万国漢字志

都市篇 · フランス

万国漢字志 都市篇 第百六十三号|マルセイユ――馬賽と马赛、港の名を読む――

マルセイユの現用・既存漢字形を一次の公式用例で比較し、馬賽を既として暫定採用。人口は2023年基準、2025年境界、2026年発効の自治体PMUN886,040人で、市内区や都市圏を重ねて数えない。

以前のnote記事を読む

片仮名五音と、漢字二字

マルセイユという片仮名と、馬賽という漢字二字を並べると、名前の長さが違って見えます。馬賽は本誌がマルセイユを二字に縮めた案ではありません。台湾外交部の公式告知に実際に使われている形です。

中国外交部は簡体字の马赛を用いています。本稿ではこの二つの公式用例を比べ、馬賽を既として暫定採用します。一字ずつ日本語の音へ割り当てる作業と、別の言語ですでに使われている都市名を採る作業を分けて考えます。


歴史表記

マルセイユ観光局のL’Histoire de Marseilleは、紀元前600年のギリシャ人による都市建設を説明し、古い名としてMassaliaを挙げています。これは観光局が現在公表している市史の解説です。今回、古代の文献や碑文そのものを読んだわけではありません。

日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 Massaliaを見つけたことを、その漢字表記まで確認できたことにはしません。現在の馬賽と古代名の間に、確認していない漢字の系譜を作ることもしません。

漢字名を最初に書いた人物と、都市を建設した人々も別の問題です。今回の資料から選字者や初出年を確定することはできません。


日本語での用例

在フランス日本国大使館の海外安全対策情報は、現地の日本側機関として在マルセイユ総領事館を記しています。本稿は、この現用日本語名マルセイユを用います。

欧文Marseilleの綴りと、日本語マルセイユの文字列は同じ仕組みではありません。末尾の綴りを日本語の一音ずつに変換したり、馬と賽の普通の日本語音訓からマルセイユが自動的に読めるとしたりはしません。別言語の表記を対応させるときには、都市名そのものの用例が必要です。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の在マルセイユ総領事館案内には、見出しに驻马赛总领事馆、英語名にMARSEILLE、所在地にMarseilleと法国马赛市があり、马赛との対応を確認できます。

台湾外交部の2017年10月1日付の告知は、見出しで法國馬賽火車站と記しています。こちらでは繁体字の馬賽が実際に用いられています。古い告知は地名の用字を確かめるために参照しており、当時の事件情報を現在の渡航状況として紹介するものではありません。

このように、馬賽は本誌による马赛の自動変換だけを根拠にした形ではありません。双方の機関の実際の表記を別々に確認しています。確認した二つの用例を、中国語の全地域・全時代での一律の表記規則に広げることはしません。


二文字・三文字案の比較

馬賽

台湾外交部の公式告知に実在する二字形です。本稿ではこれを保持します。日本語の五つの片仮名を二つに切り詰めたという説明は不要です。採用の支えは、対応する都市にこの文字列が使われた一次の公式用例にあります。

马赛

中国外交部の現用形です。こちらも確認済みの既存表記として残します。本稿が馬賽を採ることによって、簡体字の马赛を誤りとするわけではありません。どの資料の用字をそのまま示しているかを区別します。

麻世由

マ・セ・ユに寄せた三字の、本誌独自の比較案です。麻のマ、世のセ、由のユを借りても、現代日本語名のルとイが示されません。三字という枠を先に決めて音を落とすことになり、採用しません。既刊の漢字形を発見したという意味でもありません。

麻留世伊由

麻・留・世・伊・由を、それぞれマ・ル・セ・イ・ユへ寄せる五字の比較案です。留のル、世のセ、由のユなどに音訓を組み合わせた読みの約束が要ります。通常の熟語としてそのまま読めるとの主張はしません。

長さだけを理由にこの五字案を二字へ削ることはしません。ただ、すでに公式の二字形を具体的に確認できた今回は、新しい当て字を優先する根拠がありません。五字案も本誌の不採用比較案であって、歴史資料の表記ではありません。


886,040人は、自治体全体の人口

Inseeの自治体人口表で扱うマルセイユは、自治体コード13055です。POPREF T1のpopulation municipaleは886,040人。人口基準日は2023年1月1日、自治体境界は2025年1月1日です。

同じ表の別計上人口は6,351人、population totaleは892,391人です。本稿の886,040人は前二者の合計ではなく、自治体に通常居住する人々などを数えるmunicipaleの値です。この版は2026年1月1日から効力を持ちますが、2026年基準の人口に読み替えません。

マルセイユの市内16区は、この自治体全体の内側にある区分です。区を独立都市として加え、市全体もさらに加える扱いにはしません。エクスなど周辺の自治体を含む都市圏や広域行政組織の人口も、今回の市域人口へ合算しません。

観光局の歴史頁にも人口と広域圏の案内がありますが、対象年と範囲が今回の人口表と揃うと確認したものではありません。都市史を読む資料と、掲載対象の人口を確かめる資料は、用途に応じて使い分けます。


港湾都市と国家首都

日本国外務省のフランス基礎データが示す国家首都はパリです。マルセイユは本稿では国家首都に区分しません。歴史や文化に関する「首都」という表現が別の資料にあっても、国家の首都という意味と混同しません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
マルセイユ

所属国
フランス

暫定制定都市名
馬賽――既

制定状態
暫定制定・原典継続調査

二字を採る理由は短さそのものではなく、公式用例が確認できることです。马赛も対応する現用形として併記し、資料の字体を勝手に取り替えません。


採らなかった表記と未解決点

麻世由と麻留世伊由は本誌の比較案として残します。三字へ収めるための省音も、五字を機械的に作る方法も、公式用例を確認できた馬賽より先に置きません。

日本語の歴史的漢字形、馬賽・马赛の初出、漢字名の選字者は継続調査です。現在の公式頁の掲載日を、漢字名が生まれた年とはしません。現地話者の発音は今回は聴取しておらず、二字がフランス語の音を完全に保存しているとも断定しません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は万国漢字志 公式サイト・都市篇で公開します。


次回予告|都市篇 第百六十四号

次はリヨンです。公式用例の里昂と古代名Lugdunumを、それぞれの資料に即して読み、歴史地区と自治体全体の範囲も分けて確かめます。