万国漢字志

都市篇 · イタリア

万国漢字志 都市篇 第二百九十七号|ナポリ――「拿坡里」と明治資料の「那不児」候補――

台湾の公的資料にある拿坡里を採り、明治資料の文字レイヤーに残る候補と比べる。


海岸の街路とナポリの漢字表記

岩倉使節団の見聞録には、ナポリの宿から海に面した街路を眺めたくだりがあります。図題の文字レイヤーからは「那不児」が候補に上がります。本誌は台湾の公的資料でNapoliと対応する三字を採り、|拿坡里《ナポリ》と表記します。


歴史表記の候補

久米邦武編『特命全権大使米欧回覧実記』(博聞社、1878年)第四編第七十七巻の明治6年(1873年)五月二十日の記事は、駅から宿に向かい、宿の前の海岸や街路を述べています。

国際日本文化研究センターの公開資料の文字レイヤーでは、64頁の編集見出しが「ナポリ/那不兒」、同頁の図題が「那不児府海岸街路ノ景」と抽出され、63頁の本文抜粋にも「那不児府」が抽出されます。PDFがHTTP 503を返したため、該当頁の画像との照合は未了です。兒と児の違いが掲載頁の字形に由来するか、初版本にどの字形や振り仮名があるかは未確認です。


日本語での用例

鹿児島市は姉妹都市の紹介にナポリ市を使い、イタリア南部の海に面した都市として説明しています。在イタリア日本国大使館も名誉総領事の所在地をナポリと記します。本稿が添えるナポリはこうした現代の用例に基づく読みです。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の領事案内は港の名として那不勒斯を挙げます。台湾の僑務委員会は2026年の現地会合の報告で拿坡里を用い、同じ箇所でNaples、Napoli、別訳の那不勒斯を併記します。文字レイヤーの候補「那不児」と那不勒斯は冒頭二字が共通します。借用関係は未確認です。


二文字・三文字案の比較

那児

文字レイヤーの候補「那不児」から不を省く、本誌の二字の比較案です。この二字での用例は未確認で、児の通常の字音ではポリを表せません。

那不児

文字レイヤーから得た三字の候補です。那にはナの字音がありますが、不や児の通常の字音でポ・リを表せるわけではありません。印刷字形と当時の読みは照合を要します。

拿坡里

台湾の公的資料でNapoliと対応する三字です。日本語の字音で順に読んでもナポリにはならないため、|拿坡里《ナポリ》と都市名全体に現代日本語の読みを添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
ナポリ(Napoli)

所属国
イタリア

暫定制定都市名
拿坡里――既

制定状態
暫定制定・原典継続調査

台湾の公的資料にある現代表記に基づく「既」です。|拿坡里《ナポリ》のルビは本誌が添える現代日本語名です。

人口はイタリア国家統計局(ISTAT)の確定版で909,013人。自治体コード063049のNapoliについて、国勢調査の結果を反映した2024年12月31日の年末人口です。翌2025年1月1日年初と同じ時点の人口として扱います。集計範囲はコムーネ(基礎自治体)で、広域自治体や都市圏の集計とは区別します。


採らなかった表記と未解決点

那不勒斯は現代中国語の別表記として残します。今後の課題は初版本の字形と読みの照合、那不児の初出、同じ表記が都市以外に使われる場合の指示範囲です。『実記』の府や王という語を含む用例から、現代のナポリ市の境界を読み取ることはできません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百九十八号

次の都市は調査が整い次第案内します。