三字の「諾克少」を採る
都市篇第二十九号は、モーリタニアの首都ヌアクショットです。
台湾外交部は、モーリタニアの首都を三字の諾克少と記しています。2012年の外交年鑑にも、国名、英語名、首都名、原語名を並べた一覧の中で同じ三字が確認できます。
今回は、この三字形を暫定制定都市名に採ります。
日本語史料に定着した漢字形は確認できていません。したがって、これは日本語の歴史表記を復元したものではなく、中国語圏の公的な都市名表記を現代日本語の都市索引へ取り込む暫定案です。
日本語では「ヌアクショット」
外務省は、モーリタニアの首都をヌアクショットと記しています。国際協力機構も、都市開発マスタープランや学校建設などの事業名で同じ表記を使っています。
国立国会図書館サーチの書誌情報を「ヌアクショット」「諾克少」「努瓦克肖特」で検索しましたが、都市の日本語漢字表記を確定できる書誌は確認できませんでした。
検索結果だけで表記の不存在を証明することはできません。旧外地資料、地図、新聞画像、外交・地理資料に別の形が残る可能性はあるため、日本語原典の調査は継続します。
台湾外交部の「諾克少」
台湾外交部の国別情報は、茅利塔尼亞の首都欄に諾克少(Nouakchott)と掲げています。2012年版の外交年鑑も、世界各国の国名と首都名を並べた表で諾克少をNouakchottに対応させています。
ウェブページだけの一時的な略記ではなく、少なくとも2012年の年鑑と現在の国別情報にまたがる公的な直接用例です。三字で完結し、都市篇の標準字数にも収まります。
ただし、台湾で使われる公的な中国語表記であり、日本語の歴史表記ではありません。表記自体には既存用例がありますが、日本語の都市索引へ新たに取り込むため、既刊の判定方針に合わせて「創」とします。
国連と中国外交部の「努瓦克肖特」
国連地名専門家グループの公開データベースは、Nouakchottの中国語形として努瓦克肖特を示します。国連中国語文書でも、1980年代から2020年代まで、モーリタニアの首都や開催地を表す都市名として同じ五字を確認できます。
中華人民共和国外交部の国別概況も、首都欄に努瓦克肖特(Nouakchott)と記しています。国際機関の地名データと国家の外交実務が一致しているため、単なる私的な翻字ではありません。
ただし、中国語の公的表記であることと、日本語で歴史的に使われたことは別です。本稿では、この五字を「日本語の旧称」とは呼びません。
二字・三字を比較する
三字の諾克少には、台湾外交部と外交年鑑の直接用例があります。字数を合わせるために五字形から削った案ではなく、別の公的表記体系で実際に使われている都市名です。
在モーリタニア中国大使館の記事には、ヌアクショット市を努市と縮めた二字の用例もあります。ただし、これは五字形の先頭字に「市」を添えた記事内の略称です。単独で都市名を示す標準表記とは位置づけられていません。
中国外交部の2019年の記事には、開催地を首都努瓦克とする三字の省略形もあります。同じ段落で大学名には五字の努瓦克肖特が使われているため、記事内で短くした形と読めます。
一方、努瓦、克肖特、努肖特には公的な直接用例を確認できませんでした。この号では、国別情報と外交年鑑で首都名として独立して掲げられる三字の諾克少を、文中の省略形である努瓦克より優先します。
都市名は首都建設より古い
モーリタニア通信社の記念誌は、1903年末にこの場所へ軍事拠点が置かれ、1927年にはクサールに砦が築かれたと説明しています。1957年に首都建設地として選ばれる以前から、Nouakchottは場所の名として使われていました。
同誌は名称について、井戸を掘ると水が現れ、風が吹き、貝殻が多い場所という説明と、塩分を含む牧草地という説明を併記しています。井戸をめぐる伝承も紹介されており、一つの語源に確定していません。
今回確認した資料からは、Nouakchottという地名を最初に付けた人物を特定できません。語源の複数説を、特定人物による命名記録へ置き換えないようにします。
首都建設を進めた人物
都市名の命名者は未確定ですが、首都建設を進めた人物は確認できます。
モーリタニア通信社は、政府評議会副議長だったモクタール・ウルド・ダッダが、1957年5月20日に地方議会で新首都建設計画を発表したと記しています。同年6月12日には、首都移転の決意を示す会合が現地のテントで開かれました。
1957年7月24日付のフランス政令は、領域の首府をサン・ルイからヌアクショットへ移すことを定めています。これは既存地名を新しく作る法令ではなく、行政中心の移転を定めた記録です。
国際協力機構の報告書は、ヌアクショットが1957年に首都として指定され、建設が始まったと説明しています。モーリタニア通信社の記念誌によれば、最初の礎石は1958年3月5日に、現在の大統領府の場所へ置かれました。
ダッダは独立後の初代大統領であり、新首都計画を発表し推進した人物です。しかし、Nouakchottという地名自体はそれ以前から存在します。そのため、ダッダを都市名の命名者とは扱いません。
国外の首府から国内の首都へ
フランス領西アフリカ期、モーリタニア行政の中心は現在のセネガルにあるサン・ルイに置かれていました。モーリタニア通信社の記録では、1957年に首府をモーリタニア領内へ移す方針が決まり、ヌアクショットが選ばれました。
当時の現地は、都市と呼べる建物がほとんどない砂丘地でした。新首都の建設は、独立へ向かう領域の行政中心を自国内に置き、北部と南部を結ぶ政治的な拠点をつくる事業でもありました。
モーリタニアは1960年11月28日に独立しました。ヌアクショットは、古い大都市がそのまま国家首都になった例ではなく、独立前夜に選ばれ、計画的な建設が始まった首都です。
砂丘から急拡大した都市
国際協力機構は、ヌアクショットをサハラ砂漠西端の大西洋沿岸に位置する都市と説明しています。市街地は標高20メートル以下の砂丘と細長い窪地の上に広がります。
1970年代の干ばつは、地方から首都への人口移動を加速させました。急速な市街地拡大に対して、道路、給水、排水などの都市基盤が追いつかず、低地の浸水や無秩序な開発が課題になっています。
国際協力機構は2016年から2018年にかけて、2040年を目標とする都市開発マスタープランの策定を支援しました。政治首都であるだけでなく、人口集中を受け止める大都市として見る必要があります。
2023年人口は144万6,761人
モーリタニア国家統計・人口経済分析庁ANSADEの2023年国勢調査は、ヌアクショット全体の人口を144万6,761人と記しています。
内訳は、ヌアクショット西部州20万4,881人、北部州61万4,465人、南部州62万7,415人です。三州には合計九つのコミューンがあり、単一自治体の人口ではありません。
ANSADEは三州の合計を「Nouakchott global」として集計しています。本稿と公式サイトでは、この首都市街地全体の値を都市人口として採り、範囲を都市的地域と明記します。
調査は2023年12月25日から2024年1月8日に実施されましたが、統計名に合わせて人口年は2023年と表示します。
位置と首都区分
GeoNamesのNouakchott(ID 2377450)が示す都市地点は、北緯18.08581度、西経15.9785度です。ヌアクショット西部・北部・南部の三州全体の重心ではなく、都市を示す代表地点として地図表示に使います。
日本の外務省はヌアクショットをモーリタニアの首都と明記しています。公式サイトの一覧でも、首都として表示します。
人口は三州を合わせた都市的地域、座標は都市の代表地点、首都区分は国家の政治上の首都です。三つの情報が示す範囲を混同しません。
三つの事柄を分ける
諾克少
台湾外交部が首都名として直接用いる三字形です。
暫定制定都市名に採ります。
努瓦克肖特
国連と中国外交部が都市へ直接用いる五字形です。
国連と中国大陸の公的表記として保存しますが、制定案には採りません。
Nouakchottの語源
モーリタニア通信社の資料にも複数の説明があり、確定できません。
地名を最初に付けた人物も未確定です。
首都建設
モクタール・ウルド・ダッダが1957年に計画を発表し、建設を推進しました。
これは都市名を付けた記録ではなく、既存地名の場所を新首都に選んだ記録です。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の諾克少を採ります。
根拠は、台湾外交部の国別情報と外交年鑑が、Nouakchottへ直接この三字を用いていることです。資料にある三字形をそのまま採り、文字の追加や削除は行いません。
制定区分を創とするのは、日本語史料上の既存漢字形を継承するのではなく、他言語圏の公的表記を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。三字そのものを本稿で新造した、という意味ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ヌアクショット
所在地
モーリタニア
台湾外交部で確認した漢字形
諾克少
暫定制定都市名
諾克少――創
制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査
採らなかった表記と未解決点
二字の努市と三字の努瓦克は、公的記事の文中に用例がありますが、いずれも各記事の中で長い都市名を短くした形です。国別情報と外交年鑑で首都名として独立して掲げられる諾克少を優先します。
努瓦、克肖特、努肖特は、ヌアクショットを指す公的な直接用例を確認できないため採りません。五字の努瓦克肖特は公的用例のある表記として残しますが、三字の既存形を優先します。
未解決点は、日本語史料における漢字表記、Nouakchottの語源と最初の命名者、諾克少と努瓦克肖特を最初に選んだ人物です。
モクタール・ウルド・ダッダは首都建設の計画を発表し推進した人物として確認できますが、都市名や三字・五字の漢字形の命名者ではありません。この区別は今後も維持します。
参考資料
- 外務省「モーリタニア・イスラム共和国 基礎データ」
- 国際協力機構「ヌアクショット市都市開発マスタープラン策定プロジェクト」
- 国際協力機構『ヌアクショット市都市開発マスタープラン策定プロジェクト 最終報告書 和文要約』
- 国際協力機構『ヌアクショット市都市開発マスタープラン策定プロジェクト 業務実施報告書』
- 国連地名専門家グループ「Nouakchott」都市データ
- 国連文書「E/C.2/2010/2/Add.8」中国語版
- 国連文書「A/41/616」中国語版
- 国連文書「S/2020/373」中国語版
- 中華人民共和国外交部「毛里塔尼亚国家概况」
- 中華民国外交部「茅利塔尼亞伊斯蘭共和國」
- 中華民国外交部『中華民國101年外交年鑑』付録「世界各國名稱一覽表」
- 中華人民共和国外交部「驻毛里塔尼亚使馆举办『欢乐春节』文艺演出」
- 在モーリタニア中華人民共和国大使館「驻毛塔大使武东携夫人王君亮拜会毛总统夫人」
- モーリタニア国家統計・人口経済分析庁『2023年国勢調査 総合報告書』
- モーリタニア国家統計・人口経済分析庁「2023年国勢調査 最終結果」
- モーリタニア通信社『Horizons Magazine』第17号
- モーリタニア通信社『Horizons』第8928号
- モーリタニア通信社「Kane Yahya: Les aînés se sont sacrifiés pour l’intérêt national」
- フランス政府「1957年7月24日政令」
- GeoNames「Nouakchott」
- 国立国会図書館サーチ「ヌアクショット」検索結果
- 国立国会図書館サーチ「諾克少」検索結果
- 国立国会図書館サーチ「努瓦克肖特」検索結果
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第三十号
次は、ロッソです。
大西洋岸からセネガル川へ進み、国境都市ロッソの漢字表記と、同名都市を区別する資料を調べます。
