万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百四十号|リューベック――友好都市の名と「吕贝克」の三字――

川崎市のリューベックと中国総領事館の吕贝克を比較。呂貝・留別という本誌案の難点を踏まえ、三字を保つ呂貝克を暫定案とする。


友好都市の紹介に並ぶ二つの文字

川崎市の友好都市紹介には、リューベック(Lübeck)市という見出しがあります。カタカナと現地の綴りを一緒に示し、交流先の町を紹介しています。友好都市提携の日付は1992年5月12日。町の名は、こうした交流の記録の中にも残ります。

中国駐ハンブルク総領事館の市長訪問報告では、同じ町が吕贝克です。こちらは三字。本誌は二字案とも比べた上で、三字の対応を保ち、字体を調整した呂貝克を暫定案にします。


歴史表記

リューベックを指す日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回確認したのは自治体の現代日本語と、総領事館の現代中国語です。古い欧州地誌の本文を確認したという意味ではありません。

川崎市の紹介は、かつてのハンザ同盟にも触れています。しかし、都市が中世から続くことと、いま使われる漢字が中世から伝わることは別です。都市史の古さから漢字表記の年代を推定しません。

また、1992年という提携年を、そのまま現行ページのすべての用字の初出年とはできません。当時の提携文書原本と、現在のウェブ紹介文は分けて扱います。


日本語での用例

川崎市の「姉妹都市・友好都市のプロフィール」は、対象をドイツ連邦共和国・リューベック(Lübeck)市と明示しています。見出しで日本語名と現地名を直接対応させられることが、この資料を使う利点です。

同じ節には友好都市提携年月日が掲げられ、川崎市自身の交流先の紹介であることも分かります。本誌の日本語都市名はリューベックとします。本文に出る音楽大学などの施設名だけを手掛かりに、市名を逆算したのではありません。

現地の市公式ポータルも、表題にHansestadt Lübeckと記しています。現地綴りはLübeckです。記事の欧字識別では、üをueと表すluebeckを用います。これは市公式サイトのドメインにも見られる形で、都市の別名を新たに立てる操作ではありません。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐ハンブルク総領事館の「丛武总领事拜会德国吕贝克市长及议长」には、2024年11月21日の掲載表示があります。本文は前日の11月20日に市長と議長を訪問したと報告し、都市名を吕贝克としています。

本誌が参照するのはこの三字の用例です。掲載日と訪問日は一日違うので、同じ日として記しません。また、人名の音写が併記されていても、市名の三字とは分けて読みます。

本誌案は吕→呂、贝→貝と調整し、克は残した呂貝克です。原文に呂貝克とあるわけではなく、二字の字体を本誌が変更しています。この一報だけで、他の中国語圏すべての用字や、日本語の慣用漢字が確定したとはしません。


二文字・三文字案の比較

呂貝

吕贝克を基に末尾の克を省いた、本誌の二字の比較案です。既存の都市略記として確認したものではありません。

先頭二字が残る点は分かりやすいものの、資料の三字の終わりが消えます。通常の日本語の音読みでも、呂貝からリューベック全体を自然に得ることはできません。短縮の利益より、出典との対応を保つ方を優先します。

留別

日本語名のリューベックを念頭に、留の「リュウ」と別の「ベツ」を手掛かりに作った本誌の二字案です。留のリュウは長音を含む日本語表記との近さを考える材料ですが、別のベツをベックへ変える通常の読み方はありません。

二字を合わせた語がどこかに存在することと、それがこの都市の表記であることも別です。今回はリューベックを指す用例が未確認で、読みの操作も大きいため採りません。ここでの留別は歴史表記の紹介ではありません。

呂貝克

確認した吕贝克と一字ずつ対応し、三字という本誌の標準内にも収まります。字を省かず、字体調整の箇所を示せることを採用理由とします。

ただし、呂・貝・克を普通に音読みしただけでリューベックとはなりません。とりわけ貝の字があることから「ベ」の音を日本語で保証することはできません。川崎市の用例に基づき、リューベックの読みを添えます。 三字を採る判断と発音の再現性は別に評価します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

リューベック

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

吕贝克

暫定制定都市名

呂貝克――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

吕・贝を呂・貝へ調整しているため「改」とします。原文無変更の「既」でも、日本語の歴史原典で裏付けた「史」でもありません。

人口はDestatisの年次版による2025年12月31日現在217,061人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、2026年8月版、人口と境界の基準日はともに2025年12月31日です。Lübeck, Hansestadtの自治体全体を数えています。川崎市の紹介にある概数や、旧市街だけの人口、周辺を合わせた都市圏人口を代用していません。


採らなかった表記と未解決点

呂貝は出典の一部を省く案、留別は日本語名から別の二字を作る案です。どちらも本誌の比較案で、確認済みの伝統表記ではありません。今回は短い形の用例を得られず、原文の三字を残す方を選びました。

貝の字から海の交易を連想することはできますが、それを選字者の意図として語る根拠はありません。漢字の字義、町の歴史、音写を作った経緯を一つの説明にまとめないようにします。

日本語の歴史漢字、漢字表記の初出、選字者、根拠ある二字略記は継続調査です。呂貝克も読みを添えて使う暫定案として残します。公的な交流資料は相手の同定を助けますが、その執筆者が漢字の命名者だとは限りません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百四十一号

次回はオーバーハウゼンを予定しています。大学の講演報告にある市名と、中国語の四字を手掛かりに、短くする場合の利点と限界を比べます。