万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百八十四号|サラマンカ――大学文書の年代と「薩拉曼卡」――

大学文書の確認と伝来を分けて読み、現代中国語をもとに薩拉曼卡を提案する。


文書には二つの年代がある

サラマンカ大学の展示で、1254年の「大憲章」と呼ばれる文書を調べると、1401年という別の年代が出てきます。内容が定められた時と、それを後の王が確認した時。古い名前を追う際にも、この違いを飛び越えずに読んでみたいと思います。

本稿の都市はスペインの Salamanca、INE自治体コード37274です。大学そのもの、世界遺産に登録された旧市街、同名の県と、現在の自治体全域を区別します。


歴史表記

サラマンカ大学のWeb展示は、1254年5月8日にアルフォンソ10世が与えた文書の内容が、エンリケ3世の1401年9月15日の確認文書に伝わると説明します。展示が挙げる所蔵番号は AUSA, C. 3, 1。1254年の制定と1401年の確認文書を、同じ時点の原物とは扱えません。

同展示の説明には「escolares de la uniuersidat del estudio de Salamanca」という文書からの引用があり、そこに Salamanca の名が見えます。これは大学による現代の解説中の引用です。公開された羊皮紙文書の複製画像も確認しましたが、原物を実見したわけではなく、画像の全文を自力で翻刻したものでもありません。

展示は学生の住まいや教員給与まで文書が扱うと紹介します。大学の歴史が、町での暮らしと接する箇所です。ただし、この文書が現在の自治体境界や都市名の初出を証明するとはいえません。日本語の伝統的漢字表記も、今回の調査では原典未確認です。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトの日本語版は、見出しの「サラマンカ」に Salamanca を併記します。本誌の現代日本語名はこれに合わせます。現在の観光案内に見える呼び名と、中世文書での用法は別々の証拠です。


中国語圏その他の表記との比較

ユネスコ世界遺産センターの中国語版では「萨拉曼卡古城」と、英語の Old City of Salamanca が同じ登録物件に対応します。ここから都市名部分「萨拉曼卡」の現代中国語用例を確認できます。「古城」は登録物件の性格を示す部分で、自治体人口の統計範囲を示す語ではありません。

本誌は四字の構成を保ち、「萨」を日本語で用いる「薩」に替えた「薩拉曼卡」を提案します。出典を示す際には原文の「萨拉曼卡」をそのまま残します。採用形と出典の字形が異なるため区分は「改」です。同じ四字の歴史的な日本語用例を確認したという主張ではありません。


二文字・三文字案の比較

薩卡

最初と最後を残す二字案です。「拉曼」を省くため、ラマンに対応させる部分をまとめて失います。本誌の比較用の短縮案です。

薩曼卡

「拉」を省く三字案です。後半は残せますが、サラマンカのラに対応する手がかりがなくなります。同形の都市略称の実例は今回確認していません。

薩拉曼

前から三字を残す案です。今度は末尾のカに対応させる「卡」を落とします。どの部分を省くかという選択であり、原用例より忠実な表記になるわけではありません。

四字の「薩拉曼卡」は標準の二字・三字を超えますが、確認した音写を省かないことを優先します。それでも、通常の日本語音読みを並べるだけでサラマンカとは読めません。カナと原綴りを添えて用います。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

サラマンカ(Salamanca)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

薩拉曼卡――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

INE年次人口センサス表68065の2025年1月1日の通常居住者は145,583人です。コード37274の municipio 全域であり、旧市街だけ、大学関係者だけ、サラマンカ県全体、周辺を含む都市圏の人口ではありません。2026年11月7日保存版を用い、独立した境界ポリゴンの版は未確認です。


採らなかった表記と未解決点

二字・三字の短縮案はいずれも本誌の比較案です。「薩拉曼卡」と同一字形の直接用例、日本語の伝統的漢字形、漢字表記の初出・命名者は要継続調査です。

大学文書についても、1254年の内容、1401年の確認文書、現代展示の引用と画像を区別しておきます。その伝来の確認が、歴史上の町と現在の自治体全域との同定まで完了させるものではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇

第三百八十五号はトレホン・デ・アルドスを取り上げます。