南特を、日本語ではナントと呼ぶ
中国語の南特を見て、日本語の音読みだけでナントにたどり着けるでしょうか。南をナンと読んでも、特はふつうトク。二字の見た目は短くても、どの言語でどう読むかという問題が残ります。
在フランス日本国大使館はナントと書き、中国大使館の本文には南特とNantesが対応して現れます。本稿ではその実用例を根拠に、南特を既存の漢字都市名として暫定採用します。読みやすそうな漢字を先に選んで、その裏づけを後から探す順序にはしません。
歴史表記
日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 今回の図書館検索などでは、当時の日本語資料の該当紙面で、漢字形・読み・指す都市を揃えて確かめられていません。
国立国会図書館の「フランスの地図」は、Nantes : agglomeration : pocket atlasを紹介しています。ナントとその近郊の市街図を収め、表記はフランス語だという案内です。これは次に調べる資料を特定する手がかりになりますが、今回その地図帳の現物は閲覧していません。
書名のNantesを漢字へ置き換えたものが、その本に書かれているとは限りません。日本語の所蔵案内に片仮名のナントがあることも、日本語の歴史的な漢字用例が確認できたこととは別です。
今回の南特は現代中国語の公式用例に基づく採用です。いつ、誰が選んだ形なのか、日本語資料のどこに現れるかは未確定です。その空白を、町の有名な出来事や漢字の字義から埋めません。
日本語での用例
在フランス日本国大使館の領事出張サービスのお知らせは、本文でナント及びレンヌを対象に挙げています。ナントの会場名・住所にはNANTESもあり、片仮名との対応を同じ頁で確認できます。2025年5月15日付の案内です。
本稿が採る現代日本語名はナント。案内の日程を今年の開催予定として紹介するのではなく、この都市を日本語でどう表記しているかを確かめるために読みました。
ナントのンは独立した拍として書かれますが、漢字名の各字が日本語の拍へ一対一に対応するとは限りません。Nantesの末尾の文字を一つずつ読み上げる方式でもありません。今回は現地話者の音声を聴取していないため、フランス語の発音の精密な説明には踏み込みません。
中国語圏その他の表記との比較
中国駐フランス大使館の留学生との座談会の記録は、本文に南特外国学者之家と、その欧文名Maison des Chercheurs etrangers a Nantesを併記しています。漢字の南特が指す場所を、欧文のNantesと同じ段落で確かめられます。
この記録の掲載は2011年4月22日です。現在も公式サイトで読める用例ですが、2026年に新しく付けられた名前であるとも、この記録が漢字名の初出であるとも扱いません。
台湾の駐フランス代表処教育組の高等教育に関する記事にも、本文に**南特(Nantes)**があります。資料提供は2023年8月。さらにフランスの公的留学支援機関Campus Franceの動画紹介頁では、本文に南特中央理工學院とÉcole Centrale de Nantesが並びます。今回は紹介文の用字を読んだもので、動画そのものは視聴していません。
今回の簡体字・繁体字資料では、都市名の二字はともに南特です。「南にある特別な町」という意味で付けられたと説明する史料は確認していません。字義から地理や命名者の意図を推定するのは避けます。
二文字・三文字案の比較
南特
公式の中国語本文でNantesとの対応を確かめられる二字形です。中国大陸側・台湾側・Campus Franceの用例があるため、制定区分を既として採ります。日本語の音訓だけでは読みを完全に指定できないという限界も、そのまま示します。
南都
南のナン、都のトを使えば、日本語のナントへ近づけやすい二字案です。しかし南都は日本で奈良を指す既存の呼び方でもあります。ここではフランスのNantesへ転用する本誌の比較案であって、Nantesの歴史的表記を発見したわけではありません。読みやすさと引き換えに別の都市との混同を招くため、採用しません。
奈恩都
奈のナ、恩のオン、都のトを借りる本誌の三字案です。通常の読みをつなげればナオントとなり、ナントに合わせるには恩の母音を省くなど、特別な読みの約束が必要です。ンに一字を割り当てるつもりでも、字の普通の読みまで自動的に変わるわけではありません。
三字へ増やすことが、音の正確さをそのまま増すとは限りません。今回は、既存の用例と都市の同一性を根拠に南特を残します。
327,734人は自治体全体の人口
Inseeの自治体コード44109の表では、population municipaleは327,734人です。別計上人口4,781人を含むpopulation totaleの332,515人とは区別し、市域人口として前者を採ります。
人口の基準日は2023年1月1日。自治体境界の基準日は2025年1月1日、発効日は2026年1月1日です。三つの日付を保つことで、現在有効な人口版と、人口が表す時点とを取り違えずに済みます。
対象はNantesというcommune全体であり、Nantes Métropoleのような広域行政組織、近郊を含む連続市街地、都市圏とは分けます。図書館案内が述べる地図の「ナントとその近郊」も、今回の人口範囲ではありません。市内地区を別都市として重ねたり、広域人口と市域人口を二つの都市として数えたりしません。
教育の記事にNantesが登場しても、そこでの大学学区や学生数は自治体人口とは別の単位です。本稿は名前の確認に用いた記事から人口を取らず、人口はInseeの同じ市域版に揃えます。
所属国はフランス。日本国外務省のフランス基礎データが国家首都をパリとすることを確認し、ナントは国家首都に区分しません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ナント
所属国
フランス
暫定制定都市名
南特――既
制定状態
暫定制定・原典継続調査
公式本文の用例を根拠として二字を保持します。本誌が使う漢字都市名の暫定選定であり、日本語の公定表記を変更するものではありません。
採らなかった表記と未解決点
南都は別都市との混同、奈恩都は読みの追加指定が必要になるため採りません。両案は比較のために本誌がNantesへ当てはめたもので、Nantesを指す当時の原典用例としては示していません。
南特の初出と選字者、日本語歴史資料での漢字形は継続調査です。南特という漢字名、ナントという日本語名、Nantesという欧文名を対応させつつ、それぞれの文字体系の読みを一つの規則に押し込めないことを、今回の暫定案の条件とします。
参考資料
- 在フランス日本国大使館「領事出張サービスのお知らせ」、2025年5月15日付。本文のナントと会場住所NANTES。
- 中国駐フランス大使館「教育处朱小玉公参与南特学子座谈」、2011年4月22日。本文の南特とNantesの対応。
- 台湾教育部・駐フランス代表処教育組「高等教育に関する2023年8月提供記事」。本文の南特とNantes。学区・学生統計は市域人口に流用しない。
- Campus France「原來!法國人這樣看『留學法國』?!」。紹介文の南特中央理工學院とÉcole Centrale de Nantes。映像未視聴。
- 国立国会図書館「フランスの地図」、4-2-4。所蔵案内と地図原本の閲覧を区別。
- Insee「Populations de référence 2023 — Commune de Nantes (44109)」、POPREF T1、および2023年版総合説明。2025年12月版。
- 日本国外務省「フランス基礎データ」。国家首都パリ。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は万国漢字志 公式サイト・都市篇で公開します。
次回予告|都市篇 第百六十八号
次は確認済みフランス自治体の掲載順に従い、Montpellierを予定します。日本語名と漢字形は次稿で資料を確認します。
