万国漢字志

都市篇 · フランス

万国漢字志 都市篇 第百六十二号|パリ――「巴里」と「巴黎」、二つの二字――

パリの現用・既存漢字形を一次の公式用例で比較し、巴黎を既として暫定採用。人口は2023年基準、2025年境界、2026年発効の自治体PMUN2,103,778人で、市内区や都市圏を重ねて数えない。

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「巴里」と「巴黎」、一字の違い

パリを漢字にするとき、二字で書けることだけでは案を選べません。国立国会図書館の書誌には島崎藤村の『平和の巴里』があり、中国外交部の在仏大使館案内には巴黎があります。どちらも文字の実在を確かめられますが、確認した資料の種類は違います。

本稿では、現在の公式中国語用例を根拠に巴黎を暫定案とします。巴里を誤記として退けるのではありません。どの言語の、どの資料で確認したかを残しながら、二つの二字を比べます。


歴史表記

NDLサーチは『平和の巴里』を**島崎藤村著、左久良書房、大正4年(1915)**の図書として収録し、タイトルの読みを「ヘイワ ノ パリ」としています。ここから、巴里をパリと読む書誌上の対応が確認できます。国立国会図書館の公開書誌で確かめた事実です。

ただし、今回は当該図書の表紙・標題紙・本文の原本画像を確認していません。日本語の歴史的漢字表記について、当時の原本による確認は継続課題です。 書誌の文字と読みを確認した段階を、原本の用字・ルビまで見た段階と取り違えません。1915年を巴里の初出年とする根拠もありません。

カルナヴァレ博物館の「パリの起源」案内にはParisiiやLutèceが登場します。しかし、古い欧文地名を確認することと、日本語の漢字表記の歴史を確認することは別の調査です。欧文名の来歴から巴や黎の選字理由を逆算することはしません。


日本語での用例

日本国外務省の「フランス基礎データ」は、国家の首都をパリと記しています。本稿の現代日本語名もパリです。NDLの書名にある巴里と、現在の公的な国別案内にある片仮名のパリを、それぞれの文脈で示します。

巴里のパリという読みには、上記の書誌という具体的な支えがあります。一方、今回採る巴黎を日本語の通常音訓だけでパリと読める、と説明することはできません。本誌が同じ都市への表記として対応させるのであって、日本語の公定表記を置き換えるものではありません。


中国語圏その他の表記との比較

中国外交部の在仏外交機関案内は、大使館所在地を欧文でParis、中国語で巴黎と記しています。現行の公式案内における都市名の対応を直接確認できます。

この資料は中国大陸側の用例です。これだけを根拠に台湾・香港を含む中国語圏すべての表記が同じと認定することはしません。また、漢字の意味をつなげてパリの地形や市史を説明しません。ここで確認したのは名前の使用であり、漢字名の初出や命名者ではありません。


二文字・三文字案の比較

巴里

NDLの公開書誌に文字と読みの対応がある二字形です。日本語で読む際の根拠を具体的に示せる点は残す価値があります。今回は原本画像の確認が済んでいないため、歴史的用例の細部を確定せず、比較対象として保留します。

巴黎

現在の中国外交部の案内に、Parisと対応する二字形として実在します。今回の採用理由はこの確認可能な用例です。巴里から里を黎に機械的に変換した案でも、本誌が新たに作った当て字でもありません。制定区分は既とします。

波利斯

三字で音を細かく示そうとする本誌の比較案です。波・利・斯にパ・リ・スに寄せた読みを指定する必要があり、日本語名パリにはない末尾まで加えることになります。今回確認した既存用例ではなく、二字の実例を退けて採る理由はありません。


2,103,778人の「パリ」はどこまでか

Inseeのパリ自治体人口表には、2023年1月1日基準のpopulation municipaleが2,103,778人とあります。対象は自治体コード75056のパリ全体です。別計上人口15,634人を加えたpopulation totaleの2,119,412人を採用したのではありません。

境界の基準日は2025年1月1日、人口値の発効日は2026年1月1日です。「2026年に効力を持つ人口」と「2026年を基準に測った人口」は区別します。ここでは2023年人口を用いています。

市内20区はこの自治体の内側の区分です。区を一つずつ数えたうえで市全体をもう一度加えることはしません。また、周辺自治体を含む大都市圏やイル=ド=フランス全体の人口へ置き換えません。人口表の市域を、都市名が日常的に指す広がりより先に固定しておきます。


首都としてのパリ

外務省の国別資料が示すとおり、パリはフランスの国家首都です。本稿ではこの意味で首都に区分します。首都という地位と、何人を市域人口に含めるかという統計上の範囲は、それぞれ別の資料で確かめています。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
パリ

所属国
フランス

暫定制定都市名
巴黎――既

制定状態
暫定制定・原典継続調査

現在の公式中国語用例を支えに、二字をそのまま保持します。音写を新しく作ったとはせず、原本を見ていない日本語歴史資料の権威を借りることもしません。


採らなかった表記と未解決点

巴里は、日本語書誌に確認できる重要な比較対象として残します。今後、原本画像で標題や本文の用字・ルビを確認できれば、その証拠を加えて選定を見直せます。巴黎の初出・選字者、地域ごとの使用の広がりも今回の調査では確定していません。

波利斯は本誌が比較のために置いた案です。古い地図や地理書の表記として紹介しません。現地話者による発音の音声も今回は聴取しておらず、漢字二字でフランス語音のすべてを再現したとは考えません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は万国漢字志 公式サイト・都市篇で公開します。


次回予告|都市篇 第百六十三号

次は、確認済みのフランス自治体人口の掲載順に従い、マルセイユを扱います。馬賽と马赛の現用例を比べ、市内区と自治体全体の人口を区別して読みます。