万国漢字志

都市篇 · イタリア

万国漢字志 都市篇 第三百三十八号|ノヴァーラ――古代の Novaria と美術学院の「诺瓦拉」――

プリニウスの Novaria と現地美術学院の中国語案内に見える「诺瓦拉」を比較する。採用名は字形を調整した「諾瓦拉」(改)とする。


学院の案内に残る三文字

ノヴァーラのACME美術学院は、中国語の案内で自校を「诺瓦拉欧洲传媒美术学院」と呼んでいます。同じページの所在地には Novara, via Costantino Porta 25。漢字と原綴りが、学校の名前と住所を通じて結びつきます。

一方、日本の音楽大学の教員紹介には「ノヴァーラ市(北イタリア)」が登場します。美術と音楽の案内から、今使われている地名の形を確かめることができます。


歴史表記

プリニウス『博物誌』第3巻第124節には、Novaria という名が見えます。今回確認したのは The Latin Library のラテン語電子翻刻です。この箇所では都市の起源をめぐって、プリニウスがカトーの説と異なる説明を示しています。古代の著者のあいだにも、起源について説明の違いがあったことが読み取れます。

ここから確認できるのは、古代の本文に Novaria の名があるということです。地名を字ごとに分解した語源や、創建の年まで、この短い記述だけで決めることはできません。日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典画像で確認できていません。


日本語での用例

東邦音楽大学大学院の吉田裕史氏の教員紹介では、2011年の活動を記す箇所に「ノヴァーラ市(北イタリア)」とあります。公演の開催地として使われた、現代日本語のカナ表記です。本誌も都市名を「ノヴァーラ」とします。

この用例を、漢字地名が日本語で定着している根拠にすることはできません。カナでの使用と漢字表記の来歴は分けておきます。


中国語圏その他の表記との比較

現地のACME美術学院の中国語ページには「诺瓦拉」が含まれ、所在地の Novara と照合できます。これは学校自身が中国語の読者に向けて使っている現代の用例です。日本で古くから使われた当て字や、すべての中国語圏で統一された標準とまでは言えません。

「诺」を繁体字の「諾」に置き換えれば「諾瓦拉」となります。ただし、本稿では台湾などの機関がこの字形を用いた一次資料を確認できていません。字形を置き換えられることと、その地域での使用実績があることは別です。


二文字・三文字案の比較

以下では、本誌の短縮比較案「諾拉」、字形を調整して採る「諾瓦拉」、出典の引用字形「诺瓦拉」を分けて示します。今回確認した既存用例は「诺瓦拉」です。

諾拉

二字に縮める案です。中ほどの瓦を落とすため、「ノヴァーラ」の「ヴァ」に当たる部分を示しにくくなります。日本語では諾を「ダク」、拉を「ラ」などと読むので、この二字だけから都市名にたどり着くのも難しいでしょう。

諾瓦拉

三字を保ち、诺だけを諾へ置き換える案です。本誌はこの「諾瓦拉」を採り、既存用例を調整した「改」とします。これは台湾などでの使用例を新たに確認したという意味ではありません。

诺瓦拉

学校の中国語案内で確認した引用字形は「诺瓦拉」です。引用はこのまま残し、本誌の採用形「諾瓦拉」と区別します。日本語の音読みだけで「ノヴァーラ」と読める表記ではないため、カナを添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ノヴァーラ(Novara)

所属国

イタリア

暫定制定都市名

諾瓦拉――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

「改」は、現代の用例「诺瓦拉」を土台に、诺→諾と採用字形を本誌が調整したことを示します。出典の引用には元の字形を残します。日本語の伝統的な漢字表記として認定するものではなく、「ノヴァーラ」の読みを添えます。

ISTATの2024年人口収支確定表では、12月31日末の国勢調査調整後の住民人口は102,231人です。2025年1月1日初に相当する値で、自治体コード003106のコムーネ全域を対象としています。同名の県や周辺の都市圏の人口とは区別します。また、シチリアの Novara di Sicilia は、コード083062の別自治体です。


採らなかった表記と未解決点

諾拉は短縮比較案にとどめ、諾瓦拉を本誌の調整案として採ります。「诺瓦拉」の初出や命名者、日本語の歴史的漢字表記は引き続き調査します。古代の Novaria と現在の行政上の市域も、同じ範囲を表すものとして扱いません。

三字の既存用例は確認できても、そのことだけで日本語の読みやすさが解決するわけではありません。出典の引用字形と本誌の採用形を区別し、読みの限界も併記します。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第三百三十九号

次号の題材は、人口と都市の同一性の確認を経て案内します。