三字の「聖路易」を採る
都市篇第三十一号は、セネガル北西部のサン=ルイです。
1960年の国連総会中国語議事録は、セネガルの歴史を述べる箇所で、この都市を聖路易市と記しています。台湾外交部の2003年の広報誌にも、セネガル北部の技術協力拠点として塞北聖路易分團という用例があります。
どちらも国名や地域を伴い、セネガルのSaint-Louisへ直接結び付く繁体字の用例です。末尾の「市」や「分團」は都市名そのものではないため、三字の聖路易を取り出して暫定制定都市名に採ります。
ただし、これらは中国語資料です。日本語で歴史的に定着した漢字表記を確認したことにはなりません。日本語原典の調査と、現代日本語の都市索引への採用は分けて扱います。
日本語では「サン=ルイ」
外務省のセネガル紹介資料は、フランスが商館を設けた都市、仏領西アフリカの総督府が置かれた都市としてサン=ルイと記しています。本稿と公式サイトでは、この表記を現代日本語名に採ります。
外務省の別資料にはサン・ルイ、サンルイという表記もあります。中黒、等号、区切りなしという違いはありますが、いずれもセネガルの同じ都市を指すカタカナ表記です。
国立国会図書館サーチで「サンルイ」「サン・ルイ」「サン=ルイ」「聖路易」を確認すると、米国ミズーリ州のセントルイスや人名なども検索結果に混在します。今回確認した書誌情報だけでは、セネガルの都市を日本語で聖路易と記した歴史資料を確定できませんでした。
検索結果だけで用例の不存在を証明することはできません。新聞画像、古地図、地理書、植民地関係資料に別の表記が残る可能性はあるため、日本語原典の調査は継続します。
国連文書の「聖路易市」
1960年9月28日の国連総会第876回会議は、セネガルとマリの国連加盟を扱いました。中国語版議事録では、フランス代表がセネガルとの接触の歴史に触れ、聖路易市が築かれて以来の関係を述べています。
同じ文脈にはセネガル国名があり、米国のSt. Louisやフランス国内の同名都市ではありません。年代、会議の議題、前後の国名から対象都市を特定できます。
ここで「市」は行政的な一般名詞です。三字の聖路易に一字を足して四字の都市名を作ったわけではありません。本稿では、都市名部分の聖路易と一般名詞の市を分けます。
台湾外交部の「塞北聖路易分團」
台湾外交部の広報誌『外交部通訊』2003年第1号は、セネガルで稲作支援に携わった農業専門家を紹介しています。その経歴には、セネガル北部へ派遣され、塞北聖路易分團を担当したとあります。
「塞北」はセネガル北部、「分團」は技術協力団の拠点を示す語です。都市名に当たる部分は三字の聖路易です。国名と活動内容が伴うため、対象をセネガルのSaint-Louisに限定できます。
1960年の国連議事録と2003年の台湾外交部広報誌は、時期も資料の種類も異なります。その両方で三字形を確認できることから、聖路易を一つの偶発的な表記とは扱いません。
中国大陸では「圣路易」
中華人民共和国外交部の領事サービス情報は、セネガルの水路交通を説明する箇所で、ダカール港などと並べて圣路易港を挙げています。
この「港」も一般名詞であり、都市名部分は簡体字の圣路易です。繁体字の聖路易と字の対応が明瞭で、三字の構成も変わりません。
繁体字資料と簡体字資料の双方に直接用例がありますが、中国語圏で使われることと、日本語の旧表記であることは別です。本稿では、表記の存在を根拠に採用しながら、日本語史料上の来歴を推測で補いません。
同名都市を文脈で分ける
Saint-Louisという地名は一つではありません。米国ミズーリ州のセントルイス、フランス各地のSaint-Louis、パリのサン=ルイ島など、同じ綴りを含む地名があります。
漢字の聖路易も、それだけでは対象都市を一意に決められません。国連議事録ではセネガルの国連加盟と同国の歴史、台湾外交部資料ではセネガル北部の技術協力、中国外交部資料ではセネガル国内の港湾という文脈を確認して、対象を限定します。
公式サイトの座標には、GeoNamesのSaint-Louis(ID 2246452)が示す北緯16.017931度、西経16.48962度を使います。これはセネガル川河口の都市地点であり、同名のサン=ルイ州全体を示すID 2246451とは別です。
NdarとSaint-Louis
セネガル国家統計・人口経済分析庁の地域報告は、この都市を**Saint-Louis(ウォロフ語ではNdar)**と説明しています。Ndarは、現在も用いられるウォロフ語名です。
同報告によれば、Saint-Louisという名はフランス王ルイ9世に敬意を表して付けられ、都市は1659年にルイ・コリエによって創設されました。世界遺産の評価資料も、同年にコリエが会社の要塞を置く島を選んだと記しています。
ここでは三つを分ける必要があります。Ndarは現地名、Saint-Louisは植民地期に付されたフランス語名、聖路易は中国語資料で確認できる漢字表記です。
ルイ9世は都市名の由来となった人物ですが、都市名を自ら作った人物ではありません。ルイ・コリエは建設者として確認できますが、今回の資料だけでは漢字形の考案者でも、命名行為を行った本人でもあると確定できません。そのため、公式サイトには命名者を記載しません。
川中島から広がった都市
サン=ルイの歴史地区は、セネガル川河口の島にあります。ユネスコは、島、河岸、岸壁、規則的な街路、植民地期の建築が都市の特徴を形づくると説明しています。
世界遺産に登録されているのは都市全域ではなく、歴史的な島を中心とする区域です。現在の市街地は、島だけでなく、大西洋側のラング・ド・バルバリーと大陸側のソルにも広がっています。
ユネスコの評価資料は、1828年の都市計画が街路を整え、1854年から1865年に都市化が進んだと記します。島の歴史地区を、現在のコミューン全体や州全体と取り違えないようにします。
西アフリカの旧行政中心
外務省のセネガル紹介資料は、1854年にサン=ルイへ仏領西アフリカの総督府が置かれ、1902年にダカールへ移ったと説明しています。ユネスコは、サン=ルイが1872年から1957年までセネガルの首都であり、西アフリカ全体でも文化・経済上の重要な役割を担ったとしています。
サン=ルイは、現在のセネガルだけで完結する都市史を持ちません。植民地行政、セネガル川の交易、教育、建築を通じて、現在のモーリタニアを含む広い地域と結ばれていました。
前号のヌアクショットでは、1957年にモーリタニアの行政中心をサン=ルイから領域内へ移す決定を扱いました。ロッソから川を渡り、今回はその旧行政中心をたどる位置づけです。
2023年コミューン人口は25万4,171人
セネガル都市開発庁の事業資料は、国家統計・人口経済分析庁の2023年国勢調査を出典として、サン=ルイ・コミューンの人口を25万4,171人と記しています。男性13万257人、女性12万3,914人で、合計も一致します。
本稿と公式サイトでは、このコミューン人口を採ります。サン=ルイ県の人口38万7千人台や、サン=ルイ州の人口120万人台とは範囲が違います。
都市名、県名、州名が同じため、数字だけを抜き出すと範囲を誤りやすい項目です。25万4,171人は都市のコミューン、38万人台は県、120万人台は州です。
国の首都ではない
外務省が現在のセネガルの首都として掲げるのはダカールです。サン=ルイはサン=ルイ州と同名県の行政中心ですが、現在の国家首都ではありません。
かつて首都だったことと、現在の首都区分は別です。公式サイトでは、歴史的役割を紹介しつつ、首都欄は非首都として表示します。
二字・三字案を比較する
三字の聖路易には、国連議事録と台湾外交部広報誌の直接用例があります。簡体字の圣路易も、中国外交部のセネガル情報に確認できます。
二字に縮めた聖路、路易には問題があります。聖路はSaint-Louis全体を直接指す公的用例を確認できず、路易はLouisだけに対応する人名表記です。どちらも、三字の直接用例から一字を機械的に落とした案にすぎません。
三字の聖路易は、既存資料にある形をそのまま採ることができ、都市篇で重視する二字・三字の範囲にも収まります。今回は短さのために根拠を削らず、直接用例のある三字形を優先します。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の聖路易を採ります。
根拠は、1960年の国連総会中国語議事録がセネガルの都市へ聖路易市を用い、台湾外交部の2003年広報誌もセネガル北部の拠点へ聖路易を用いていることです。中国外交部の簡体字形、圣路易も対応します。
制定区分を創とするのは、日本語史料上の漢字形を継承するのではなく、中国語圏で実際に使われる表記を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。聖・路・易の三字を本稿で新造したという意味ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
サン=ルイ
所在地
セネガル
国連・台湾外交部で確認した漢字形
聖路易
暫定制定都市名
聖路易――創
制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査
採らなかった表記と未解決点
聖路易市の市、聖路易分團の分團、圣路易港の港は、いずれも都市名に添えられた一般名詞です。制定都市名には含めません。
二字の聖路と路易は、セネガルのSaint-Louisを都市名として直接示す公的用例を確認できないため採りません。
未解決点は、日本語史料における歴史的漢字表記、Saint-Louisという名を実際に付けた人物、聖路易または圣路易という漢字形を最初に選んだ人物です。ルイ9世は名前の由来、ルイ・コリエは建設者として記録しますが、いずれも漢字表記の命名者とは扱いません。
参考資料
- 外務省『セネガル共和国話題集』
- 外務省「セネガル基礎データ」
- 外務省「世界の医療事情 セネガル」
- 外務省「セネガルの地方村落給水計画ほか一件に対する無償資金協力について」
- 国連総会「第876回会議」中国語議事録
- 台湾外交部『外交部通訊』2003年第1号
- 中華人民共和国外交部領事司「セネガル 交通出行」
- ユネスコ世界遺産センター「Island of Saint-Louis」
- ICOMOS「Saint-Louis (Senegal), No 956」評価書
- セネガル国家統計・人口経済分析庁『Situation Economique et Sociale de la région de Saint-Louis, édition 2024』
- セネガル都市開発庁『PROSE ZAED Ngalam-Ndiawdoune 環境分析報告書』
- GeoNames「Saint-Louis, Senegal」
- 国立国会図書館サーチ「サンルイ」検索結果
- 国立国会図書館サーチ「聖路易」検索結果
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第三十二号
次は、ダカールです。
サン=ルイから移された西アフリカの行政中心が、どのような漢字表記で記録されたかを調べます。
