし日本語の通常の音読みではライ・リ・タツなどとなり、リェイダを自動的に読めるわけではありません。カナと原綴りを併記します。
萊達
「里」を省いて二字にする調整案です。漢字の見た目は短くなりますが、元の三字の音写情報が減ります。この二字を実際の都市略称として直接確認したものではありません。
礼伊達
日本語のリェイダという音を手がかりに本誌が作る三字案です。既存資料の字形調整ではなく「創」です。「礼」のレイもリェとは一致せず、「伊」「達」を通常どおり読んでも現地音にはなりません。日本語の字を選ぶだけでは発音の問題は解けないことが分かります。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
リェイダ(Lleida。Lérida の形も資料に見える)
所属国
スペイン
暫定制定都市名
萊里達――改
制定状態
暫定制定・原典継続調査
INE年次人口センサス表68065による2025年1月1日の通常居住者人口は147,369人。コード25120、Lleida の municipio 全域の値です。歴史地区だけでも、同名の県全域でも、近隣自治体を合算した都市圏でもありません。INE表68065
使用したのは2026年11月7日保存の2025年版です。公表日は2025年12月2日、対応PXの作成日表示は2026年4月30日。保存CSVのSHA256は 9e37188faa63aa86e7a8648469834beaa2e728e5338e3364ef1ce4685178d419、該当行は物理58817行です。
原語名と日本語名、同じ都市に対応する異称を、国・自治体コードとともに扱います。古代名の別名登録があっても、それだけで古代から現市域までの同一範囲を認定しません。代表点は選定資料のGeoNamesから継承し、自治体境界ポリゴンの版は独立には確認していません。
採らなかった表記と未解決点
現代用例の「莱里达」と、本誌の「萊里達」は異なる字形です。字体を替えた事実を隠して既存表記と呼ぶことはしません。採用案と同一形の都市名用例、日本語の伝統的漢字形、漢字の初出・命名者は未確認です。
1150年文書は、紹介ページから所蔵文書の参照番号までたどれた段階です。原文の綴りと全文の確認は次の課題として残します。
参考資料
- カタルーニャ州:Carta de Poblament de Lleida。文書年1150、CAT-AML-001-PER001。現代目録・解説の成立年月は不記載。原文書リンクは403で、画像・翻刻は未見。
- スペイン官報:法律2/1992。1992年2月28日成立、29日掲載。前文と第2条。1980年の自治体名変更と1992年の県名変更を区別。
- 在バルセロナ日本国総領事館:2025年6月活動記録。2025年7月15日掲載。「リェイダ市訪問」。
- 南開大学外国語学院、2024年9月27日。訪問当事者の中国語報告、末尾の原綴り併記。
- Minor Hotels:中国語のLleida宿泊地ページ。都市を示す「莱里达」の直接用例。成立・更新年月不記載。
- INE表68065。上記保存版、25120、2025年・男女計。
- スペイン憲法。第5条、国家の首都はマドリード。
- GeoNames:Lleida。選定資料から継承した代表点。人口・境界の根拠ではありません。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。
次回予告|都市篇 第三百八十四号
第三百八十四号はサラマンカを取り上げます。
