ケタの東にある首都
都市篇第八十三号は、前号のケタから東へ進み、国境を越えてトーゴの首都ロメを訪ねます。両都市はギニア湾沿岸にあります。ロメの成立を調べた地名史研究は、十九世紀末、ケタ側の商業・関税と競合する拠点としてロメが発展した経緯を、当時の英領側報告を引いて論じています。ただし、今回その報告書の原本までは確認できていません。
ロメには「洛美」「洛梅」「羅美」という三つの二字表記が見つかります。どれを誰が、いつ選んだのか。都市そのものの歴史と、漢字表記の歴史を分けながら読みます。
日本語の「ロメ」と漢字用例の範囲
日本の外務省のトーゴ共和国基礎データは、首都を「ロメ(Lomé)」と記します。外務省のロメ漁港整備の記事にも「ロメ市」という表記があります。現代日本語都市名は「ロメ」とします。
今回確認できた日本語資料では、この都市を日本語の地名として使った歴史的な漢字表記を原典で確認できませんでした。日本で公開される中日辞典の中国語見出しには、首都の中国語名「洛美」と日本語訳「ロメ」が併記されています。これは日本語の歴史的漢字用例とは別です。未確認は不存在を意味しません。
中国外交部と国連の「洛美」
中国外交部の国別概況は、トーゴの首都を「洛美(Lomé)」と記します。同部が2000年に掲載したロメ協定の解説にも、会議の場所として「多哥首都洛美」とあります。協定名の字面だけから都市を推定したのではなく、首都そのものを示した用例です。
国連地名専門家グループのロメ項目も、中国語名を「洛美」、フランス語名を「Lomé」と対応させています。「洛美」は、都市との対応を複数の公的資料で確かめられる二字形です。
ただし、これらは中国語での使用例です。日本語で古くから「洛美」と書かれたという結論にはなりません。
台湾の「洛梅」と「羅美」
台湾外交部の外交年鑑と領事事務局の国別基本資料は、首都を「洛梅」と記します。一方、領事事務局の生活情報には「洛美」も現れます。同じ台湾の公的資料でも、表記が一つにそろっていません。
さらに台湾中央気象署の2024年の観測表には、トーゴの都市として「羅美」が載ります。観測地名の用例として残す価値はありますが、外交部系の「洛梅」と同じ資料系列ではありません。いずれもロメを指すことは確認できても、各表記の初出や選字の経緯は未確認です。
首都になった年と、名の由来
トーゴがユネスコへ提出したアネホ=グリジの暫定一覧は、ゼベの植民地期の建物群を、1887年から1897年までの最初の首都の遺構と説明します。国立博物館のロメ百周年展示を紹介するユネスコ所収資料は、1897年にロメがドイツ領トーゴの首都に選ばれたと記します。首都の移動は都市の歴史であって、「洛美」の二字が作られた年ではありません。
ロメ大学は、地名がエウェ語の「ALOTIME」に由来し、aloという植物の中を意味すると紹介しています。他方、地名史研究は異なる伝承や、町の創建者をめぐる説を記録します。大学の説明を一つの伝承として紹介し、語源と命名者を確定しません。「洛」や「美」の字義から、現地語の語源を逆算することもしません。
人口は「大ロメ地区」の数字
トーゴ国立統計経済人口研究所(INSEED)が公開する2022年11月国勢調査の確定結果では、Grand Lomé(大ロメ地区)の人口は218万8,376人です。内訳はGolfe県130万5,681人とAgoè-Nyivé県88万2,695人。二つの県を合わせた統計区域であり、ロメ中心部だけ、あるいは一つの自治体だけの人口ではありません。
公式サイトの都市一覧にも、行政区域の人口であることを明記して載せます。国連地名専門家グループが示す北緯6.15123度、東経1.24310度はロメの都市代表点です。人口を数えた大ロメ地区全体の中心点という意味ではありません。
二字形の比較と暫定選定
洛美
中国外交部が首都ロメに直接使い、国連の中国語地名欄にも載る表記です。都市を指す対応が明確なため、主案にします。
洛梅
台湾外交部系の国別資料で首都に使われる二字形です。誤りとして捨てず、資料によって異なる有力な別形として残します。
羅美
台湾中央気象署の観測表にある二字形です。対象都市は確認できますが、今回の採用では中国外交部と国連がともに用いる「洛美」を優先します。
万国漢字志の暫定制定都市名には「洛美」を採ります。区分は「創」。二字そのものを本誌が発明したのではなく、中国語で使われている形を日本語の都市索引へ新たに選ぶ判断です。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ロメ
所属国
トーゴ
中国外交部・国連で確認した表記
洛美
台湾の公的資料で確認した別形
洛梅・羅美
暫定制定都市名
洛美――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と選字者は継続調査
採らなかった表記と未解決点
「洛梅」は台湾の外交資料、「羅美」は気象資料に根拠がありますが、主表記には採りません。現地語の語源を漢字に直訳した新語や、資料で確認できない略字も作りません。
未解決なのは、日本語史料での漢字使用の有無、三つの二字形の初出と選字者、地名の語源と命名者です。人口218万8,376人は大ロメ地区の値であり、旧来の市域や個々の自治体の人口と取り違えないことも今後の比較で必要です。
参考資料
- 外務省「トーゴ共和国基礎データ」、首都ロメ
- 外務省「ロメ漁港整備計画」、ロメ市の用例
- コトバンク『中日辞典』「多哥共和国」、中国語の洛美と日本語訳ロメ
- 中国外交部「多哥国家概况」、洛美(Lomé)
- 中国外交部「洛美协定」、多哥首都洛美の用例
- 国連地名専門家グループ「City Details - Lomé」、中国語名と都市代表点
- 台湾外交部『外交年鑑2008』、首都洛梅
- 台湾外交部領事事務局「基本資料」、首都洛梅
- 台湾外交部領事事務局「生活情報」、洛美
- 台湾中央気象署『氣候監測報告』2024年3月、羅美
- トーゴINSEED「RGPH-5(2022年11月)確定結果」、Grand Loméの人口
- トーゴ提出・ユネスコ暫定一覧「Agglomération Aného Glidji」、旧首都ゼベ
- ユネスコ所収「Les Cent ans de Lomé, vus du Musée National」、1897年の首都選定
- ロメ大学「Découvrir la ville de Lomé」、地名の伝承
- Yves Marguerat「Les deux naissances de Lomé」、境界と交易・語源諸説
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第八十四号
次は、ロメの東にあるアネホを調べます。トーゴがユネスコへ提出した資料には、かつて首都だった地区の遺構が記録されています。
