万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百二十八号|メンヒェングラートバッハ――市長を指す二字「门兴」を確かめる――

大学の所在地にある日本語名と、総領事館の長形・市を指す短形を比較。门兴を門興へ調整する二字案と、略記の通用範囲の限界を記す。


長い市名を、どこで短くするか

下関市立大学の協定締結報告には、メンヒェングラートバッハ市とクレーフェルト市が並んでいます。ニーダーライン応用科学大学のキャンパスがある二つの都市としての記載です。長い名前でも、隣の都市と分けて書く場面では、省かずに示されています。

中国駐デュッセルドルフ総領事館の経済交流報告では、長形の门兴格拉德巴赫に続き、门兴市长という短い形が出てきます。本稿で問いたいのは、この二字が何を指しているかです。サッカークラブを指す略称だけを根拠にするのではなく、市長や市の産業を述べる文章で、都市そのものに使われた例を確かめます。


歴史表記

日本語で使われた歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回確認できた日本語の一次資料はカタカナです。また、中国総領事館の電子本文で確認した漢字は、現代中国語の用例です。

大学の訪問日や交流会の開催年を、その漢字表記の誕生年とすることはできません。いつ、誰がこの市を漢字で書き始めたかも、今回の資料からは分かりません。

そのため、本誌が提案する門興は、日本の古い地誌から復元した名前とは位置づけません。確認できた中国語の短形を、日本語で用いる字形へ調整する暫定案です。


日本語での用例

公立大学法人下関市立大学の「ニーダーライン応用科学大学(ドイツ)と協定を締結しました」には、2026年9月30日の訪問と協定署名が記されています。所在地の説明はメンヒェングラートバッハ市。本誌の現代日本語都市名には、この形を用います。

続く大学紹介では、メンヒェングラートバッハ市とクレーフェルト市を別々に挙げています。大学名の「ニーダーライン」を市名と取り違えず、複数都市にまたがる大学と、それぞれの所在地を分けて読める資料です。

本文にある9月30日は訪問・署名の日です。ページの掲載日は表示から確定できておらず、URL中の数字だけで掲載日を決めません。2026年の訪問報告に現れる日本語市名の用例として参照します。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐デュッセルドルフ総領事館の「“江苏省宿迁-德国经贸合作交流会”在北威州成功举办」は、2023年5月4日付の報告です。本文は同年4月27日の交流会を取り上げ、開催地を门兴格拉德巴赫市としています。

その後に门兴市长、さらに市の経済振興担当者による説明として门兴的主要产业和营商环境という語句があります。長形を先に提示し、同じ都市の市長と産業を短形で受ける文章になっています。したがって、この本文の门兴は、クラブ名だけの略記ではありません。

ただし、一つの報告で市の短形を確認したことと、中国語圏のどこでも単独で通用する標準略称だと認定することは別です。本誌が参照する範囲は、この総領事館の市を指す用例に限ります。台湾等での用字や、短形の初出は未確認です。


二文字・三文字案の比較

門興

確認した短形门兴を、门→門、兴→興と調整した二字案です。長い中国語形から本誌が自由に二字を抜き出したのではなく、原文中に短形そのものがあります。都市を指す用例と二字標準が両立する点から採ります。

ただし、日本語でモン・コウと音読みしても、メンヒェングラートバッハの全体は再現できません。中国語の短形を知っている読者にとっての手掛かりと、日本語の読みやすさは同じではありません。

門興巴

長形の末尾近くにある巴を足した三字の比較案です。これは本誌が比較のために組んだ形で、今回の本文で確認した略記ではありません。二字より多くの文字を残しても、途中の格拉德と末字赫が抜けるため、長形をそのまま保ったことにはなりません。確認済みの短形に一字を足す理由が乏しく、採りません。

門興格拉徳巴赫

長形の门兴格拉德巴赫を、門・興・徳の字形に調整した七字案です。原文との対応は最も詳しく示せますが、二字・三字を標準とする本誌では長い形になります。今回は都市を指す二字の実例があるため、七字を制定名として採る必要はないと判断します。

七字にしても日本語の通常の音読みだけでは現地名に戻せません。採用する二字には、メンヒェングラートバッハの読みを添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

メンヒェングラートバッハ

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

门兴格拉德巴赫/门兴(同じ市を指す本文中の短形)

暫定制定都市名

門興――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

既存の短形をもとに门・兴を門・興へ改めるため、制定区分は「改」です。日本語での伝統的表記と認定した「伝」「史」でも、原文を無変更で採った「既」でもありません。短形を日本語の都市表記として採用する判断は本誌によるものです。

人口はDestatisの2026年8月年次版で、2025年12月31日現在267,176人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計です。人口・自治体境界とも2025年12月31日を基準とするMönchengladbach, Stadtの自治体全体を扱い、大学のキャンパスや周辺都市を人口範囲に代用しません。


採らなかった表記と未解決点

門興巴は未確認の略称を増やすため採らず、七字案は比較用の長形として残しました。門興の採用にも限界があります。今回の中国語資料は、長形を先に示した後で短形を使っています。二字だけを文脈なしで出して、市を一意に特定できることまでは証明しません。

本誌でも現代日本語名を添え、市を指すと分かる形で用います。サッカークラブの用例をそのまま自治体の慣用略記へ読み替えることはしません。日本語の歴史漢字、短形の初出、選字者、単独使用の広がりは継続調査です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百二十九号

次回はゲルゼンキルヒェンです。研究者の略歴と大会の案内に出てくる市名を、漢字五字の形と照らし合わせます。