万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百六号|ミュンヘン――「慕尼黑」の末字をどう書くか――

中国総領事館の名称と住所で慕尼黑とMünchenを対応させ、黑を黒へ調整する。日本語の小説の読みと、三字から読み取れない音も考える。

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住所にある綴りと、館名にある三字

中国の在外公館が公開する連絡先には、館名と所在地が並んでいます。在ミュンヘン中国総領事館の場合、館名にある都市の名は慕尼黑、その下の住所にある綴りはMünchenです。

一つの案内の中で、漢字とアルファベットが照合できます。ただし、それで漢字三字を日本語のミュンヘンと読めるようになるわけではありません。慕、尼、黑を見て、初めからその音を思い浮かべるのは難しそうです。

本稿では、この三字を日本語で使うならどう整えるか、読みをどのように添えるかを考えます。小さな違いですが、最後の黑と黒も区別しておきます。


歴史表記

ミュンヘンの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 慕尼黑や慕尼黒という形を、日本の古い紙面にある漢字と読みの組として示せる段階ではありません。初出と選字者も要継続調査です。

日本文学にミュンヘンの名が現れることと、日本語でその漢字三字が使われたことは別です。森鴎外の『うたかたの記』を読むと町の名が登場しますが、今回の電子翻刻で確認したのはカタカナです。そこにない漢字を、作品の古さによって補いません。

慕尼黑を現在の中国語資料で確認し、その末字を本誌が黒へ調整する。この二つの手順を、日本語の歴史的な先例の発見とは分けて記します。


日本語での用例

在ドイツ日本国大使館の「在ドイツ日本国大使館及び総領事館」には、在ミュンヘン総領事館という見出しと、Japanisches Generalkonsulat Münchenの表記があります。現代日本語名には、このミュンヘンを採ります。

青空文庫の森鴎外『うたかたの記』でも、上の段の巨勢の話にミュンヘンが現れます。作品の初出は末尾の情報で1890年8月の『柵草紙』とされていますが、電子翻刻の底本は1981年初版、1999年第36刷の岩波文庫です。さらに、その親本は1971年刊の『鴎外全集』第二巻と記されています。

したがって、現在画面で読めるミュンヘンの小書きのュまで、1890年の初出紙面に同じように印刷されていたとは断定しません。今回の確認は、後年の版に基づく電子翻刻でのカタカナ用例です。作品の刊行史と、個々の字の形の確認とは、別に扱います。


中国語圏その他の表記との比較

在ミュンヘン中国総領事館の「联系方式及对外办公时间」は、2025年7月8日付の案内です。冒頭の館名は中国驻慕尼黑总领事馆、直下の住所末尾は81379 Münchenです。

ここでは、公館が自分の名と所在地を示すために使った慕尼黑を原文用例として採ります。周辺地域に似た名があるという推測や、会社名だけを手がかりにした照合ではありません。ただし、公館の住所だけで市の行政境界や人口が確定するわけではなく、人口は別の統計資料で確かめます。

本誌案は、黑を黒へ調整した慕尼黒です。慕と尼の二字はそのまま残します。原文の黑と本誌案の黒を同じ字形として印刷せず、どこを変えたかを明らかにします。

この公館の資料だけで、台湾などでも同じ表記・字形が使われていると判断することはできません。また、中国語での読みを、そのまま日本語のミュンヘンの発音説明に使うこともしません。


二文字・三文字案の比較

慕黒

中央の尼を省く、本誌の二字短縮案です。短くなりますが、原文の三字の構成を変えます。尼を省いても、慕と黒からミュンヘンという読みを取り出しやすくなるとはいえません。確認した既存用例ではありません。

慕尼黒

確認した三字の構成を保ち、末字の字形だけを調整する案です。都市篇の標準の三字に収まり、字数を縮めるための省略は加えません。

ただし、慕の「ボ」、尼の「ニ」、黒の「コク」などの通常の読みを続けても、ミュンヘンにはなりません。漢字名にはミュンヘンの読みを添えることを前提にします。三字あるから三つの日本語の音を順に表す、という説明はできません。

美允辺

「ミ・ン・ヘン」という音のまとまりを意識して組む、本誌の三字創案です。日本語の読みへ近付けようとする案ですが、「ミュ」の拗音や允の読み方などに無理が残ります。読みの説明をなくせるわけではなく、これを歴史的な別名とも扱いません。

今回は、確認した三字の形を保ち、末字の調整と読みの併記を明示する案を選びます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ミュンヘン

所属国

ドイツ

原資料で確認した現代中国語表記

慕尼黑

暫定制定都市名

慕尼黒――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

慕尼黑の黑を日本語で用いる黒へ調整したため、区分は「改」です。日本語史料に見つかった三字をそのまま採ったという意味ではありません。標準の三字内に収まります。

人口はドイツ連邦統計局(Destatis)の自治体一覧年次版による、2025年12月31日現在1,505,036人。人口と自治体境界はいずれも2025年12月31日を基準とし、2026年8月公表の版を用います。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、住民登録簿による別集計の人口や都市圏人口とは区別します。対象はMünchenの市域(Kreisfreie Stadt)です。同名の周辺のLandkreis Münchenとは別に扱います。バイエルン州統計局の2026年5月刊報告、印刷9頁の市域の合計とも一致します。


採らなかった表記と未解決点

慕黒と美允辺は、本誌が比較のために作った案です。原文の慕尼黑は比較対象として残し、本誌案の慕尼黒とは末字を書き分けます。

日本語の歴史的な漢字原典、漢字と読みを併記した頁、初出、選字者は未確認です。『うたかたの記』も、今回用いた電子翻刻と初出紙面の文字をすべて比較したわけではありません。古い作品に現れる都市だから、現在の漢字三字にも同じだけ古い先例がある、という判断は避けます。

一つの連絡先案内で確かめた三字とMünchenの対応を出発点に、末字の調整を明示した慕尼黒を暫定的に採ります。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇

次回の都市は、人口と対象範囲を確認したうえでお知らせします。読みの手がかりと、原文にある漢字を引き続き調べます。