万国漢字志

都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第四十五号|ウスイ――三字「烏蘇耶」とジョラの聖なる王国

ウスイはセネガル南西端、ジガンショール州ウスイ県の県都。ジョラ=フルフの王制と聖林が受け継がれるカザマンス地方の小都市で、2023年のコミューン人口は5705人。

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三字と現地名Husuy

都市篇第四十五号は、セネガル南西端の県都、ウスイです。

前号のビニョナからカザマンス川を渡って南西へ進むと、森林と水田に囲まれたウスイがあります。行政上は小さな県都ですが、ジョラ=フルフの王制と聖林が今も地域社会の中心にあります。

現地のジョラ語では、この町を、

Husuy

と記します。フランス語の綴りOussouye、日本語のウスイ、中国語資料の、

乌苏耶

は、同じ地名をそれぞれの言語で写した形です。正字体へ直すと、

烏蘇耶

となります。ただし、中国語の公的資料で確認できるのは地区・県など同名行政区域の用例です。都市への直接用例とみなさず、県都の都市名へ暫定的に取り込めるかを検討します。


日本語では「ウスイ市」

在セネガル日本国大使館の2015年4月月報は、地雷事故の発生地を「ジガンショール州ウスイ県ウスイ市近郊のシガナール」と記しています。県と市を一文で区別した、日本語の公的な都市直接用例です。

JICAの保健システム事業報告書にも、ジガンショール州の保健区としてウスイが現れます。外務省海外安全情報は、カザマンス地方の道路区間に「ウスイ」を用いています。現代日本語では、このカタカナ形が継続して使われています。

国立国会図書館サーチでは、ウスイ、Oussouye、烏蘇耶、乌苏耶を分けて調べました。今回確認できた公開書誌と検索可能な本文からは、この都市を指す日本語の歴史的漢字表記を特定できませんでした。

これは、過去の日本語資料に漢字表記が存在しないという証明ではありません。旧フランス領西アフリカやカザマンス地方を扱う古い地図、地誌、軍事・通商資料には、全文検索できない画像本文も残ります。そのため、歴史表記は未収録とし、日本語原典の調査を続けます。


国連文書の「乌苏耶」

国連安全保障理事会の1965年中国語議事録は、セネガルとポルトガル領ギニアの国境問題を扱うなかで、乌苏耶地区行政长官、すなわちウスイ地区の行政長官に言及しています。

1968年から1969年の国境事件を記録した別の国連文書にも、村の位置を示す括弧書きとして乌苏耶が現れます。さらに、2023年の国連人権理事会文書は、地雷除去の対象地域に乌苏耶省を挙げています。

ここで確実に言えるのは、中国語の国連文書がOussouyeという行政地名に乌苏耶を用いてきたことです。地区や県の接尾辞を消し、都市への直接用例だと扱うことはできません。

世界気象機関の世界気象情報サービス中英都市一覧も確認しましたが、ウスイは収録されていません。都市IDによる英語名と中国語名の直接照合はできませんでした。

そこで、簡体字の「乌」「苏」を正字体の「烏」「蘇」へ直した烏蘇耶を、同名行政地名から県都へ移す暫定案として扱います。既存の日本語漢字名を発見したのではなく、根拠の範囲を限定した取り込みです。


県都であり、国の首都ではない

セネガル国土整備庁の公式地理データは、Oussouyeの集落点を県都に分類しています。ウスイはジガンショール州を構成する三県の一つ、ウスイ県の行政中心です。

一方、セネガル共和国の首都はダカールです。公式サイトの「首都」表示は国家首都かどうかを示すため、ウスイは首都ではないと登録します。紹介文では行政上の役割が消えないよう、ウスイ県の県都と明記します。

同じOussouyeという語が都市、コミューン、県、伝統王国を指します。人口や地名用例を扱うときは、どの範囲を示すのかを確認しなければなりません。


コミューン人口は5705人

セネガル国家統計・人口経済分析庁の『人口推計 2023―2073』は、2023年国勢調査を基準に、州、県、郡、コミューンを分けて人口を掲げています。

ウスイのコミューン行は、男性2907人、女性2798人、合計、

5705人

です。

同じ表にあるウスイ県5万4567人とは別の値です。都市一覧では行政範囲を揃えるため、コミューン人口の5705人を採ります。

セネガル国土整備庁の公式KMLは、県都Oussouyeの集落点を北緯12.48677134764055度、西経16.54446585006832度に置いています。小数第六位へ丸めた北緯12.486771度、西経16.544466度を地図に使います。

これは都市を示す集落点であり、コミューン境界の重心ではありません。人口の範囲と地図上の一点は役割が異なります。


OussouyeとHusuy

ジョラ語研究者Christian Sina Diattaは、一般にOussouyeと呼ばれる町の現地名をHusuyと記しています。フランス語で発音を近づけるならHoussouilleとなり、Oussouyeは現地名を十分に写していない外来の綴りだと説明します。

一方、出典書誌を欠く地名調査の再掲ページには、HusuyをHoussouyouneの音変化とし、Houssouyouneを地域に見られる猛禽の名だとする聞き取りが載っています。同じ文章は、植民地行政が現地語を十分に理解せずOussouyeという形を定着させた、と説明します。

二つの資料は、現地名Husuyを重視する点では一致します。しかし、猛禽名にさかのぼる説明は原資料の著者、提出先、調査年を確認できない未確定の聞き取り説です。Oussouyeの形成過程を一つの語源へ確定せず、現地名と植民地期の綴りの関係を今後も調べます。


王国の中心にある小都市

ウスイ県議会は、ウスイを県都であると同時に伝統王国の中心と紹介しています。研究者Jordi Tomàsは、ジョラ=フルフの王が政治だけでなく宗教、社会、紛争調停にも関わる聖なる王権を研究しています。Jean Baptiste Valter Mangaの研究は、この王国を十七村からなる前植民地期の政治構造として扱います。

この王国は、行政上のウスイ市やウスイ県と同じ境界ではありません。複数の村を結ぶ伝統的な領域と、近代国家の自治体・県を区別する必要があります。

王は地域の平和、食料、儀礼に関わります。セネガル文化省も、王の祭りHumeubeulを、伝統相撲と平和祈願を伴う文化行事として紹介しています。しかし、王をOussouyeという都市名の造語者とする資料はなく、王を都市名の命名者として記録する根拠はありません。

セネガル文化省の歴史記念物一覧には、ウスイの県知事公邸が登録されています。伝統王国の中心である一方、植民地期以後の地方行政拠点でもあったことを示す建物です。


都市名と漢字形の命名者

今回確認した資料からは、Oussouyeという綴りを最初に定めた個人を確定できませんでした。言語調査は植民地行政による音写の変形を指摘しますが、特定の命名者名までは示していません。

漢字形乌苏耶についても、三字を最初に選んだ人物と時期を確認できませんでした。国連文書の翻訳担当者を、そのまま表記の考案者とみなすことはできません。

そのため、都市名の命名者も漢字表記の命名者も未確認とし、王や行政官の人物名は記録しません。


二字案と三字形を比べる

烏蘇耶

国連公式中国語文書の同名行政区域表記に基づく三字形です。ウ・ス・イの三つの音のまとまりに対応し、都市篇で主流とする二字・三字の範囲にも収まります。

烏蘇

二字にできますが、末尾の「耶」を落とした烏蘇をセネガルのウスイ市へ用いる直接資料は確認できません。中国新疆の烏蘇という別地名とも重なります。

蘇耶

これも二字ですが、語頭の「烏」を落とします。確認した公的資料の用字ではなく、Oussouyeへの対応も弱くなります。

現地名Husuyを意訳する案も考えられます。しかし、猛禽名にさかのぼる説明は複数ある語源説明の一つです。聞き取り上の一説を漢字名として固定することは避けます。

今回は、既存の三字順を保つ烏蘇耶を採ります。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、三字の烏蘇耶を採ります。

根拠は、国連の公式中国語文書が同名地区・県を乌苏耶と表記し、セネガルの公式地理・統計資料が都市ウスイをその県都として明確に区別していることです。簡体字だけを正字体へ直し、字の順序と数は変えません。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのでも、中国語の都市名をそのまま移すのでもなく、同名行政地名の既存形を日本語の都市索引へ暫定的に転用するためです。「乌苏耶」という文字列を本稿が初めて作った、という意味ではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ウスイ

所属国

セネガル

中国語公文書で確認した同名行政地名

乌苏耶地区/乌苏耶省

暫定制定都市名

烏蘇耶――創

制定状態

暫定制定・都市への直接用例と日本語原典を継続調査


採らなかった表記と未解決点

二字の烏蘇と蘇耶は、ウスイ市を指す直接用例がなく、既存の三字形から音に対応する字を落とすため採りません。語源を意訳した案も制定候補にしません。

未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、中国語で都市を直接指す公的な乌苏耶の用例、HusuyとOussouyeの語形成、猛禽名にさかのぼる説の同時代的な裏付け、Oussouyeという綴りを定めた人物と時期、漢字形の初出と考案者です。

人口は2023年国勢調査を基準とするコミューン行です。県人口とは区別します。座標は公式地理データの集落点であり、行政境界の中心点ではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第四十六号

次は、カップスキリングです。

ウスイから大西洋岸へ進み、観光都市の名にある「岬」が各言語でどう表されたかを調べます。