エルディアの隣にある別の村
都市篇第五十六号は、セネガル南部の集落、ルディア・ウォロフです。
公的資料ではLoudia Ouolof、Loudia Ouoloff、Loudia Wolofという三つの綴りが使われています。ジガンショール州ウスイ県にあるルディア・ウォロフ郡の郡庁所在地で、ムロンプ・コミューンに属します。
前号のエルディアは、現在の公式名をLoudia Diolaとする別の村です。二つの村は近接し、Loudiaという部分を共有しますが、人口も歴史も行政上の役割も同じではありません。
日本語や中国語でこの村そのものを直接指す既成の漢字名は確認できませんでした。本稿では、十九世紀の記録、村の創設を伝える歴史研究、現代の統計と地図を分けて確かめたうえで、本誌独自の三字案を組みます。
Loudia OuoloffとLoudia Wolof
フランス海外科学技術研究所が再録した1896年の人口一覧には、Loudia Ouoloffが50人の村として記録されています。同じ一覧にはLoudia Diollaが100人の別項目として並びます。
OuoloffはWolofの歴史的なフランス語綴りです。現在の公的資料では、村名の綴りにも揺れがあります。セネガル国家統計・人口経済分析庁(ANSD)は集落名をLOUDIA OUOLOFF、郡名をLOUDIA OUOLOFと記し、国土整備庁の地図はLoudia Wolofとします。
これらは同じ集落を指す綴りの違いです。本稿の日本語名は、前号との区別が明瞭で、民族名Wolofの一般的な日本語表記にも沿うルディア・ウォロフとします。
1896年のLoudia Ouoloffはラテン文字による歴史記録です。日本語で使われた漢字表記ではないため、記事データの歴史的漢字表記欄には入れません。
三人の交易者が築いた村
歴史学者ロバート・M・バウムは、ルディア・ウォロフを北部セネガルのジョロフ地方から来たウォロフ交易者が築いた「よそ者の村」と記しています。
創設者集団として名が挙がるのは、アリウ・ディオプ(Aliou Diop)、ムサ・セーク(Moussa Seek)、アブドゥライ・スアレ(Abdoulaye Suare)らです。彼らはエルディア側へ小さな土地を求めました。
バウムの記述では、エルディア側には、周辺からの牛の略奪者に対する懸念と、交易者たちが土地を力で取るかもしれないという警戒がありました。そうした事情も、移住者に土地を認める判断へ影響したとされます。
アリウ・ディオプとムサ・セークはジョラ女性と結婚し、妻方の親族から耕地を借りました。村は交易に加え、住民が製造したマスケット銃の販売によっても生計を立てたと記録されています。
これは地域の口承を組み込んだ歴史研究による記述です。三人を創設者集団の人物として記録できますが、Loudia Ouolofという地名を誰が最初に定めたかまでは分かりません。
また、三人は本稿の漢字表記を作った人物ではありません。都市一覧に人物名を示す場合も、村の創設者として記録された人物と、地名・漢字表記の命名者を混同しないようにします。
イスラーム、交易、地域社会
バウムは、ルディア・ウォロフがイスラーム教徒によって築かれたと説明します。アリウ・ディオプとムサ・セークはイスラームの宗教指導者で、少量のアラビア語写本を所蔵し、ティジャーニーヤ教団に属していました。
村はエルディアや周辺のジョラ社会と婚姻・耕地・交易を通じて結びつきました。一方で、ジョラの祭祀施設を村内に設けなかったとも記録されています。
「ウォロフ」という名を持つからといって、現在の全住民の民族や信仰を一つに決めることはできません。後年の土地制度研究は、村が多民族化し、調査時点ではウォロフが少数になっていたと報告しています。
したがって、村名の由来となる創設者集団の背景と、現在の住民構成は分けて扱います。2023年国勢調査の公開表からも、住民一人ひとりの民族や宗教は確定しません。
郡庁所在地としてのルディア・ウォロフ
セネガルの2021年の行政区画法令は、ウスイ県の行政区分としてArrondissement de Loudia Ouolofを置き、その郡庁所在地をLoudia Ouolofと記します。
国土整備庁の縮尺20万分の1の公式KMLも、Loudia Wolofを郡庁所在地に分類しています。2024年の選挙地図では、Loudia DiolaとLoudia Ouolofが別々に掲載されます。
ここでいう郡庁所在地は、セネガルの行政区画であるarrondissementの中心です。国の首都や州都、県都という意味ではありません。
セネガルの首都はダカール、ジガンショール州の州都はジガンショール、ウスイ県の県都はウスイです。公式サイトの「首都」欄は国の首都かどうかを示すため、ルディア・ウォロフは「いいえ」とします。郡庁所在地であることは要約と本文に明記します。
公式座標と人口596人
セネガル国土整備庁の公式KMLは、Loudia Wolofを北緯12.514980度、西経16.594889度付近に置きます。
都市一覧の座標には、この点を小数第六位へ丸めて採用します。これは地図上の集落代表点であり、村域の境界や役所建物の測量点を示すものではありません。
ANSDの2023年国勢調査では、Loudia Ouoloffは596人です。内訳は男性293人、女性303人、85世帯、76コンセッションと記録されています。
この596人は、ムロンプ・コミューン内の一集落行に示された値です。同名の郡全体の人口ではありません。都市一覧でも人口範囲を集落と表示します。
1896年の50人と2023年の596人を単純な増加率にはしません。127年間に行政境界、調査方法、居住範囲が変わっている可能性があり、同一条件の連続統計だと確認できないためです。
日本語と中国語の直接用例は未確認
国立国会図書館サーチと国立国会図書館の本文検索を、Loudia Ouolof、Loudia Ouoloff、Loudia Wolof、ルディア・ウォロフで確認しました。このセネガルの村を直接指す日本語の漢字表記は採録できませんでした。
これは漢字表記が絶対に存在しなかったという断定ではありません。現在の検索で、対象を直接指す日本語原典を示せないという記録です。
台湾政府の外国地名訳名データでも、三つのラテン文字綴りに対応する都市名を確認できませんでした。中国大陸の政府資料には民族・言語名Wolofの表記として沃洛夫が見えますが、Loudia Ouolofという村の中国語名ではありません。
沃洛夫を村名の既成形と扱うことはできません。ただし、後に比較する本誌案では、ウォロフの音を短く残す候補の参考に限って用います。
二字・三字案を比較する
瑠迪沃
三文字です。瑠をル、迪をディ、沃をウォに対応させます。Loudiaからル・ディ、Wolofからウォを取り、村を隣のLoudia Diolaと区別する二つの要素を残します。
末尾のアとロフは省きます。迪と沃の読みも、日本語の通常の音読みだけで自然にルディウォとは読めません。既成の日本語表記ではなく、本誌独自の音写だと明示する必要があります。
瑠の宝石、迪の導く、沃の肥沃という字義は、この村の語源を表しません。確認できない美称を作らないため、三字とも音の手掛かりとして扱います。
瑠迪沃洛夫
五文字ならル・ディ・ウォ・ロ・フに近い音を保てます。中国語の民族名沃洛夫も組み込めますが、この五字の都市名を使った直接用例はありません。
本誌では二字・三字を主流としています。説明なしには中国語の既成都市名に見える危険もあるため、完全音写風の五字案は採りません。
瑠迪亜
三文字でLoudiaのル・ディ・アを写せます。しかし、Wolofを落とすため、前号のLoudia Diolaとの区別が弱くなります。二つの村を取り違えないことを優先して採りません。
瑠沃夫
三文字でル・ウォ・フを残しますが、LoudiaのディアとWolofのロを落とします。人名のようにも見え、原名の構造を示す手掛かりが少ないため採りません。
今回は、三字の中でLoudiaとWolofの両方を残す瑠迪沃を選びます。省略と読みの弱点を隠さず、暫定案として扱います。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の瑠迪沃を採ります。
制定区分は創です。日本語の歴史的漢字名を復元したものでも、中国語圏の既成都市名を取り込んだものでもありません。ルディア・ウォロフという本稿の日本語名から、万国漢字志が二つの名称要素を三字へ縮約した案です。
アリウ・ディオプ、ムサ・セーク、アブドゥライ・スアレは、歴史研究が挙げる創設者集団の人物として本文に記録します。しかし、地名を作った人物、または瑠迪沃という漢字表記を作った人物ではありません。漢字表記の特定個人による命名記録は置きません。
今後、日本語・中国語の直接用例、現地での名称の発音、Loudiaという地名の語源と命名史が確認できた場合は、日本語名、制定形、区分を再検討します。
万国漢字志の暫定案
本稿で用いる都市名
ルディア・ウォロフ
所属国
セネガル
公式・歴史資料で確認した綴り
Loudia Ouolof/Loudia Ouoloff/Loudia Wolof
歴史的な日本語漢字表記
未確認
信頼できる中国語の都市名表記
未確認
創設者集団として記録された人物
アリウ・ディオプ/ムサ・セーク/アブドゥライ・スアレ
地名・漢字表記の命名者
未確定
暫定制定都市名
瑠迪沃――創
制定状態
暫定制定・日本語原典、中国語の都市名直接用例、現地語発音、語源と命名史を継続調査
採らなかった表記と未解決点
瑠迪沃洛夫は音を多く保ちますが五文字で、直接用例もありません。瑠迪亜はWolofを落とし、瑠沃夫はLoudiaの主要音を落とします。
採用した瑠迪沃も末尾のアとロフを省き、各字の読みには説明が必要です。沃洛夫という中国語表記は民族・言語名の用例であり、村名の根拠ではありません。
未解決点は、Loudiaという地名の語源、地名の命名者、村の創設年代、三人以外の創設者名、現在の民族構成、日本語と中国語の都市名直接用例です。
人口596人は2023年国勢調査のLoudia Ouoloff一行の値です。1896年資料との集計範囲の連続性は未確定です。座標は公式KMLの集落代表点で、村域の境界を示すものではありません。
参考資料
- セネガル国家統計・人口経済分析庁「RGPH-5 2023 LOUDIA」
- セネガル国土整備庁「Ziguinchor ND-28-II」KML
- セネガル共和国官報「Journal officiel no 7439 du 13 juillet 2021」
- セネガル選挙総局「Carte électorale 2024」
- フランス海外科学技術研究所「Les premiers recensements au Sénégal」
- Robert M. Baum『Shrines of the Slave Trade: Diola Religion and Society in Precolonial Senegambia』
- Bassèneほか「Étude floristique et ethnobotanique des plantes utilisées en Basse Casamance」
- 国立国会図書館サーチ「Loudia Ouolof」
- 国立国会図書館サーチ「Loudia Wolof」
- 国立国会図書館「次世代デジタルライブラリー」API説明
- 台湾政府資料開放平臺「外國地名譯名」
- 中国商務部「セネガル概況」
- 外務省「セネガル共和国基礎データ」
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第五十七号
次は、エフィサオです。
ルディア・ウォロフから分かれたイスラーム教徒が、畑の近くへ移って築いたと記録される小集落をたどります。
