万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百三十八号|マインツ――交流先の「美因茨」を三字のまま残す――

さいたま市の交流先マインツと中国総領事館の美因茨を照合。三字の既存形を採り、市公式のMogontiacumを日本語漢字や語源の証明と混同しない。


交流の覚書に結び付いた市名

さいたま市が紹介する海外の交流先に、ドイツのマインツ市があります。覚書を結んだ相手を説明するページなので、ここでのマインツは企業やサッカークラブの名前ではなく、自治体の名です。

中国駐フランクフルト総領事館の市長訪問報告では、この町を美因茨と記しています。三字を二字へ短くする必要はあるのか。今回は、交流の当事者が使う市名を照合し、美因茨を三字のまま暫定案とします。


歴史表記

マインツを指す日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 現代中国語の美因茨を、そのまま日本語の古い地理書の用字として掲げることはできません。

市公式サイトの「Gräberstraße」は、ローマ期の墓地を紹介し、当時の軍団の駐屯地をMogontiacumと記しています。これは市が現在公開する歴史解説であって、古代の碑文原本そのものを本稿が読んだという意味ではありません。また、ラテン文字の名が確認できても、日本語の漢字先例が得られたことにはなりません。

このページだけから、Mogontiacumがどのような音変化を経てMainzになったかまでは確定しません。綴りにMainが含まれていることを理由に、マイン川から名が来たと補うこともしません。旧名の用例、現在名の由来、漢字の選定経緯はそれぞれ別の問いです。


日本語での用例

さいたま市の「その他の海外都市との交流」には、ドイツ連邦共和国 マインツ市とあります。市自身が交流相手を説明する資料で、日本語の都市名を直接確認できます。

ページの更新日は2025年3月11日。一方、相手都市名に添えられた2008年10月7日は覚書締結日です。二つの日付を分け、現在読める電子本文の用字を、そのまま2008年の覚書原本の用字と呼ばないようにします。

市の概要はラインラント=プファルツ州の州都と説明しています。また、さいたま市はこれらの交流先を「パートナーシップ都市」と呼んでいます。本誌も、資料にない姉妹都市という関係へ言い換えず、ここで確認した日本語名をマインツとします。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐フランクフルト総領事館の「黄昳扬总领事拜会美因茨市长哈泽」は、2024年1月22日の掲載表示です。本文も1月22日の訪問を報告し、見出しと本文の両方に美因茨があります。

本文は市長名をNino Haaseと併記し、都市を州都として紹介しています。都市名と市長の姓、大学・企業の名称を区別して読める資料です。本誌が三字の根拠にするのは、この外交活動報告に実際に使われた文字列です。

URLの年月日部分は2024年1月23日を含みますが、本文の掲載表示と訪問日は1月22日です。URLから表示日を上書きしません。この記事に含まれる都市史全般の説明まで採用するのではなく、都市の用字と訪問記録を参照します。この一例から中国語圏全体の唯一の標準形や、日本語での伝統性を断定することも避けます。


二文字・三文字案の比較

美茨

美因茨から真ん中の因を省いた、本誌の二字の比較案です。この略記の既存用例は今回確認していません。

短くなりますが、もとの三字のうちどこを落としたかを別に説明する必要があります。マインツの「イン」に対応させて考えられる部分も失われます。二字を標準の一つにしていることだけでは、省略を採る理由になりません。

美因津

末尾を津へ取り替えた、本誌の三字の比較案です。ツという日本語の音を意識したくなりますが、津の「つ」は訓読みであって、三字を一貫した音読みでマインツへ戻す方法にはなりません。

津が水辺を連想させるとしても、それは本誌の連想です。都市名の由来や、史料にある選字理由として語る根拠はありません。変更の利点が十分でないため採りません。

美因茨

総領事館の本文と一字ずつ対応する既存の三字です。本誌の二字・三字という標準内に収まり、省略も字の置換もせずに使えます。出典へ戻りやすいことを採用理由にします。

美・因・茨の通常の日本語音読みを並べるだけで、マインツと自然に読めるわけではありません。中国語の表記を採ることと、現地名の発音を日本語の漢字音で再現することは別です。美因茨にはマインツの読みを添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

マインツ

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

美因茨

暫定制定都市名

美因茨――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

確認した現代中国語の三字を変更せず用いるため「既」です。比較案の美茨・美因津を既存の異表記として紹介しているのではありません。日本語の史料用例を発見したという「史」とも区別します。

人口はDestatis年次版の2025年12月31日現在223,888人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、2026年8月版、人口と境界の基準日はともに2025年12月31日です。対象はMainz, Stadtの自治体全体であり、周囲の自治体を含む地域や都市圏、歴史上の教会領の人口ではありません。


採らなかった表記と未解決点

美茨は因の省略を、美因津は茨の置換を本誌が加えた案です。前者は出典の字を減らし、後者は読み方の約束を新たに必要とします。現時点では、既存の三字を保つ方が判断の根拠を示しやすいと考えます。

ただし、美因茨を残したことで、日本語での読みが自明になったわけではありません。漢字の初出、選字者、日本語の歴史資料での使用、他の中国語圏での表記は継続調査です。

さいたま市の交流説明と中国総領事館の市長訪問は、どちらも具体的な相手を指す資料です。そこから都市を同定することはできますが、交流の当事者を漢字の命名者とすることはできません。市公式のローマ期解説も含め、資料が答えている範囲を越えて由来を作らないようにします。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百三十九号

次回はエアフルトを予定しています。日本学術会議の会議出席報告にも見える都市名を手掛かりに、漢字表記の用例と候補を調べます。