万国漢字志

都市篇 · モーリタニア

万国漢字志 都市篇 第二十八号|ヌアディブ――「努瓦迪布」と旧称を分ける

ヌアディブはモーリタニア北西端のラス・ヌアディブ半島にある港湾都市で、水産業と鉄鉱石輸出の拠点である。2023年人口は17万3,525人。

以前のnote記事を読む

四字の「努瓦迪布」を採る

都市篇第二十八号は、モーリタニア北西端の港湾都市ヌアディブです。

国連の中国語文書は、この都市を四字の努瓦迪布と記しています。1970年代の国連文書から2020年代の国連記事まで確認できる、都市への直接用例です。

今回は、この四字形をそのまま暫定制定都市名に採ります。

日本語史料に定着した漢字形は確認できていません。したがって、これは日本語の歴史表記を復元したものではなく、中国語圏の既存用例を現代日本語の都市索引へ取り込む暫定案です。


日本語では「ヌアディブ」

外務省と国際協力機構は、現代の都市名をヌアディブと記しています。外務省の政府開発援助資料はヌアディブをモーリタニアの第二の都市とし、国際協力機構はヌアディブ港を同国水産業の重要拠点として紹介しています。

過去の国際協力案件にはヌアディヴという形もあります。本稿と公式サイトは、現在の外務省・国際協力機構で継続して確認できるヌアディブを主表記にします。

国立国会図書館サーチの書誌情報を「ヌアディブ」と「努瓦迪布」で検索しましたが、都市の日本語漢字表記を確定できる書誌は確認できませんでした。検索結果だけで表記の不存在を証明することはできないため、古地図、新聞画像、漁業・航海資料は継続して調べます。


国連文書に続く「努瓦迪布」

1972年のアルジェリア、モーリタニア、モロッコ三国共同コミュニケを収録した国連中国語文書には、三国首脳による努瓦迪布最高級会議が記されています。同じ国連資料に収録された1975年の視察報告も、西属サハラとの境界に近い都市として努瓦迪布を記します。

1995年の国連文書では、モーリタニア政府関係者の前職に努瓦迪布の都市安全責任者が挙げられています。国連持続可能な開発グループの2021年の記事も、写真説明に毛里塔尼亚努瓦迪布港口と記しています。

古い外交文書、行政上の都市名、現在の港名という異なる文脈で、同じ四字形が使われています。この継続性を、制定形の根拠にします。


二字・三字へ縮めない

都市篇は、根拠があれば二字・三字の表記を優先します。しかし、努瓦、瓦迪布、努迪布などをヌアディブの都市名として用いた直接資料は確認できませんでした。

既存の四字から一字を落とすだけでは、どの音を残すか、どの用例を継承するかを説明できません。資料にない短縮は、表記史の整理ではなく新しい造語になります。

この号では、短さよりも国連文書で確認できる四字形を優先します。二字・三字の直接用例が見つかれば、改めて比較します。


日本語資料に残る旧称

ヌアディブはフランス統治期にPort-Étienneと呼ばれました。日本の外務省が公表した1968年版外交青書は、拿捕された日本漁船がポール・エチエンヌ港へ連行されたと記しています。

国際協力機構の2012年の予備調査報告書は、現在の国立漁業海洋研究所が、1950年に設立されたエチエンヌ港水産試験所を前身とすると記しています。ここでエチエンヌ港は施設名の一部として確認できるにとどまり、都市名そのものの漢字表記とは扱いません。

ポール・エチエンヌもエチエンヌ港も、エチエンヌの部分はカタカナです。そのため、歴史的漢字形には数えません。


旧称を付けた人物と献名された人物

モーリタニア通信社は、フランス領西アフリカ総督エルネスト・ルームが、当時の小集落をPort-Étienneと命名したと説明しています。名を捧げられたのは、フランスの元植民地相ウジェーヌ・エチエンヌです。

命名した人物はルーム、名前の由来になった人物はエチエンヌです。同じ人物ではありません。旧称を説明するときは、命名者と献名先を分けて示す必要があります。

フランス国立図書館は、ウジェーヌ・エチエンヌを1844年生まれの政治家で、植民地担当国務次官、内相、陸相などを務めた人物として記録しています。

一方、現在のNouadhibouという名称を最初に定めた人物は確認できません。旧称の命名者を、現代名や四字形の命名者へ読み替えないようにします。


1906年の計画と1907年の都市

モーリタニア通信社の資料は、現在のヌアディブに当たる都市計画が1906年に承認され、都市が1907年に成立したと説明しています。別の記事も、旧称Port-Étienneだった都市が1907年に生まれたとしています。

ただし、同通信社の掲載資料には旧称の命名日を8月15日とする記事と、8月17日とする記事があります。今回確認できた範囲では日付を一つに確定できないため、本稿は年だけを採ります。

モーリタニア国家警察の沿革は、1961年1月に同国最初の警察署がPort Etienneへ置かれ、その都市が後のNouadhibouであると記しています。この記録から、独立直後にも旧称が行政実務で使われたことが分かります。

現代名への正式な改称日と、その根拠法令は確認できませんでした。独立年だけから改称日を推定しません。


魚と鉄の港湾都市

モーリタニア通信社は、ヌアディブを漁業の周囲に形成され、のちに鉄鉱石輸出が加わった都市と説明しています。現在も同国の経済首都と位置づけられています。

国際協力機構によれば、ヌアディブ港は水産物輸出を支える重要拠点です。同機構は、衛生検査施設の再建や漁港整備を通じて、水産物の検査・輸出機能を支援してきました。

モーリタニア国営鉱工業会社SNIMは、鉱山から鉄鉱石を鉄道で運び、ヌアディブの積出港を運営しています。ヌアディブを理解するには、漁港だけでなく、内陸の鉱山と大西洋を結ぶ港として見る必要があります。


人口と位置

モーリタニア国家統計・人口経済分析庁ANSADEの2023年国勢調査は、ヌアディブ自治体の人口を17万3,525人と記しています。内訳は男性9万5,875人、女性7万7,650人です。

同じ資料は、ヌアディブ県の合計を17万7,077人、ダフラト・ヌアディブ州の合計を18万4,459人としています。ここでは州や県の合計ではなく、ヌアディブ自治体の17万3,525人を都市人口に採ります。調査は2023年12月25日から2024年1月8日に実施されましたが、統計名に合わせて人口年は2023年と表示します。

GeoNamesのNouadhibou(ID 2377457)が示す都市地点は、北緯20.94188度、西経17.03842度です。ダフラト・ヌアディブ州や同名の湾全体ではなく、市街地を示す地点を地図表示に使います。


首都ではなく州都・経済首都

モーリタニア外務省はヌアディブを主要都市の一つに挙げ、モーリタニア通信社はダフラト・ヌアディブ州の州都、かつ同国の経済首都と説明しています。

一方、日本の外務省が掲げるモーリタニアの首都はヌアクショットです。ヌアディブは州都・経済首都ですが、国の政治上の首都には該当しません。

州都、経済首都、国の首都は異なる概念です。ヌアディブの重要性を示しつつ、三者を混同しません。


三つの表記を分ける

努瓦迪布

国連中国語文書が都市へ直接用いる四字形です。

暫定制定都市名に採ります。

ポール・エチエンヌ/エチエンヌ港

日本の外務省と国際協力機構の資料に残る旧称の表記です。

都市の歴史を示しますが、日本語漢字形には数えません。

ヌアディブ/ヌアディヴ

現在の日本語資料で使われるカタカナ形です。

本稿は現在の外務省・国際協力機構で確認できるヌアディブを主表記にします。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の努瓦迪布を採ります。

根拠は、国連中国語文書で1970年代から2020年代まで都市への直接用例を確認できることです。字体を置き換える必要もなく、文字の追加や削除も行いません。

制定区分を創とするのは、日本語史料上の既存漢字形を継承するのではなく、他言語圏の表記を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ヌアディブ

所在地

モーリタニア

国連中国語文書で確認した漢字形

努瓦迪布

暫定制定都市名

努瓦迪布――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

二字の努瓦、三字の瓦迪布や努迪布は、ヌアディブを指す直接用例を確認できないため採りません。

未解決点は、日本語史料における漢字表記、現代名Nouadhibouの語源・命名者・正式な改称日、努瓦迪布の四字を最初に選んだ人物です。

旧称Port-Étienneの命名日には、モーリタニア通信社の掲載資料内でも8月15日と17日の差があります。原命令を確認できるまでは日付を確定しません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二十九号

次は、ヌアクショットです。

大西洋岸をさらに南へ進み、モーリタニアの政治首都ヌアクショットの漢字表記と、首都建設の命名記録を調べます。