万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百二十三号|マンハイム――肖像の解説から市名を読む――

徳島県立近代美術館の作品解説にあるマンハイムと、中国総領事館の曼海姆を比較。三字の既存形を保ち、人名・施設名・都市圏と区別する。


肖像の解説からたどるマンハイム

徳島県立近代美術館の、レームブルック作《ザリー・ファルクの肖像》の解説に、マンハイムが出てきます。モデルとなった人物の出身地として、またコレクションの寄贈先の市としてです。作品名だけを眺めていたら見落としそうな地名が、所蔵品の説明の中に残っています。

中国駐フランクフルト総領事館の都市交流報告では、同市を曼海姆と記します。本誌の暫定案は、この三字をそのまま採る「既」です。肖像の制作年、解説の執筆年、中国語の記事の年を混ぜず、何年のどの言語の用例なのかを確かめます。


歴史表記

マンハイムの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回の美術館の解説はカタカナであり、中国語報告の曼海姆とは資料の言語が異なります。

作品に1916年という制作年が示されていても、それは彫刻の年です。その年に日本語でマンハイムと書かれたことも、曼海姆が使われていたことも証明しません。解説が振り返る出来事の年も、解説の用字が生まれた年ではありません。

歴史的な漢字形の初出と選字者は継続調査です。都市名としての漢字を探す際には、人の姓や施設名の中に同じ文字列を見つけただけで、都市の古い呼び名と断定しないことも必要になります。


日本語での用例

徳島県立近代美術館の吉原美惠子による「ヴィルヘルム・レームブルック『ザリー・ファルクの肖像』」は、モデルの出身地をマンハイムと記し、さらにマンハイム市、マンハイム・クンストハレという形を使っています。

電子本文の末尾には、『徳島県立近代美術館ニュース』No.53、Apr.2005という掲載先と、2005年3月という執筆表示があります。電子ページの公開日・更新日はそこから確定できません。美術作品の制作年と、この解説の年代を区別します。

人の出身地、市の名前、美術館名の三つが文章の中で結び付いているため、カタカナが単に作品名や人名の一部である場合とは違い、都市を指す用例として確認できます。本稿の現代日本語都市名はマンハイムとします。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐フランクフルト総領事館の「黄昳扬总领事陪同青岛市代表团访问曼海姆市并出席经济圆桌会」は、本文の表示日が2024年4月24日。本文も4月24日の訪問を報告しています。URLに含まれる翌日の日付を、本文の表示日に置き換えません。

見出しと本文の双方に曼海姆市があり、市長や市政府を指す箇所からも都市名だと確認できます。本誌が採るのは市という行政単位の字を除いた曼海姆です。

同じ記事の終盤には、ライン=ネッカーの広い地域についての人口も出てきます。それをマンハイム一市の人口にしません。文字列の用例を得る資料と、自治体人口を測る資料には、それぞれ違う役割があります。

この報告は中国大陸の現代公的用例です。三字を日本語の歴史原典の用例と呼んだり、中国語圏の他地域の表記まで一律に確定したりはしません。


二文字・三文字案の比較

曼姆

原文の先頭と末尾を残す、本誌の二字の比較案です。海を落とすことで短くなりますが、マンハイムの中ほどに対応させていた部分も省くことになります。この都市の略記としての用例は今回確認していません。

曼海姆

現認した原文と同じ三字で、標準の文字数に収まります。新たな省略や置換を加える必要がなく、採用する形と出典の形をそのまま照合できます。

ただし、日本語の音読みで自動的にマンハイムになるわけではありません。たとえば海を通常の音読みのカイで読めば、カタカナのハイとは異なります。マンハイムの読みを添えることを前提にします。

満海姆

先頭を、日本語で見慣れた満へ置き換える本誌の三字の比較案です。しかし、字体を読みやすそうに変える判断と、実際の使用を確かめる判断は別です。今回の原文は曼であり、満ではありません。用例のある字を変更する積極的な理由がないため採りません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
マンハイム

所属国
ドイツ

確認した現代中国語表記
曼海姆

暫定制定都市名
曼海姆――既

制定状態
暫定制定・原典継続調査

三字を原文から変更せず採るため「既」です。曼海姆という形の新しい命名者を本誌が立てるわけではなく、見つかった記事の筆者や訪問者を漢字の命名者とすることもしません。

人口はDestatis年次版の2025年12月31日現在319,536人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計、2026年8月版です。人口・境界とも2025年12月31日が基準で、対象はMannheim, Universitätsstadtの自治体全体。美術館の所在地の一画や、ライン=ネッカー都市圏の人口ではありません。


採らなかった表記と未解決点

二字の曼姆には省略の根拠がなく、満海姆には置換の根拠がありません。三字の既存形が確認できる今回は、どちらも比較案として残します。

美術館の解説は、現在読める日本語の文章に市名が現れる証拠です。解説に書かれた20世紀初頭の出来事と、その時代の日本語表記の証拠は分けなければなりません。古い地理書や同時代の日本語刊本での漢字表記は、今後確かめる課題です。

現地語の発音を日本語の音読みへ完全に移すことも、今回の三字では解決しません。カタカナを併記し、確認した中国語形の利用という判断の範囲を明示します。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百二十四号

次回はカールスルーエを予定しています。人口基準の掲載順に沿って、日本語の用例と漢字表記の根拠を確認します。